33.辺境の街の領主
「聖女様はどこだ? 貴様は……、なんか妙ちくりんな出で立ちだな? 何者だ?」
なにやら荒ぶっていらっしゃるご様子。
「えーと、俺はBランク冒険者でアマノといいます。王都のホーリアさん……、聖女ホーリア様のご好意で、転移魔法陣を利用させて戴き、こちらに参った次第です。聖女ホーリア様ご自身は王都のお部屋におります」
ホーリアさんを、「さん」付したら、ギョロリと凄い目をされたので、慌てて「様」付して言い直した。
「むむっ! 左様であったか。折角聖女様のご尊顔を拝する栄誉の機会と思ったのだが……」
「えーと、近いうちに、存分にその機会に出会えると思いますよ。それでそのー……、貴方様は一体?」
「なに? お主、儂を知らぬのか?」
「はぁ……、一介の冒険者ですので」
「Bランク冒険者と申していたではないか。高ランク冒険者ともなれば寧ろ知っていても良さそうな物だが?」
「つい最近、Bランク冒険者になったばかりなもので……、しかも王都で」
「なるほどのう。では名乗ろう、儂はここ辺境の街ヘイグストの領主。オニール=ヘイグストであーる。以後、見知り置くように」
薄々、そうだろうとは思ったけど、予想的中だったか。
「それでは、あっしはこの辺でお暇させて頂くでヤンス」
なぜか必要以上に卑屈になる俺。なんか暑苦しいんだよねこの人。
「待て待て。そう急ぐこともなかろう。折角王都より参ったのだ。土産話とか、その方の話とかを聞いてみたい」
「いやいや、ご領主様ともあればご多忙の身。あっしの様な卑賤の身の話に時間を割かれるとか勿体ない事でヤンス」
「なんかその方、やけに卑屈だな。Bランク冒険者なのであろう? 普通に話すが良い。それに聖女様がお出でになるかと思い、本日の執務は既に済ませてある。茶など用意させる故、話をして参れ」
くっ、脱出失敗。俺は暑苦しいおっさんとお茶する羽目になってしまった。
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「なるほど、ゴルガニア王国の馬鹿者どもめ。概ね、聖女様の鉄槌が下されたのであろう。いい気味である」
獣人族の解放の件を話したら、大喜びされた。
ついでにBランク昇格までの南西の森での狩りの話もせがまれ、仕方なく話してやると、これまた大喜びされた。どうやら余程、話に飢えてたご様子。
「ほう、アマノはなかなかに有望な冒険者なのだな。それに元々この地でCランクまで昇格していたとはな。今後の活躍も期待できそうだな」
過度な期待は、お控え願います。円形脱毛症とかになったらどうしてくれる。
「それにケルベロスの仔とはな。地獄の門番と呼ばれ恐れられる魔獣も、幼子の頃はかように可愛いとはのお」
と、ベルの頭をモフモフする領主様。ベルっ、我慢だぞ我慢。後でとっておきの肉をあげるからな。
「ところでアマノは魔獣の森を知っておるか?」
知ってるも何も、転生の地ですわ。
「ええ、まあ。凶悪な魔獣が多数跋扈しているとか」
一番、凶悪な魔獣は俺でしたけども。
「うむ、その魔獣の森なのだが、十数年から数十年に一度の割合で、魔獣の氾濫が起きるのだよ」
十数年から数十年って、幅ありすぎだろ! 15、6年に一度と、5、60年に一度じゃ全然違うだろ。
普通の人の寿命で言えば、片や一生に3、4回、片や一生に1度ぐらいの差があるわ。
「その氾濫が近々発生する予兆があってな……。最近魔獣の森の様子が不穏らしいのだ」
それって、前に殲滅したゴブリンの大規模集落と一緒で、俺――ドラゴン――のせいじゃね?
「それで万が一の際は、高ランク冒険者の手を借りる事になるので、アマノも心しておいて欲しい。それとこの件はなるべく内密に頼むぞ」
じゃあ、俺にも言うなよ。なにしれっとフラグ建ててんのよ。
「色々な話を聞けて嬉しかったぞ。冒険者ギルドの方に後出しで、領主からの面会要請という事で指名依頼を出しておくから。後ほど依頼達成の証を取りに来ると良い。門番には伝えておく故」
あら、今回の面会を指名依頼にしてくれるとは、中々気の利く領主様だぜ。
というか、やっと解放か、ヤレヤレだ。先ずは宿屋を確保しないとな。
ん? なんだ、ベル? ああ、お肉な。よしよし忘れてないぞー。




