37.聖女ホーリアの説明
聖女ことホーリアさんによって一旦は中断された対策会議だったが、出席者が招集され再開された。
「つまり、特殊な魔道具を使った大規模魔法で、魔獣の群れ3千匹を足留めした後、魔獣の森へ追い返すと言うのですね」
「ええ、そうです」
「そんな事が可能なのでしょうか……、聖女様のお言葉とは言え、到底信じ難いのですが……」
領主のオニールさんが、出席者一同の内心を代弁する。まあ、普通は信じられないよね。
「可能です。詳細な内容は話せませんが、その理由を述べましょう。
先ず、使用する魔道具は、王城の宝物庫に秘蔵されたまさしく秘宝であり、その材料には最上位のドラゴンの素材が使われています」
「なんと! 最上位のドラゴンの素材ですと! 最上位のドラゴンと言えば魔獣でランクSは確定。いや最早ランク付けする事が馬鹿馬鹿しい存在。その素材を一体どうやって手に入れたと……」
オニールさんが、当然の疑問を口にするが、ホーリアさんはそれには答えず力技で返す。
「なればこそ秘宝とされているのです。そしてオニールさんが言ったように最上位のドラゴンは最早ランク付けする事が無意味な程の存在です。魔獣共がそんな存在を近くに感じたとしたなら?」
「っ! に、逃げ出します。なるほどそういう事ですか!」
「はい。魔道具から最上位のドラゴンの気配を発生させ、更に大規模魔法でその気配を拡散させます。ただ、魔道具が秘宝である事と、大規模魔法が秘匿された魔法のため、護衛はごく少数とし、皆さんには一切近寄らない様お願いします」
ホーリアさんが、まるでコステロ王国の手口を逆手にとったような説明をしていく。まあこっちにそんな魔道具ないんだけどね。
「なるべく魔獣の森の方向に追い返すつもりですが、漏れなく全ての魔獣が魔獣の森に帰る保証はありません。なので領主軍と冒険者の皆さんには辺境の街から徒歩半日の場所に布陣して貰い、漏れだして辺境の街に向かってくる魔獣の排除をお願いします」
「おお、初めに3千匹以上の魔獣と聞いて絶望したが、漏れだした魔獣を相手にするだけで良いのであれば、意外と余裕じゃないか?」
ホーリアさんの説明を聞いた冒険者がギルドマスターのギルベルトさんに同意を求める。
「そうですね。冒険者ギルドはDランク以上の冒険者に強制依頼を発令する事としましょう」
中断前の会議から一転して、出席者たちの顔は明るい。
「ところで、聖女様の護衛はいかがいたしましょう? ごく少数との事でしたが……、領主軍から選抜いたしましょうか? それともAランク冒険者に依頼いたしますか?」
オニールさんの問い掛けに答えるホーリアさん。
「護衛は私の配下であるヤーズ。それとBランク冒険者アマノさんにお願いします」
ざわつきだす出席者たち。
冒険者アマノとは何者だ? 聞き覚えのない冒険者ですな。Aランク冒険者もいるというのに、なぜ敢えてBランクを選ぶ?
街の重鎮たちは大体こんな反応。
一方の冒険者たちは、俺を知ってる奴とそうでない奴とで反応が分かれた。
さすが<鉄塊>だぜ。バッカお前、さすがなのは<鉄塊>を選んだ聖女様だぜ。<鉄塊>さんマジ<鉄塊>
なんだ<鉄塊>とか言う奴は? 最近名が売れてきた、ぽっと出らしいぞ。ギャハハ、ぽっと出って、ここも田舎じゃねーか。しかしAランク冒険者を差し置いて許せんな。
いや、許せんなと言われても選んだのはホーリアさんだし……。
「なぜ敢えてBランク冒険者のアマノを選んだのか、お教え願えますか?」
ギルドマスターとしては気になるところだよね。
「護衛ですから、過剰な戦闘力は必要ありません。むしろ防衛力が大事。そして彼の二つ名の所以を私は知っています。それが彼を選んだ理由です」
「なるほど、了解しました」
さすが聖女様、分かってる。<鉄塊>さんマジ<鉄塊>。
なんか<鉄塊>さん派は大歓声。一方の「そんな奴知らん」派は渋い顔である。
兎にも角にも、その後会議は順調に進み、俺たちは翌日の明け方に魔獣の群れに向かう事となった。尚、領主軍と冒険者たちは、参集の都合もあり明後日の明け方の出発と決まり、会議は散会となった。
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「それでホーリアさん、具体的にはどうすんの?」
「魔獣の群れが目視可能な場所まで近づいたら人化を解きます」
ふむふむ。それで?
「…………………………」
「…………………………」
「あの……、それで?」
「それで終了です」
え、それで終了って?
「まあ、敢えて言えば、後は魔獣が森に逃げ帰るのを探知魔法で確認するだけですね。ヤーズにはコステロ王国の魔道具の回収とかをやらせますが」
行った、見た、脱いだ(ドラコン化した)って! どこのローマの独裁者だよ! ――正しくは「来た、見た、勝った」です。
「なんか、こう、さ。3千匹の魔獣を相手にドラゴン無双だぜーって、してみたりする展開は?」
「やれば、普通にできますよ。アマノ様やって見たいですか? 弱い者いじめは格好悪いですよ。それにそれだと冒険者ギルドに素材の持ち込みとかできませんよ」
ハッ、そういやそうだ。普通に狩りして売った方が、色々都合がいいか……。
「じゃあ、ドラゴン無双とかは、なしの方向で……」
そう言いながら、なんだか釈然としない俺であった。




