41.ベル頑張る
今日、俺はベルを連れて辺境の街の外へとやってきていた。辺境の街から徒歩で半日の草原に降り立つと、探知で周辺に人気がない事を確認する。
実は、先日の魔獣の森騒動の一件で『置いて行かれたー!』と憤慨していたベルだったが、人化を解いたドラゴンの姿を見せたらどうなるんだろうと疑問に思ったのだ。
ホーリアさんのところから引き取ってからこっち、ずっと人化していたので、ベルは俺の事を普通の人間、あ、いや、ちょっと普通とは言い難いが、人間と思っているのではなかろうか?
そう頻繁にドラゴンになるつもりはないんだが、今回のように不測の事態でドラゴンに戻る事がないとは限らない。そもそもそんな事を考えている時点で、自分でフラグを建てている気がしなくもない。
なら早々に、ベルには本来の姿を見せておき、その反応を見ておくべきであろう。
今日は幸いホーリアさんもいないので、出てくるドラゴンは一体だけだ。
先ず、言葉でベルに言い聞かす。ベルが正しく人語を解すか検証をしてみた事はないけれど、俺に限らず、人間の言う事を理解しているとしか思えない反応を示すしなコイツ。
「なあ、ベル。今日は俺の正体について教えておこうと思う」
「「「がぅ?」」」――『んん~?』
と小首を傾げるベル。
この野郎、可愛いじゃないか! どこで覚えてきた――は、とりあえずとして。
「いいか、ベル。俺はずっと人の姿を取ってきたから、ベルは俺の事を人間、人族だと思ってるんじゃないかな?
でもね、本当の俺は人族じゃないんだ。本当の俺はね、実はドラゴンなんだよ。それも最上位のドラゴンなんだそうだ。そう、ご主人様はドラゴンだったのです」
「「「がぅ~?」」」――『んんんん~?』
と小首を傾げる角度を深めるベル。
ちょっと! 首が捩じ切れちゃうよ!
うーん、理解し難いのは分かるんだが……。
「いいかい、ベル。これから俺の本当の姿を見せるけど、気をしっかり保つんだよ」
ポワン、ポワン、ポワン、ポワ~ン
人化解除。最上位ドラゴン――天竜!――降☆臨!
ブッシャアアアアア。
「あらあらあら、タオル、タオル」
俺は素早く物体生成でタオルを作ると、プルプルと小刻みに震えているベルの下半身を拭ってやった。
「ごめんねー、怖かったねー、でもベルはがんばったぞー。普通だったら冒険者でも、この姿を見たら気絶しちゃうからねー。ベルは強いんだなー。強くてがんばり屋さんなベルはこの先もっと強くなれるからなー」
と、一頻り宥めてみた。それが功を奏したのか、はたまた子供故の素直さなのか、程なくベルはドラゴン状態の俺にも全く動じなくなった。魔獣の本能どこ行った?
なんとなく、気になったので、ベルのステータスを確認してみた。
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【名前】ベル
【年齢】6
【種族】魔犬種 ケルベロス 天之 竜一の眷属
・生命 B(C)
・魔力 C(D)
・筋力 B(C)
・敏捷 B(C)
・器用 C(D)
・体力 C(D)
・知性 B(C)
・運勢 A(B)
【固有スキル】
・闇爪
・冥界ブレス
【修得スキル】
・噛み付き
【加護】
・天竜の加護
ステータス強化・ブレス強化
肉体強化・体力回復・魔力回復
物理耐性・魔法耐性・状態異常耐性
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なんか、天竜の加護とか言うのが付いてて、強化だの、回復だの、耐性だのがメッチャ増えてた……。
あとステータスが上がってた――括弧の中身が本来のステータスの模様――って、全部のステータスのランクが1上がってるし。
天竜の加護って、俺、加護とか与えたつもりないんだけどなー、ベルを宥めるのに必死だったから、いつの間にか、そういう扱いになったんだろうか?
しっかし、これってステータスと加護とスキルの内容で総合判定したら、Bランク魔獣だな。いや、以前Cランク魔獣のオーガと戦った時は殆ど瞬殺だったし、実質B+ってところか。
これで6歳児とか……恐るべし!




