29.魔法の袋
今日、俺は魔道具屋に来ていた。その目的は魔法の袋を購入するためである。
亜空間収納魔法を持ってるのに、何故わざわざ魔法の袋を購入するのか? それは亜空間収納魔法が余りにもチートな存在であり、その存在を秘匿したいからである。
亜空間収納魔法の何がチートかって言えば、先ず収納可能な容量が無限に近いという事。これは俺の膨大な魔力量があってこその話でもあるが、収納用の亜空間の広さは魔力量に比例するらしく、俺の魔力量だとほぼ無限の広さの亜空間を作ることができた。
次に時間停止機能。これは機能というより、時間の停止した亜空間を用意したからであるが、時間停止機能を持つ魔法の袋は最高級の部類に入り、以前雑貨屋で聞いた話だと白金貨百枚、10億円相当の値がつく代物らしい。
まあ時間停止機能に関しては誤魔化せなくはないが、到底、一介の冒険者が持てるような代物ではない。
それと亜空間収納魔法の場合は、亜空間から品物を取り出すため、全く何もない場所から品物が出てくる見た目となってしまうのだ。
このため、冒険者ギルドで解体と買い取りを依頼する際は、事前にいちいち亜空間から頭陀袋(特大)に獲物を移す作業が必要となり、正直、地味に面倒なのだ。
なのでダミーとして魔法の袋を購入しようと思い立った次第である。幸い以前と違いお金には余裕がある。ある程度の品物なら購入可能な筈だ。
と、いう事で、早速店員に尋ねてみる。
「えーと、魔法の袋を購入しにきたんだけど、種類とか値段とか教えて貰えるかな」
「はい。いらっしゃいませ。魔法の袋ですと、一番安い物で大金貨5枚といった所ですが、ご予算はおいくら位考えていますでしょうか?」
「そうだね、上限で大金貨10枚といった所かな」
「左様ですか。お値段の方は基本、収納できる容量によって異なります。一番安い物で小さめの荷馬車程度で、大金貨6枚の物が、普通の荷馬車1台分、大金貨10枚の物で普通の荷馬車2台分となります」
普通の荷馬車1台分って、どのぐらいなんだろ? 1トン車ぐらい? 1トンだとフォレストボア換算でたったの3匹ちょっと分……、って少なくね?
「すみません。魔法の袋に入る量は重さに依存しますか?」
「重さに依存とは……、どういう事でしょう?」
「えーと……、大きさ的には入るけど、重い物は入らない……、例えば木材数十本は入るけど、同じ大きさの鉄の塊は重くて入らないといった事です」
「ああ、それなら問題ありません。重さではなく、あくまで大きさによります」
そかそか、収納スペースに依存か、それならいいな。じゃあちょっとお高いけど、大金貨10枚の奴いっちゃうか。
「わかりました。では大金貨10枚の魔法の袋を戴けますか、あ、支払いは細かくて済まないのですが、金貨百枚でお願いします」
「えっ? あ、あの、おかっ、お買い上げありがとう御座います」
あれ、なんか店員さんが急に挙動不審になってるんだが……、どうしたんだろ?
後日、ホーリアさんに聞いた所だと、通常は値引き交渉を行うものらしい。特に高額商品の場合は、値引き分を考慮した値段設定がされており、言い値で買う事は先ずないのだそうだ。
尤も、貴族の場合はまた別で、見栄を張る意味で、商人の言い値で購入するらしい。
なんだか、やたらとニコニコした店長さんと店員さんに見送られて魔道具屋を後にした。
さてと、擬装用の魔法の袋も手に入った事だし、明日辺りからちょっと狩りに精を出してみようかな。
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と、いう訳で翌朝。やってきました南西の森。
前回はベルの戦闘力の確認という事で、Cランクの魔獣はオーガ1匹のみだったが、今日は積極的にCランクの魔獣を狙っていこう。
Cランクの魔獣で狙い目なのは、レッサーコカトリス、レッサーワイバーン、フォレストヴァイパーである。いずれも素材がなかなかいい値段で売れる。それとCランク以上の魔獣からは魔石が取れる。これがまたいい値段で売れる。なので合計して、大体Dランクの魔獣の10倍ぐらいは稼げる
その代わり、どの魔獣も一癖持っており、普通の冒険者には厄介な相手である。
先ず、レッサーコカトリスは石化魔法を持っている。普通のコカトリスとは違って永続性はないが、石化中に攻撃を受ければ普通に生命の危機である。
次にレッサーワイバーンだが群れで行動する上に、空を飛ぶので非常に厄介な相手である。
そしてフォレストヴァイパーだが、体長が6メートルもある癖、非常に動きが速く毒の牙による噛み付き攻撃を仕掛けてくる。体長を活かした巻きつき攻撃も脅威となる。ただ、数は少なめである。
Cランクの魔獣の中では、実はオーガが一番狩りやすい方なのである。ただ、素材の値段で見ると半分ぐらいなのだ。
さて、対する俺の戦術だが、いつも通り雷矢で気絶させていく戦術だ。
Cランクの魔獣ともなると体長も大きなものが殆どで、雷矢の威力もやや上げていかないと中々気絶には至らない。
雷矢の威力を調整しつつ、レッサーコカトリスとレッサーワイバーンをそれぞれ10匹、フォレストヴァイパーを5匹捕獲した後、森の外で血抜きを行う。
冒険者ギルドに戻った俺は魔法の袋のお披露目のつもりで獲物――実際には亜空間にいれた獲物だが――を出していったのだが、魔法の袋云々ではなく、取り出した内容の方で驚愕されてしまった。
なんでもCランクの魔獣は、C、Dランクの冒険者が5、6人のパーティーをバランスよく組んで狩るのが普通であって、それでも1日に2、3匹狩れれば上出来なのだそうだ。
前に述べたように、Cランクの魔獣は非常に厄介な相手が多いため、ちょっとした油断や不慮の出来事から戦線が崩壊、全滅する可能性が高いため、精神的にも連戦するのがきついらしい。
アマノさんはもうちょっと常識を弁えてください! と受付嬢から何故か説教されてしまった。何故だっ?
因みに、この日の狩りの稼ぎだけで、魔法の袋の代金分は余裕で元が取れた。




