58.お土産とお仕置き
「ただいまー」
屋敷に帰ってくると、ホーリアさんが待っていた。
「まだいたんですか、ホーリアさん」
「まっ! つれないお方……。で、首尾の方は?」
うわー、結構現金だな、ホーリアさん。
「まあ上手いこといきましたよ」
「ではブツを拝見しましょうか」
一体、物なのか仏なのか? なんちて。
と、言っても屋敷の中じゃ手狭だし、庭だと目撃されそうだしなー。
「大丈夫ですよ、不可視の結界を張りますから」
「不可視の結界?」
「ええ、中から外は見えますが、外から中は見えない結界です」
それって、どこのマジック・ミ……おっと、それ以上はいけない。そもそもアレは、外から中は鏡……。閑話休題。
「もういいですよ」
「中からだと結界の有無がサッパリ分からないんですが」
「大丈夫ですから」
まあ、そう言う事なら出しますけどね。
「聖女様、こちらになります」
「ふむふむ、非常に理想的な状態ですね。グッジョブです!」
ビっと、サムズアップするホーリアさん。って、待て待て待て、一体どこで覚えた?
「毒は使ってませんよね?」
アッガスさんみたいな事を……。
「雷魔法ですよ」
「なるほど……わからん」
わからんのかぁーい!
「雷が落ちると、ビシっとか、バチっとか、ピッシャーンとかなるでしょ。それで神経が焼き切れる? みたいな感じ。威力が低いと身体が痺れるだけなんだけどね」
「そうなんですか。まあ何となく雰囲気は分かりました。となると、体内の損傷もあまりなさそうですかね?」
「多分ね。でも正直、自信はないかな」
「まあ、そちらは解体担当に聞いてみますか」
「やっぱり解体はするんだ」
「そりゃあ、剥製にするとしても、お肉とか魔石とか取り出しますし」
「ああ、なるほど……、って、剥製にすんの?」
「これがまた、高位貴族に高値で売れるんですよ、グフフ」
グフフて! 悪い顔になってますよ、聖女様。てか物欲に塗れた最上位ドラゴンって、どうなの?
「いやー、人間ってホント面白いですよね」
アンタもな、ホーリアさん。
と言う事で、アースドラゴンはホーリアさんに預けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「馬鹿な! 魔獣撃退の魔道具を西の辺境伯に贈っただと!? 西の辺境伯と言えば、打倒クレメンツ王国の急先鋒だぞ。どこの馬鹿が贈ったんだ?」
ガルガン帝国魔道具研究所の職員が叫びを上げた。
「魔法省のバカ大臣閣下だよ。国外への売り込みが失敗したから、国内で資金稼ぎをしようとしたらしい」
「それで、魔獣撃退の魔道具は? 西の辺境伯はもう使用したのか?」
「西の山脈で使用したらしい。山脈に住んでいたアースドラゴンをクレメンツ王国に押し付けられて大喜びしてるらしい」
「馬鹿か! アースドラゴンは下位のドラゴンではあるが、温厚なドラゴンではないか! 実際、辺境伯領でも問題はなかった筈ではないか。押し付けた所でどうなると言うのだ」
「確かにアースドラゴン自体は温厚だが、押し付けられたクレメンツ王国の方では問題が起きるぞ」
「どういう事だ?」
「クレメンツ王国側の山脈に魔獣撃退の魔道具を置いたと考えればいい」
「ああ、なるほど、山脈の魔獣どもが各地に逃げ出すと言う事か」
「その通り。そう言う意味では、西の辺境伯の狙い通りと言う事だ」
「馬鹿な! 王国の<魔女>が動いたらどうするのだ!」
「まずい事に、味をしめた辺境伯が更に魔獣をクレメンツ王国にけしかけようとしているらしい」
「ちょっと待て……、俺溜まってる有給休暇の使用申請してくるわ」
「おいこら! 俺を置いて、行かせはせんぞ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「との事です、ホーリア様」
「なる程、事情は分かりました。ヤーズ、ちょっと領空侵犯してガルガン帝国の西の辺境伯領に赴いて下さい。そして魔獣撃退の魔道具に追われている魔獣どもに、上位竜の武威を示し、格の違いを見せつけてやりなさい」
「御意!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日、ガルガン帝国の帝都に急報が伝えられた。西の辺境伯領にて大規模な魔獣の氾濫が発生。
但し、関係者の証言によると氾濫の兆候は一切見られなかったと言う。
辺境伯本人の指揮による領軍の行軍演習の最中に氾濫が発生。これにより辺境伯は落命、領軍は壊滅的な被害を被り、辺境伯領の街や村も甚大な被害を出した。尚、生き残った領軍の一部の兵士たちは黒い竜を見たとの供述をしているらしいが、竜による直接的な被害は一切報告されておらず、魔獣の氾濫により情報が錯綜しているのであろうと判断された。
また、西の辺境伯領の件とは関わりがないが、魔法省の大臣が急死したらしい。病死と言う発表が行われたが、なぜか葬儀に於いて遺体は伏せられ、弔問客は黒い棺にのみ対面する羽目となった。
更にどうでもいい話ではあるが、魔道具研究所の職員が二名ほど辞職したらしい。優秀な職員だったらしく研究所の所長が必死で慰留に努めたらしいが「命には代えられない」として頑として聞き入れなかったと言う。
魔法省の大臣の急死と、魔道具研究所の職員二名の退職により、とある魔道具の開発が頓挫したらしい。
ガルガン帝国皇帝は魔道具の再開発を厳命したが、亡くなった魔法省の大臣は資料の保管を怠っており、研究所の所長も退職した職員からの引継ぎをしていなかった。この為、大臣の貴族家はお家断絶、研究所の所長は馘首となった(物理的にも)。




