閑話.上位竜ヤーズ
「へえ、姐さんが惚れた相手ねえ」
上位竜であるヤーズは、聖竜ホーリアの手下として、国内外の諜報活動から暗殺や粛清など主に裏の仕事を担当している。
尚、人前では執事然としたイケメンさんなのであるが、その内面は意外にも伝法な性格をしている。
聖竜ホーリアには恩義がある。それは確かであるが、根っからの手下という訳ではない。その辺を他の手下連中は理解していない。
他の手下連中は聖女であるホーリアに心酔しており、ホーリアに命じられれば、その生命すら容易く投げ出す事だろう。
だがヤーズはそうではない。自分が一番なのである。聖竜ホーリアへの恩義から、命令には従うが心底厭と思う仕事には抗うだろう。
ただ、ホーリアにとっては、それでも何の問題もない。ヤーズはその程度の存在であるし、ヤーズ自身もその事をよく理解しているからである。
いい意味でも悪い意味でもホーリアを理解し、同じくいい意味でも悪い意味でも己を理解している。それがヤーズであった。
そんなホーリアに惚れた相手ができたらしい。
御年517歳の――自称17歳さん、おいおい! が・・・、である――、あの聖竜に! である。
生半な相手ではあるまい。だがヤーズはこれまでにない程の興味を持った。
伴侶として、自分と同等以上の力を持つ相手しか認めないと公言していたホーリアだ。
それ程の存在が現れた! という事だ。ヤーズは沸き立った、それ程の力を持つ存在。最早、最上位のドラゴン種である事は間違いない。
ホーリアには恩義がある。だがどうせなら、より強大な力を持つ存在にお仕えしたい。ヤーズはそう考えたのだ。
どうやらヤーズは生まれながらにして、従属気質の持ち主であるようだった。
だがそんな事はどうでもいい。ヤーズは生まれ持った自分の気質に従順であった。
そして出会ったのだ。アマノ――天竜――という存在に。
出会ったアマノは、一言で言って「自由」そのものだった。
ヤーズがかつて出会った事のある最上位のドラゴン種は、ホーリアとアマノを除けば、暴竜と冥竜である。
「暴竜」はその名の通り暴れるだけの存在であり知性も低く、己の暴力により自滅した。正直、あれのどこが最上位のドラゴン種なのか? と思ったが、その暴れる姿は掛け値なしに最上位の存在だった。なにしろ当時の生存圏の3分の1を灰塵にされた。出現したのが運良く人里を離れた地域であってそれだ。人里近くに現れていたら3分の2の壊滅どころか全滅もあり得た。
次に「冥竜」であるが冥竜は所謂「引きこもり」であった。冥界に引きこもり、世界になんの寄与もしない存在。「暴竜」は悪い意味で世界に関与したが、「冥竜」はそれすらもしない存在。
なんで最上位のドラゴン種なのか未だに理解に苦しむ。
それに比べれば「天竜」たるアマノは、知性に溢れ、分別もあり、引きこもりもせずに活動的だ。だが、ヤーズにとっては、それがひたすら不気味だった。
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自分が最上位のドラゴン種なのを自覚してるんだなよな? なのになんで暴れもしないで大人しくしてる? 「暴竜」亡き後、引きこもりの「冥竜」と良識派の聖竜ホーリア様しかいない世界だよ? 好き放題にできるだろ! そもそもホーリア様はお前さんにべた惚れなんだし。
それなのになんで呑気に冒険者とかやってんの? 世界征服できるでしょ? 気に入らない国とか壊滅できるでしょ? なんでやらないの?
この世界の国々って、糞みたいな国家が多すぎだし、聖竜ホーリア様がそのせいで苦労してるのも知ってるし、俺ならやるよ? その方が気分がいいし面白そうだ。
俺は天竜様ことアマノ様に、その辺を上手いこと本心を隠しながら遠回しに尋ねてみた。その答えは「だって面倒くさいじゃない」だった。
俺は心の中で血の涙を流した。聖竜ホーリア様に謝れ! ホーリア様が何百年苦労してきたと思ってやがるんだ! この天竜様は!
聖竜様も聖竜様だ! こんな脳天気野郎に惚れるとか!
俺は聖竜様と共に奮闘したこれまでの努力が水泡に帰す思いでいっぱいになった。
だが、天竜様は続けてこう仰った。
「ホーリアさんはなんだかんだと理由をつけて誤魔化しているけど、この世界のために色々と尽力しているみたいじゃないか。
君もそのお手伝いをしてるんだろう? ぽっと出の俺が引っ掻き回すのは失礼だと思うんだよね」
私は絶句した。欲望に忠実で好き放題にやり放題な最上位のドラゴン種が他者の事を慮る……だと?
私は、天竜様の懐の広さに、思わず感動の涙すらも流しかけた……。だが待て! 本当にそうなのだろうか?
ひょっとして、聖竜ホーリア様に世界を統一をさせた後で、卓袱台返しをして世界を混乱のどん底に陥れ入れようとしてるのではないか?
俺だったらそうする。だってその方が面白いし、そうやって裏切られた時の、愕然とするホーリア様の顔を見てみたい。そう考えるとなんだか興奮してゾクゾクしてきた。
なんという奴だ! 天竜様はヤバイ! まじヤバイ! ホーリア様をなんとしてもお守りしなくては!
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「「「がぅがぅ」」」――『ボク、知ってた。こいつが真性の馬鹿だって事を』
「んー? どしたあ? ベル」
私の場合、連投の目安は三千文字を超えてるかどうかなんですが、内容的にキリが悪い場合も連投しています。まあ気まぐれで連投してるってのが本当のところですけどね。




