67.武闘大会――(出場はナシの方向で)
今日、俺は王都の冒険者ギルドに来ていた。イスノリスの街でAランク依頼のブラックワイバーン討伐を済ませた訳だが、その後、辺境の街の周辺でAランクの依頼が見当たらなかったためだ。
王都ならAランクの依頼が見つかるかも知れないし、王都にはなくてもAランク依頼の情報が入手できるかもと期待したからである。
で、見つかった王都でのAランク依頼なんだが……。
『王都で近々行われる武闘大会に於ける、要人の護衛――護衛対象、マジデ商会の商会長。依頼対象、Aランク冒険者相当』
久々に出たよ、テンプレ展開の武闘大会……。異世界テンプレの3大グダグダ要因の筆頭。まあ、新キャラを出したり、俺つえええ、する絶好の機会ではあるんだが、大概はどーでもいいようなバトルが延々と続き作品がダレる要因の一つになっている。
大抵、予選から始まって、予選を何回戦かやって本戦出場を決め、そっからまた本戦が何回戦もダラダラと続く。何より最悪なのは、仲間だったり、サブキャラだったり、主人公以外の対戦が間に挟まったりするので、いつまで経っても武闘大会が終わらないと言う事が多い。作品の更新を何ヶ月か見送って、最新話を読んでみたら、未だにやってた、と言うことも一度や二度の事ではなかった。
なので、俺は気に入って読んでいた作品でも、武闘大会編が始まると、ブックマークを外し、ブラウザをそっ閉じするのが常だった。
因みに3大グダグダ要因の他の2つは、ダンジョン編と学園編である。まあこっちは、元々作品の売りがダンジョンものだったり、学園での成長が意味を持つものだったりするので、一概にはグダグダ要因とも言えないのだが。
だが武闘大会編、テメーはダメだ――あくまでも個人の感想です。
閑話休題、依頼内容についてだが、なぜこんな依頼が出るのか。教えてホーリアさん!
「なんか最近、都合のいい女扱いされてませんか、私?」
「イエイエ、ソンナ事ナイデスヨ」
ホーリアさんの話だとこう言うことらしい。
武闘大会では、観戦だけではなく、当然賭けも行われる。むしろ賭けの方が本筋と言う感さえあると言う。まあ、元いた世界だと、お馬さんの競争でハズレ馬券が飛び交うアレって感じだよね。
で、元いた世界では公営(?)の某団体が賭金の受付、オッズの決定、払い戻し等を取り仕切っていた訳だが、こちらの世界では、各商会が共同となって運営を取り仕切っていると言う事だ。だが共同とは言いながら、実際には力を持った大商会が美味しいところを独占しているらしい。その筆頭がマジデ商会であり、中小の商会からは妬み僻みを受け、他の大商会からはその座を奪わんと、その命を付け狙われているらしい。マジでか!?
って事で、前述のAランク依頼が出たとの事。
いやこれ、正直な話、そんな凄腕がいたら、武闘大会の方に出た方が稼げるんじゃね?
「アマノ様は、出場されないんですの? 『俺つえええ』できますよ?」
いやだから、どこでそういう言葉覚えてくんの、ホーリアさん。
そもそも、俺がでたら弱い者イジメになるだろう。あるいは大会のルールによっては、俺が即負けする事もあり得る。例えば俺の得意とする対人用戦術と言えば、ノーガード戦法だ。敢えて相手の攻撃を受けまくって、逆に相手がダメージを受けるのを待つ、あるいは疲弊するのを待つ。だが俺は攻撃をいくら受けても平気だが、攻撃を受けまくった事で審判に止めらて負け判定されるかも知れない。
雷矢でアババババさせてもいいのだが、それこそ弱い者イジメだ。
なにより俺がつまらない。
そんな訳で、武闘大会への参加もマジデ商会長の護衛もナシだ。他を当たろう。
「なんか、いいAランク依頼って、ないっすかねー?」
やさぐれた気分と口調でホーリアさんに聞いてみる。
「私は冒険者ギルドの受付嬢じゃありませんから! もう一度、冒険者ギルドに行ってみたらいいんじゃないですか?」
ごもっとも、いってきます。――そして再び王都の冒険者ギルド。
「ナンシーさん、王都以外で、どこかAランク依頼って出てませんかねえ?」
「うーん、そうですねー。王都からだと西に徒歩で20日と大分遠くになるんですが、西の辺境の街ウェストルで、ワイバーン数匹の討伐依頼がAランク依頼で出てますけど」
よしソレだ! ワイバーンならベルでも狩れるし、数匹程度なら瞬殺できるだろう。西方面は初めて行くので、ナンシーさんからウェストルの街の周辺情報も聞いておく。
なんでもウェストルの街の北西には亜人の住む勢力圏があるそうだ。但しクレメンツ王国の領土としては扱われていないと言う。
そして南西にはゴルガニア王国との国境があると言う事だが、ちょっとした山脈に遮られているそうだ。ワイバーンはその山脈の麓から飛来してくるらしい。
王都の冒険者ギルドを辞去した俺は、徒歩で王都を出た。西方面の街道をやや外れて進み、探知で周囲に人影がない事を確認すると、飛行魔法に移行。徒歩で20日となると、約600㎞。飛行でも4時間近くかかるので、ドラゴンに戻っての飛行で行く事にした。
目撃されて驚かれても困るので、人化での飛行時よりも高度を上げる。周囲に結界を張って、風圧の遮断と共にベルの呼吸を確保。音速の6割程の速度で飛んで行った――もっとも正確な速度とか分からないので、大体そんな感じって事で。
1時間も経たない内にウェストルの街が見えてきた。俺は人化し直した後、適当な距離で地上に降り徒歩で向かった。
西の辺境の街ウェストルは、俺のホームタウンである南の辺境の街ヘイグストよりも一回り程小さい感じだった。
門番に冒険者ギルドの場所を聞き、そちらに向かう。
「こんにちはー、こちらにAランクの依頼があるって聞いて来たんですけど」
「何言ってんのコイツ? Aランク依頼ってアレだろ、ワイバーンの討伐。コイツ、ワイバーンって知ってて言ってるのか、馬鹿だろ」
「時々、いるんだよ。こう言う身の程知らずな馬鹿。大方、中級冒険者にでも成り立てで調子に乗ってんだろ」
はいはい、周囲の冒険者さん達、お静かにねー、俺は受付の人にお話してますからねー。って、アレ? なんで受付が反応しないの。
「ちょっと、受付さん。聞こえてますか?」
「俺に言ってるのか?」
「今、受付カウンターにいるのは、貴方だけですから」
「たしかにそうだが、Aランク依頼がどうとか寝言しか聞こえてこなかったんでな」
ギャハハハハと後ろで爆笑する冒険者たち。ヤレヤレ、ここも程度が低いらしい。
「どうやら職務放棄してるようですね。貴方では話にならないようなので代わりにここのギルドマスターをお願いします」
「なんだと?」
「よくよく耳が悪いようですね。それとも悪いのは頭ですかね」
「よし、その喧嘩買ったぞ!」
受付カウンターをヒラリと飛び越えた受付が両手の指をポキポキ鳴らしながら向かってくる。冒険者たちに絡まれるケースはあったけど、まさかギルドの職員から絡まれるとは思わなかったな。
「俺はギルカスさんに銀貨1枚!」
「俺もギルカスの旦那に銀貨1枚だ!」
「馬鹿野郎、それじゃ賭けにならねーだろ」
「ギャハハハハ」
「お前が売った喧嘩だ、恨みっこなしだぜ!」
俺は両肩を竦めて、ヤレヤレのポーズだ。やるならさっさと来い。ノーガード戦法が火を吹くぜ。
受付の男は、右手を振りかぶり、俺の顔面を強打――する直前に寸止めで拳を止めた。
「ちっ! 俺も焼きが回ったようだな」
「どうしたんだギルカスの旦那?」
「そうだぜ、生意気なガキには教訓をくれてやらんと」
「そうだそうだ、そいつのためにもならねえぜ」
「うるせえ、てめえら! おいお前、ギルド登録証を見せてくれ」
なんだか風向きが変わったみたなので、俺は素直にギルド登録証を渡す。
「こいつぁ……、Aランク冒険者か。ホントに焼きが回ったようだな」
「マジでぇ?」
「こんな奴が、Aランク冒険者?」
こんな奴とか言うな! まあ、外見はアレだけどさ。
「こいつは俺が悪かった。俺はここのギルドマスターをしているギルカスと言う」
って、お前がギルドマスターだったんかい!




