60.Bランク冒険者ルカ
その日、俺は冒険者ギルド併設の酒場で、アシモフさんやディックさんのパーティー仲間と共に、狩場の情報交換や雑談と言う名の飲み会をしていた。
するとそこに一人の女性冒険者がやってきた。
「アシモフさん、久しぶりー」
「あん? おお、ルカじゃないか、久し振りだな。大体1年振りぐらいか?」
「あー、うん。そんぐらいかな」
「おー、ルカじゃねーか。ひさしぶり!」
ディックさんも挨拶をし、周りの面々も「久し振りだな」と口々に声を掛ける。なんでも、一年前に護衛任務で辺境の街から王都に向かい、そのまま王都で冒険者をしていたらしい。
「そんでルカはまたこっちで冒険者稼業でもするのか」
「うん、そのつもり。聞いて聞いてアシモフさん、アタシもやっとBランクになれたんだよ」
そういって、Bランクの刻印がされた冒険者ギルド登録証を取り出し、誇らしそうに見せてくる。
「おー、やったじゃないか。おめでとう」
周りのみんなも、知り合いの快挙を素直に誉め讃える。
「ありがとー! ありがとー!」
ルカさんも誉められて、実に嬉しそうである。
「でもよ、Bランク冒険者になったんなら、王都の方が稼げるんじゃないか?」
王都の方が冒険者の数は多い。当然、AランクやBランクの冒険者の数も多い。となれば、同じパーティーを組むにしても、より実力が高いランクの冒険者同士で組んだ方が稼げるのである。
「うーん、そうなんだどさ……。王都って、なんかあくせくして忙しないって言うかさ。物価も高いし……。アタシはこっちの方がノンビリしてて性に合うよ」
「なんだよ、まるでこの街の冒険者が怠け癖のあるノンビリ屋みたいじゃないか」
「えっ! 違う違う。そういうんじゃないんだって!」
「おい、ディック、あんまりルカをからかうな。こいつはマジメな奴だから、お前の冗談は通じてないぞ」
焦ってアワアワしだしたルカさんにアシモフさんが助け舟をだしてやる。
「はっはっは、そうだったな。ルカ、冗談だ、冗談」
「んだよ、冗談かよー。ビックリしたー」
「んで、Bランクに昇格したのを機に、こっちに戻ってきた感じか?」
「ああ、うん。王都で凄い物も拝めたし、もういいかなーって」
「凄い物?」
「うん、そう! なんだと思う?」
「王都で凄い物って言われてもなー」
「えっと、ヒントはオークション」
ん? オークションだと? なんか凄く心当たりが……。
「なんか王都のオークションで、凄い物が出品でもされたのか?」
「うん、そう! 正解は、アースドラゴンでしたー」
ブッ! やっぱそうか……。
「どうした、<鉄塊>さん、突然噴き出したりして?」
「ゲッホ、ゲホ。ああ、いや、ちょっと咽ただけだ」
「アレ? そう言えば、アンタ見ない顔だね? 新人さん?」
まあ、ギルド登録してから、まだ4ヶ月も経ってないし、新人と言えば新人だな。
「ええ、まあ。新人……、ではありますね」
「おい、ルカ。この<鉄塊>さんはな――」
説明しようとしたアシモフさんの腕を引っ張り、ウィンクして止めるディックさん。
「テッカイさん? なんか妙な名前だね、アンタ」
ディックさんが、顔を背けて肩を震わせている。全くこの人は……。アシモフさんは肩を竦めて「ヤレヤレ」のポーズである。
「それでアースドラゴンはどうだったんです?」
話題そらし、話題そらし、っと。
「あっ、そうそう。もう凄かったよ! オークションの当日に開場前でちょっとの時間だけ公開されたんだけどさ。傷ひとつさえなくて、まだ眠ってるような感じだったよ」
「でかかったか?」
「すんごくでかかった! 体長で言うと、レッサーワイバーンの5倍ぐらいなんだけどさ、とにかく胴体が太くてずんぐりむっくりしててさ。あんなのと出会ったら、アタシなら即行で逃げ出すね」
「どこかの騎士団でも狩ったのかねえ?」
「いや待て、傷ひとつ付いてなかったんだろ? 騎士団にそんな真似はできないだろ」
「それが、Aランク冒険者が狩ったって言う情報だけで、後は内緒なんだってさ」
「毒でも盛ったのかねえ?」
うーん、やっぱり無傷で倒したってなると、毒を盛ったと言う発想になるのか……。
「それで、アースドラゴンも勿論凄かったんだけどさ、落札価格がまた凄くてさ」
「白金貨で4、5枚ぐらいいったか?」
「そんなもんじゃないよ。なんと白金貨で21枚超えだよ!」
「マジでかっ!」
うん、マジデ商会の商会長もそう言ってたよ。
「20人のクランで討伐したとしても、一人、白金貨1枚の稼ぎかよ、すげえな!」
「何人で討伐したのかは知らないが、大儲けだな、そのパーティー」
クランでもパーティーでもないけど、はい、お陰様で。
「ルカのお陰で中々面白い話が聞けたな」
「そうだな……。そのお礼と言う訳でもないが、明日辺りこのメンツで、ルカのBランク昇格記念の狩りにでも行ってみないか?」
「ふむ、たまには大勢での狩りって言うのもいいな、俺はいいぜ。みんなはどうだ」
みんなも異存はないようだ。なら、俺もたまにはパーティープレイでもしてみるか。どうせこの間のワイバーン討伐で、手の内もバレてるしな。
「それでいいか、ルカ」
「うん、嬉しいよ。みんなありがとう。……、でもこっちの新人クンも連れて行くの? 大丈夫?」
「「「「「心配ない、大丈夫だ」」」」」




