39.街への帰還
翌朝、魔道具の回収任務に当っていたヤーズさんが戻ってきた。
魔道具は5つ見つかったそうだが、魔獣の群れに踏み潰され殆どが残骸であり、比較的原型を留めていた物は1つだけだったらしい。
ホーリアさんの見立てでは、やはり中位竜の素材を使った魔道具との事だが、コステロ王国にそれらを作れる技術はなく、コステロ王国を庇護してきたゴルガニア王国か、或いは他の大国からの供与品だろうとの事だった。
ゴルガニア王国には最近反省して貰ったばかりなのでゴルガニア王国の線は薄いらしいが。
俺たちは、その後1日かけて、全ての魔獣が森に移動した事をきっちり見届けると、辺境の街へと向かった。もちろん途中で馬車に乗り換えた。
因みに、魔獣の森で見つけていた人間たちの反応は綺麗に消えていた。逃げおおせた者もいたのかもしれないが、いたのが最深部だった事を考えるとその可能性はなさそうだった。
辺境の街まで徒歩であと半日と行った地点で、布陣していた領主軍と冒険者たちの軍勢と合流。
ギルドマスターのギルベルトさんがいたのはある程度予想できたが、領主であるオニールさんがいたのには驚いた。
「オニールさん、領主なのに、最前線に出張ってるって凄いね」
と、ホーリアさんに同意を求めたが、ホーリアさん曰く、
「あの人は、貴族の中では武闘派なので、こうした荒事には先ず間違いなく顔を出してきますよ」
ガタイの良さは、伊達ではなかった様だ。
陣幕にいたオニールさんとギルベルトさんに、魔獣の群れの動向を報告。漏れなく魔獣の森に帰った事を聖女の名の下に保証した。
これにより領主軍と冒険者たちの混成部隊は、布陣した翌日に辺境の街に撤収することになった。
辺境の街に戻ると、街は大歓声に包まれた。それもその筈で、3千匹以上の魔獣に蹂躙されようかという街の存亡を賭けた事態が無事に収束したのだ。しかも物的、人的被害はゼロである。
聖女様に向かって「ありがたやー、ありがたやー」と拝みだすお年寄りまでいる始末である。
街に戻った時間が、夕刻近かった事もあり、お祭り騒ぎは、そのまま宴会騒ぎになっていった。
オニールさんの鶴の一声で、宴会代は領主持ちという大盤振る舞いとなった。
俺は一旦宿屋に向かい、宿屋の母娘に預けていたベルを引き取ってきた。さすがに最上位のドラゴン2体を目にしたらベルが卒倒しかねないと心配したせいだ。
ベル本人は『置いて行かれたー!』と憤慨していたようだったが、モフモフとなでくり倒したら、機嫌を直してくれた。
ベルを連れて冒険者ギルドに向かい、宴会中のいつもの面々に加わった。
「たった、1日で終了とか拍子抜けにも程が有るぜ」
「結局、ゴブリン1匹見てないしな。まあ退屈だったし、1日で済んでむしろ良かったのかもしれん」
愚痴るディックさんに、そう答えるアシモフさん。
「それより<鉄塊>さんの方の話をしてくれよ」
突然、話を振られて、焦る俺。
「えっ、俺の方? えーと……、あー……、まあ、凄かったね」
そのまま話す訳にもいかないし……、アドリブでアレンジとか難易度高すぎだ。
「なんせ、3千匹以上の魔獣なんだし、そりゃあ凄かっただろうさ」
「で、秘宝の魔道具と聖女様の大規模魔法って、どんなだったんだ?」
アシモフさんの想像にディックさんが興味深げに聞いてくる。
「それはその……、ホラ、秘匿情報だから詳しくは話せないけど……、発動と共に迫ってきた魔獣の群れがピタリと止まったね」
「なんと魔獣の群れがピタリとねえ」
「そんでそんで?」
「魔獣たちが暫く硬直したみたいに動かなくなった……と思ったら、一斉に絶叫の咆哮を上げてさ」
「3千匹の魔獣が絶叫って!?」
到底信じられんと言う冒険者に、別の冒険者が解説を加える。
「いやだってお前さん、想像してみ。最上位竜の素材を使った魔道具って話なんだろ。そんな凄い魔道具の効果だったら、あたかも目の前に最上位のドラゴンが現れたも同然って感じなんじゃね?」
「あー、そりゃあ絶叫もするわな」
「おれだったら、チビるな、後ろから前から」
「後ろからもかよ、きたねえな、おい」
「チビってる間もなく、気絶するだろ」
まあ、現れたのは魔道具じゃなくて、そのまんま本物の最上位ドラゴン2体だったけどね。
「おい、話の腰を折るなよ。それからどうなったのよ<鉄塊>さん」
「ああ、きた道を逆走して爆走しだしたよ」
「散り散りバラバラに逃げ出したんじゃなくて?」
「そう、魔獣の森に向かって一目散」
「すっげえええ! 道理で俺達の方にゴブリン1匹もこない訳だ」
「全く凄い効きだな、その魔道具」
「じゃあさ、じゃあさ、その魔道具使ったら魔獣の森の魔獣を追い出せるんじゃね?」
「出来るだろうけど、それじゃあ、コステロ王国の連中と同じじゃねーか」
「先にやったのは向こうなんだし、やり返されても仕方なくね?」
「やったのはコステロ王国のお偉方だろ。第一、そんな事して、えらい目に合うのは向こうの国の平民たちだぞ」
「あ、そっか! 俺たちみたいな平民が割りを食うのか。そりゃあダメだな、今のは無し!」
本当、こいつらいい奴らだな。転生して初めてきたのがこの国で幸いだったよ。
尚、コステロ王国の先遣隊と魔獣の森にいたであろう部隊の末路については黙っておく事にした。




