40.コステロ王国の現状
魔獣の森での騒動から数週間後、王都の聖女ホーリアの部屋に一人の女性が訪れた。
見た目は人族であるが、魔道具の装身具で偽装したエルフであり、ホーリア配下の諜報部隊の一員である。
「では、報告を」
ヤーズが促すと報告を始めるエルフの諜報員。
「既に報告しました通り、コステロ王国の国王と皇太子は魔獣の森にて死亡。これは王族の持つ、生命と居場所を示す魔道具の反応が消えた事から確実視されており、葬儀も既に済んでおります。
次に王国の上層部ですが、宰相や外務大臣など一部を除いた殆どが同じく魔獣の森にて死亡。親衛隊千人や従者たちについても同様です」
「生存者は?」
「おりません」
ヤーズに問いに即答する諜報員。
「国王と跡継ぎたる皇太子、加えて上層部の殆どを失ったコステロ王国は控えめに言っても大混乱の極みにあります。
宰相の尽力により、国王と皇太子の葬儀こそ何とか済ませましたが、後継者候補の選定作業にも未だに入れず、入れたとしても後継者争いが起こるのは、ほぼ必至の情勢です。
上層部の補充につきましても、貴族同士の派閥による足の引っ張り合いによって保留のままとなっています。
その上、孤軍奮闘していた宰相がつい先日、病で倒れました。復帰は絶望的との事です。
また、親衛隊千人は戦死扱いとなり、遺族に対する弔慰金や恩給が地味に国庫を圧迫すると考えられます」
「有り体に言って、ボロボロな状態ですな」
「そうね、下手したら内乱一歩手前ってとこね。とても他国に手を出せる様な状況じゃないわね」
ヤーズの感想に、首肯するホーリア。
「それと、例の魔道具の件ですが、ガルガン帝国から供与されたとの事でした」
「あら、そうなのね。今度はガルガン帝国? 次から次へと頭が痛いわね」
「外務大臣が、今回の件を受けて、魔道具が不良品だったせいではないのかと、ガルガン帝国に捻じ込んだそうです。何の証拠もなしに」
「全く馬鹿しか居ませんな、かの国は」
「宰相だけが救いだったんだけどねえ。で、帝国の反応は?」
「失笑したそうですよ。そちらの運用ミスでしょう……、と」
「確かに運用ミスと言えなくはないわね。相手が最上位のドラゴンだった訳だし」
「それはさすがにコステロ王国が可愛そうと言うものでしょう」
ホーリアの言葉にヤーズが苦笑する。
「続けてこうも言ったそうですよ。なんなら、どんな高ランクの魔獣でも連れてきてください。立ち所に撃退してご覧に見せましょう……、と」
「さすがに強気ね。でもそうね、なんで帝国が小国のコステロ王国に魔道具を供与したのかは気になるわね」
「では、ガルガン帝国への監視を強めますか」
「そうして頂戴。で、報告は以上かしら?」
「はい。今回は以上となります」
「じゃあ、引き続きよろしくね」
「はっ!」
そんな訳でコステロ国宰相は気の毒な事となりました(国王の方じゃないんか~い)。
病状は脳卒中との事です。良識的で有能な方だったんですけどねえ(名前も考えてませんでしたけど)。




