34.辺境の街、再び
宿屋は、以前も使っていた肝っ玉オバちゃんの宿屋を借りた。今回は娘さんもいて、お手伝いをしていた。ベルがいたので一応、一緒に泊まっていいのか確認をとったのだが。
「うわあ、ワンちゃんだあ!」
と娘さんに食いつかれた。ワンちゃんだけど、魔獣ですよ。
早速、頭をモフモフされていたベルだったが、満更でもなさそうだった。あれ?『人間風情がっ!』って反応じゃないの? こいつロリコンかよ!(いえ、6歳児です)
「まあ、綺麗に使ってくれたら大丈夫さね」
と、オバちゃんには苦笑された。
宿屋の部屋で暫し落ち着いた後、冒険者ギルドに向かう。
「お、<鉄塊>さんだ」
「<鉄塊>さん、久し振りー」
「久し振りだな<鉄塊>さん」
見覚えのある冒険者たちから挨拶をされる。
「どうもー、ご無沙汰でしたー」
「おいおい<鉄塊>さん、帰ってくるの妙に早くないか? 俺たちが帰ってきたの、ほんの3日前だぞ」
あ、アシモフさんたちだ。あ、そうか、馬車で10日かかる所を転移魔法陣でショートカットしちゃったしな。
「こんにちは、アシモフさん、ディックさん。いやあ、ちょっと反則技を使いまして」
「マジかよ! 相変わらず<鉄塊>さんは<鉄塊>だな」
ディックさん、それ意味不明ですけど、感心してる気持ちだけは伝わってきます。
「帰りの護衛任務は問題なかったんですか?」
「ああ、退屈なくらいだったよ」
全員、怪我もなく、無事帰還したとの事。
「ステラさんもご無沙汰でした」
受付嬢のステラさんにも挨拶をしておく。
「お久し振りです。アマノさん」
「なにか変わった事とかありませんでした?」
「ええ、アマノさん達が王都に出かけてから1ヶ月程度ですし、得には何も」
ふむ、魔獣の森の異変は、まだ冒険者ギルドには伝わってないか。内密にって話だったしな。
暫く静観って事でいいのかな? と思っていたのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
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辺境の街に戻ってから3日後、冒険者ギルドに急報が届けられた。曰く、魔獣の森に異変あり、と。
領主のオニールさんは、すぐに街の重鎮たちと冒険者ギルドのギルドマスターおよびBランク以上の冒険者を招集。対策会議を開いた。俺もBランク冒険者として招集された。
というか冒険者ギルドのギルドマスターやAランク冒険者とか始めて見たぞ。
先ずは領主のオニールさんが口火を切った。
「魔獣の森の異変については実は以前から徴候があり、儂は一定の周期で起きる魔獣の氾濫ではないかと思っておった」
うん、俺にもそう話してたよね。
「だが、どうもおかしい。魔獣の氾濫であれば、魔獣の行く先はバラバラであり、指向性などはない。南方のコステロ王国に向かっても不思議はないのだ。
にも関わらず、魔獣たちは指向性を持ち、この辺境の街に向かっているとの事だ」
ザワザワとした喧騒に包まれる会議場。
「すると、領主様はコステロ王国が、何らかの関与していると?」
街の重鎮が領主に問いかける。
「今の所、その証拠はない。ないが、その可能性は捨てきれない」
「コステロ王国が関与してようが、どうだろうが、当面の問題は、この街に向かっている魔獣共だろう? 防衛計画はどうなってるんだ?」
「そうだ、そうだ」
Bランク冒険者たちが声を上げる。
「先ず、おおよその魔獣の数と、現在地を教えては貰えまいか?」
冒険者ギルドのギルドマスター――ギルベルトというらしい――が、基本的な情報を問い合わせる。
「その数、凡そ3千以上。現在位置は辺境の街から徒歩で約3日の地点」
「なっ!」
領主を除く全員が、その情報に絶句する。
「街を放棄するしかあるまい。魔獣の森の魔獣たちが3千以上などと、辺境の街の兵力ではお話になるまい」
いち早く理性を取り戻したギルドマスター、ギルベルトが酷薄な表情で述べる。
だが、領主オニールはこれに反論。
「いや、辺境の街の兵力をもって、なるべく魔獣たちの足留めを行う」
「馬鹿な、我ら冒険者に無駄死にをしろと?」
「領主軍も兵力として足留めに努める。が、儂に腹案がある。いや、儂に、ではないな……」
訝しむ、列席者たち。
そこに涼やかな声が鳴り響く。
「私に腹案があります。詳細はお伝え出来ませんが、貴方たちを無駄死にさせる事は決してないとお約束しましょう。王国の聖女の名に賭けて」
聖女ホーリアさんのご降臨である。




