43.オーガの集落
そういや、以前の魔獣の森騒動の時に気付いたんだけど、魔獣の森って、魔獣の数こそ多いけど、名前の割りに最高でBランクの魔獣しかいないんだよな。
まあ、Aランク冒険者への昇格条件的には、Bランク魔獣の討伐でも不足はないし問題はないんだけどね。
その後、魔獣の森がどんな状況になっているか気になったので、ベルをお供に見に行く事にした。
てか、ベルの奴、置いていくと拗ねるんだもんよ。
以前、探知した時のBランク魔獣と言えばデス・オーガだっけかな……? デス・オーガ、デス・オーガっと。お、探知に感あり。
俺はデス・オーガを目指して進んでいく。道中の雑魚い魔獣の相手は面倒臭いので、運動がてらにベルにお任せした。
あ、いたいた……ってアレ? アレって昔出会った奴じゃないか? 特に隠す気もなく近づいたので、デス・オーガはこちらに気付いて問いかけてきた。
「ウガッ、アナタ、サマ、ハ!?」
「よお、久し振りだな。俺の事は覚えているか」
「オボエテ、イル。ツヨキ、カタ、ヨ」
前に力を示したせいか、なんか好意的だな。
「ツヨキ、カタ。ワレラ、ノ、ムラ、ショウタイ、シタイ」
「ん? デス・オーガって、そんなに数いるのか?」
「デス・オーガ、オレ、ダケ。アト、ハ、オーガ」
なるほどオーガの集落か。んで、こいつは集落の長って感じなのかな。せっかくだし、招待されてみるか。
デス・オーガに着いて行くと、開けた場所があり、掘っ立て小屋レベルの建物が散在していた。探知してみると凡そ100体ほどのオーガがいるようだった。
人間――の姿をした俺――を見て、過剰反応する個体が多かったが、デス・オーガが「ウガッ」と威嚇すると、すぐに静まった。
オーガの方は人語こそ話せないが仲間内での意思の疎通はできているようだ。
デス・オーガが大きめな倉庫の様な建物に入っていく。長であるデス・オーガの家なのだろうか?
「コレ、ヲ、ケンジョウ、スル」
見るとそこにはちょっとした金銀財宝と数百人分の武器や防具が積まれていた。
武器や防具は一部を除いた大多数がデザインが統一された物であり……、あーこれって、やっぱりアレだよな、コステロ王国の……。
さすがにそれらの武器、防具を貰う気にはなれなかった。貰ったところでコステロ王国の意匠が施された武器や防具では、下手に売る事もできないし処分に困る。亜空間収納に入れておく手もあるのだが、死蔵する事になるだけだしな。
なので、武器や防具はオーガの集落で使えと伝え、オーガが持っていたところで使わないだろうと思われる金銀財宝の類を貰う事にした。
「お礼と言う訳でもないんだが、最近なにか困った事とかないか?」
「ウガッ。コノマエ、ドラゴン、ノ、ケハイ、シテ、モリ、ヲ、ニゲダシタ」
あー、はいはい、アレね。
「デモ、ニゲダシタ、サキ、ニ、モット、ツヨキ、ドラゴン、ノ、ケハイ、シテ、モリ、ニ、ニゲカエッタ」
うんうん、いやな事件だったね……俺とホーリアさんの仕業だったけど。
「モリ、デ、ドラゴン、ノ、ケハイ、ナク、ナッタ」
まあ、コステロ王国の魔道具は回収したしな、ホーリアさんの命を受けたヤーズさんが。
「デモ、サイキン、デカイ、ダイジャ、アラワレタ。オーガ、タベラレル。コマッタ」
んん? デス・オーガや集団での脅威度がBランクのオーガが対抗できない大蛇とかいたっけか?
大蛇と言えばキラーヴァイパーがいたけど同格のBランクだし、そもそもこの森にAランクの魔獣はいなかった筈じゃ?
「ちょっと待っててくれな」
首を捻りながら森全体に探知をかけてみる。と、いたよAランクの魔獣のフィアーヴァイパーが……。
詳しく鑑定してみたところ、フィアーヴァイパーはキラーヴァイパーの進化個体であり、ある程度、歳を経た個体が、より上位の敵性体を認識した場合、その恐怖から防衛反応で進化するらしい。
自分が恐怖の存在と言う意味でのフィアーなんじゃなくて、自分が恐怖を感じたって事でのフィアーかよ!
ん? Bランクのキラーヴァイパーが恐怖を感じる程の上位の敵性体なんていたっけか?
あ……、最近進化したばかり? Bランク魔獣が恐怖を感じる程の上位の敵性体? あー、なんか、いたよね。
って、また俺のせいかよぉおおおおおお! いや、俺だけじゃなくてホーリアさんもいたし!
よし、しょうがない、退治しよう、そうしよう。
デス・オーガにそう伝えると、デス・オーガとオーガの戦士が数体付いてくると言う。いや、付いて来るのは止めないけど、くれぐれも手出し無用だからね!
正直、足手まといだし、一人の方がやりやすいんだが……。
探知した場所に向かうとトグロを巻いた小山大の大蛇がいた。キラーヴァイパーが10m級なのに大してフィアーヴァイパーは15m級。
まあ大きさは然程でもないのだが、進化を遂げた外皮がとにかく硬い。試しに氷矢を撃ってみたが、刺さりはするものの貫通しない。ダメージも殆ど受けていないようだ。
雷矢も撃ってみたが魔法抵抗も強化されている様で、いつもの威力だと余り効いてる感じがしない。
もっと威力を上げてもいいんだが、オーガたちを巻き込みそうだし……ちょっと攻めあぐねる。やっぱりオーガたちは置いてくるんだったか……。
悩んでいるとフィアーヴァイパーは巨体での巻き付き攻撃をしてきた。巨体のくせに中々いい締め具合だ。俺には通じないけどな。さてどうしたものか。
うーん……、なんか考えるのが段々と面倒くさくなってきた。
うん、考えるのをやめよう。俺は人化を解いてドラゴン状態へと戻ってみた。その瞬間、巨大なドラゴンと化した俺への巻き付き攻撃が仇となって四分五裂に千切れ飛ぶフィアーヴァイパー。
デス・オーガとオーガの戦士たちは口あんぐりさせて硬直。
あ、やっべ! 急いで人化する。パニックによる潰走はなんとか防げたが……そこには土下座するデス・オーガとオーガの戦士たち。
「あ、いや、今のなし。気のせい、気のせい。うん、アレだ、幻術。そう幻術」
「ゲンジュツ、デ、ダイジャ、フキトバナイ」
あ、うん、そだね……。意外と冷静だね、君。
遠い目をしつつフィアーヴァイパーの残骸に目をやると、そこには空気を読まずにフィアーヴァイパーの肉を齧ってるベル。
「ベル……。おいしいですか」
「「「がぁう」」」――『うんっ! もぐもぐもぐ』
「マサカ、ドラゴン、サマ、ト、ハ」
「あー、それ内緒な」
デス・オーガ相手に、誰に対しての内緒なのかと我ながら意味不明だが、とりあえず内緒にしておく。
「ま、まあアレだ。頭の部分とか魔石は貰うとして、肉とか千切れた身体の部分はオーガの村で片付けてくれ」
「ウガッ! カンシャ、スル」
「んじゃ、また来る事もあると思うけど、なんか困った事があれば力になるから言ってくれなー」
そう言い残して、俺はベルを抱き上げるとそそくさと魔獣の森を後にした。
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「ステラさーん、ヴァイパー系の討伐部位って牙でいいんだっけ?」
「そうですね、ヴァイパー系は基本的に牙ですね。なんかまた珍しい魔獣でも狩ってきたんですか?」
「ああ、これですね」
頭だけならそう邪魔にもならないだろうと、収納からフィアーヴァイパーの頭を取り出す。ステラさん、卒倒。
「すっげー! さすが<鉄塊>さん、マジ<鉄塊>」
その後、気を取り戻したステラさんに、メチャクチャ説教された。
なぜだっ?




