26.渡りに船
俺は心当たりのある場所に向かった。奴隷商、アゴラ商会である。
アシモフさんは半信半疑な面持ちで付いてくる。
「あの、まだ今回の報酬とか細かい話をしてないのですが……」
一方、ドルグさんは申し訳なさそうにしている。
「あー、そういやそうですね。じゃあちゃんと皆を助け出せたら、娘さんの頭でもなでさせてください」
「え? 助け出す? 私は奴隷商の調査の手助けをお願いしただけなんですが……」
「でも、どうせ助け出すつもりでしょ」
「それは……、まあ、そうですが」
「やれやれ<鉄塊>さんは本当に<鉄塊>さんだなあ」
「アシモフさん、それ意味不明です」
着いた。アゴラ商会である。
「すみませーん、奴隷を見せて貰いにきましたー」
「いらっしゃいませ。奴隷用途とご予算をお教え願いますでしょうか?」
「用途は……、そうだな家事全般で、あと相場はどのぐらいですか? 奴隷を買うのは初めてなんで」
奴隷の用途はでまかせだが、相場については全く知らないので本音だ。
「そうですねー、借金に応じて安い者で大体、大金貨数枚、高い者だと大金貨10枚前後ってところでしょうか」
大金貨1枚で百万円相当だから、安くて400~600万円相当、高くて1千万円相当ってところか……。なかなかいい値段だな。
「うん、高めの奴でも充分予算のうちだね」
「それはよろしゅうございました。ではこちらへ」
店員は獣人族がいない方の地下室へと続く階段を降りていく。
アシモフとドルグも付いてくる。
そこに居た奴隷は当然全員が人族であった。一応、店員の説明を熱心に聞く振りをする。一頻り店員に喋らせた後、
「うーん、どうもピンとくる人がいないねえ。今回は縁がなかったかなあ」
「左様ですか」
店員が残念そうに呟く。うん、一生懸命にセールストークしてたしね君。
俺は帰る素振りで一旦、1階に上がると――。
「あ、そうそう。こっちの獣人族の奴隷も見せてよ」
そういうと有無を言わせず、奥の階段から、獣人族がいる地下室へと降りていく。ドルグは俺の言葉に色めき立つ。アシモフも「いよいよか」と言った風情で付いてくる。
「ちょ、ちょっとお客様。そちらは困ります」
地下室の入り口は頑丈そうな扉が塞いでおり、鍵が施錠されていた……、が、そんな扉がドラゴンの相手になるはずもなく。
バキリ、と音がすると扉は向こう側に倒れ落ちた。
部屋の中は薄暗く、獣臭い匂いが立ち込めていた。
「むっ! この匂い、ミーナっ! ナナっ! それに村の皆、俺だ! ドルグだっ!」
「あなた!? あなたなの?」
「おとうさんだ! おとうさんの匂いだ」
「おお、ドルグよ。無事であったか」
どうやら確認は取れたようだ。
「ちょっとお客様。勝手に入られては困りますねえ」
さっきの店員とは違う、目付きの悪い男が用心棒らしい手勢を連れて現れた。
手勢は剣を佩いているが、手には棒や棍棒を持っている。
「見られた以上、貴方方にも奴隷になって貰いましょう。ああできれば抵抗しないでくださいよ。怪我して商品価値が下がっても困りますから」
目付きの悪い男は唇を引き攣らせてニヤニヤと笑う。
「ん? いやあ、別に抵抗などしないさ。でもなあ――」
――相手が無抵抗だからといって、自分がノーダメージで済むと思うなよ(ドラゴン限定)。
俺は、ずいっと歩を進める。
「そこで止まりなさい。脅しじゃないですよ」
男は焦ったのかニヤニヤを引っ込めて警告してくる。
が、構わず俺はそのまま歩を進める。
「ちっ! しょうがない。ちょっとこの男に身の程を思い知らせてやりなさい」
「待ってました!」
いかにも加虐趣味がありそうな大男が、手に持った棍棒を俺に向かって全力で振り落とす。
おいおい、棍棒とは言え普通の冒険者なら余裕で死ぬだろ。
バキャッ! と音がして、折れた棍棒の先が明後日の方向に飛んでいる。
「ぎゃあああああ」
大男は己の怪力の反作用を受けて腕の骨が折れたようだ。ご愁傷様。
「さて、次はどなたが、身の程とやらを思い知らせてくれるんですかねえ」
焦った男の顔はもはや蒼白である。
「ば、抜剣しろ。この男は危険だ。殺しても構わん」
手勢の男たちは一斉に棒を投げ捨てると腰の剣を抜き放った。
「そこまでだ!」
そこに大音声が鳴り響く。




