24.奴隷について、その2
良かった……、ベルを連れて行って。さすがのホーリアさんも幼子相手に本気で抵抗する訳にもいかず、甘んじてベルのペロペロ攻撃を受けていた。
ホーリアさんの大人の分別に感謝だ。尤もベルがいなくても大人の分別を発揮して欲しいところだが……。
そんな訳で無事に王城から帰ってくる事ができた。
しかし、獣人を労働力としての奴隷とするために、わざわざ国外にまで奴隷狩りに遠征を出すとか……。
でもこれって前の世界でも、GDP第一位の先進国が、ほんの150年前までやってた事なんだよね。獣人族相手じゃないけど。
150年前って遠い過去にも思えるけど、よく母校100周年記念とか聞くと、そんな遠い過去でもなさそうなんだよね。
ヨーロッパ各国の場合も、200年前までやってた訳で、GDP第一位の先進国と50年程度の差しかない。
しかも廃止の理由が人道的でも何でもないのが笑える。
ヨーロッパで蒸気機関による産業革命が起こると、生産性が飛躍的に上がったせいで生産過剰となり製品があふれかえった。
このため、従来の富裕層だけを相手をしていただけでは商売に成り立たない。そこで貧しい労働者を新たな顧客とする事にした。
製品はあふれかえっているので、どんなに安くしても原価さえ割らずに売れれば問題ない。要するに薄利多売である。
このため、奴隷を無給でこき使うよりも、あえて賃金を与え――薄給だったが――新たな顧客として製品を買わせた方が経済が回ったのである。
奴隷=労働力=無給なため消費活動になんら寄与しない。
賃金労働者=労働力=薄給でも顧客として消費活動に寄与する。
これがヨーロッパ各国における奴隷廃止の実際である。
結局、金の都合で、奴隷廃止となっただけの話だ。
人道主義? なにそれ美味しいの? である。
とは言え、産業革命が望めないこの世界では、奴隷制度の廃止は夢のまた夢かもしれない。
ん? 産業革命が望めない? 望めない事もないんじゃないの? だって現に魔道具があるんだろ、できるんじゃね? 蒸気機関。
そうだよ、できるじゃん。蒸気機関ぐらい簡単に……。
そこまで思いながら、俺は考えを改めた。
あー、これ異世界テンプレだと、何故か神だとか、大いなる意思とかが、文明開化を破壊する展開がくるんだよ。
なんで、文明の進歩を妨げるんだよ! 納得のできる設定を提示しろよ! と、異世界テンプレものの作品を読む度に思っていた。
中にはそもそもそれが作品の骨子で、最後でそれが明かされると言った骨太の作品もあるにはあったが、殆どの作品は、申し訳程度の理由付けしかできず、そういう世界観だと思って下さいという扱いだった。
まあ俺も、神だとか、大いなる意思とかと無駄にバトルする展開は厭なので、文明の進歩には寄与しない事にした。
人、それを逃げ、と呼ぶ……。まあ、逃げてもいいじゃない。
なんの話だっけ? ああ、奴隷とか獣人の扱いとかか……。
まあ、クレメンツ王国が頑張ってるし、別に現状でもいいな。
獣人保護のために、獣人でも不自由なく暮らせる新たな王国を建国するだとか、特に考えてる訳でもないし。
襲撃されている獣人の集落を悪の奴隷商人から救うドラゴン仮面――仮面の中身もドラゴン――が突如現れる展開はあるかもしれない。次回予告じゃないよ!
「「「がぅっ!」」」――『メタ発言禁止!』
と言われた気がしたので我に返る。
今回の功労者だし、ベルを存分にモフモフしよう。
「よーし、よしよしよし」
あー癒やされるわー。この仔を引き取って正解だったわ。
そういえば獣人族って王都にどのぐらいいるんだろう? 探知って選択機能あるのかな?
なんとなく獣人族、獣人族ー、とイメージしながら探知してみると、まばらな光点が表示された。
「おっ、できたっぽいな。んん?」
まばらなに表示された光点であったが、1箇所、妙に光点が集中している箇所があった。
「30人前後は固まってるぞ。なんだここ?」
俺は、その場所に行ってみる事にした。そしてその場所は――
『アゴラ商会――奴隷売買専門店』
奴隷商だった。
この国じゃ獣人族=奴隷の扱いじゃない筈だよな、なのに何でこんなに多くの獣人族が集められてるんだろ?
光点の動きからいって従業員という訳じゃない。何より光点は殆ど動かないからだ。
いや、王都には他にも奴隷商はあるのに、ここだけに集中してるのも変だな。獣人族専門の奴隷商って事なんだろうか?
俺は多少、腑に落ちない思いを抱えつつも冒険者ギルドに向かった。
「おお<鉄塊>さん!」
冒険者ギルドにつくと、飲食スペースにアシモフさんと、前に門で見かけた狼獣人の男がいた。
「こんにちはアシモフさん。えっと、こちらの方は?」
「お初にお目にかかる。私はDランク冒険者でドルグという者です」
「こんにちは、Cランク冒険者のアマノです」
お、やはりDランク冒険者だった。
「獣人族の方とお知り合いとは、さすがアシモフさん、顔が広い」
「いや、私も実はさっき初めて会ったばかりでね。なんでも実力のある冒険者に相談事があるとかで、これから話を聞くところだったんだ。<鉄塊>さんも一緒に聞いて貰えないか」
俺は、相手が獣人族という事での興味と、さっきの事が気にかかったので話を聞く事にした。
現実世界での奴隷云々の話は聞き齧りの適当な知識で書いてるので真に受けないで下さい。
でも思ったよりも近年まで奴隷制度が合法だったという負の歴史は本当の事です。
世界的にも稀有な事ですが日本では奴隷制度はありませんでした。
ただ士農工商の身分制度やそれ未満のえた・ひにんと言った差別は存在しました。
一番怖いのは人間・・・と言うのは本当ですね。




