32.転移魔法陣
今回はなんと豪華三本立てです(文字数が(略))
なんで分かったし 俺この部屋きてから一度も「そろそろ辺境の街へ帰ろうかなー」とか一切考えてなかったのに何で?
「いえ、以前から、王都の観光名所って王城ぐらいしかないんだよなー、とか考えてましたし。今回、Bランクに昇格した事で一段落ついたでしょうから、ひょっとして、そろそろ辺境の街へでも帰ろうかなー、とか考えていたりするかなー、とか思ったものですから」
なにその察しの良さ? 怖いわっ! そして正解だわっ!
「そんな事っ! 思っていたり、いなかったり?」
「やはりっ! すぐに転移魔法陣の用意をしなければ! ヤーズ、すぐに準備を! えーと、辺境の街の名前と領主の名前は確か……」
「街の名はヘイグスト、領主はオニール=ヘイグストです、ホーリア様」
「そうそう、そうでしたね」
えーと……、何が始まったんですかねえ?
「ホーリアさん、一体何を?」
「辺境の街の領主館にある転移魔法陣を活性化させるのです」
「転移魔法陣!? なぜそんな物を? てか転移装置とかあんの!?」
「辺境の街はちょっと遠いです。私が人化を解いて飛んだとしても数時間はかかってしまいます」
え、それでも辺境の街まで飛んで数時間で着くんだ……。え? 辺境の街に着いて?
「転移魔法陣なら一瞬で移動できますから、いつでもアマノ様に会いにいけます」
そう来たかー! なんか、これってアレ? 聖女様からは逃げられない……、って奴?
「いや、ホーリアさん守護竜なんだし、王都にいないとまずくないですか?」
「そんな事ありません。配下が優秀ですから。それにアマノ様との逢瀬が最優先事項です!」
逢瀬とか言わない! 生々しいな。
「というか辺境の街の領主館には転移魔法陣が存在するんですか?」
「ええ、辺境の街に限らず、各地の代表的な領主の館には強制的に転移魔法陣を設置してます」
マジで? それって嫌がる領主もきっといるよね。例えば貴族派とか地方分権派とか言う、王族による中央集権を嫌う派閥とか。
「因みに転移魔法陣の設置を拒否しようとした領主には国家反逆罪が適用されます」
領主、拒否できねー!
「ところで、なんでそんな転移魔法陣がホーリアさんの部屋にあるの? 王国の最重要機密みたいだし、どっか王城地下で厳重に管理されてそうなもんだけど」
「転移魔法陣は竜族の秘宝ですし、上位竜並みの魔力を持つ者にしか扱えません。人族の魔力ではとてもとても」
あー、ホーリアさんやヤーズさんが居て始めて利用可能な装置って訳ね。
「ホーリア様、転移魔法陣の起動を確認。辺境の街の領主館側にある転移魔法陣の反応も確認がとれました」
「結構」
「あれ? ホーリアさん、各地の代表的な領主の館の館に転移魔法陣を設置してあるんだよね」
「そうですよ」
「こっち側の転移魔法陣ってひとつみたいだけど、行き先ってどうやって変えているの?」
「ああ、それならこれを遣います」
ホーリアさんが何やら文字らしきもの書かれた、金属の板を取り出す。あ、これ古代竜人族文字だ。『辺境の街ヘイグスト行き』って書いてある。
「この、行き先の書いた金属板を転移魔法陣にセットすると、行き先の転移魔法陣が起動し、接続状態になるんですよ」
へえー! ハイテクー、ハイファンタジーなだけに。
「「「がぅっ!」」」――『メタ発言禁止!』
あ、ベル……、いたんですか。
「「「あぉん」」」――『うん、ご主人様に連れてこられたの』
そうだった……。
「これでいつでも好きな時に辺境の街に行けます。アマノ様も出立の際は利用なさって下さいね」
「は、はい」
もう、ホーリアさん、来る気満々だな……、まあ別にいいんだけどさ。
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そんな訳で、王都の宿屋を引き払った俺は、ホーリアさんの部屋の転移魔法陣を使わせてもらい、辺境の街に向かう事にした。
魔法陣の中央に立つと、一瞬光りが溢れ、すぐに治まった。
「おおっ! 聖女さ…ま…? 貴様っ、何奴?」
なんか、壮年のガタイのいいおっさん――着ている物は完全に貴族のソレ――に誰何された。




