19.王都の冒険者ギルドでテンプレ展開
残念美人さんとお友達になって――断じて婚約者などではない――毛玉をモフモフと愛でていたら、眷属ができていたでゴザル!
「いや、貴方、きっちり名前与えてたから。意識して省いてるんじゃないわよ」
ぐぬぬ。心の声にツッコミを入れないで欲しいでゴザル。
「眷属って、何か特別な事があるの? なんかこう、心で会話できたり、自分の影に隠れたりできたり?」
「んー、私は眷属とか持ったことないから分からないけど、貴方の加護を受けられたりはするんじゃない? 念話とか影に隠れたりとかは知らないけど」
「俺の加護? それって何?」
「さあ、知らないけど」
「…………………………」
「取り敢えず眷属にしたんだから、連れて帰ってね」
「俺が引き取るの?」
「え!? 当たり前じゃないの。大体そうしないと眷属の方が納得しないわよ」
「え、そうなの?」
「「「うぉん!」」」
三つの頭が声を揃えて返事をする。くっ、可愛い。
「でもさ、仔犬って言っても、こいつ魔獣だろ? 討伐の対象になったりしないか?」
「ああ、それなら大丈夫よ。首輪してるでしょ。それは従魔の証といって、飼われている魔獣って扱いになるのよ。そうだ、登録を私から貴方に変えておくわね」
残念美人さんはそういうと、三つ首のそれぞれに嵌った首輪に触れ魔力を流していく。
「これで完了よ。普通は冒険者ギルドで登録をするんだけど、私の場合は隠し技でちょちょいとね」
得意気に、ある胸を張る残念美人さん。
「いい加減、残念美人さんって言うのはやめなさいよ。地味に傷付くわ」
いい加減、心の声を読むのも止めて下さい。なんなのソレ? スキルなの? 読心のスキルとかあったりするの? 是非とも教えてください。
「その内、貴方も覚えると思うわよ」
マジデスカ……。
そういう事で眷属となったベルを連れて、残念美……、じゃなく、ホーリアさんの部屋を辞去する事にした。
「また、きてよね。絶対きてよね。あんまりこないようだと、こっちから押しかけるわよ」
そんな事言っても、王城にそんなホイホイこれないだろ。
「あら、来られるわよ。はいこれ、ヨシュアから預かってたの」
えーと……ヨシュアって、どちら様?
「ああ、国王の名前よ。それを見せれば王国内なら、まずは下に置かれない待遇を受けられるわよ。城門もフリーパスね」
なんか紋章入りの短剣だった。これって王家の紋章って奴じゃね?
「えーっと……、持ってる事が既に大事になったりしませんかねえ、コレ?」
「え? あー……、アハ、アハハハハハハ」
笑って誤魔化された。コレはアレだな、基本的に亜空間で隠し持とう。
その後、ホーリアさんが呼んでくれた騎士の案内で城を後にした。ヤレヤレである。
さて、次は王都の冒険者ギルドだ。ホーリアさんの部屋に呼ばれて大分時間がかかったな。
冒険者ギルドに着くと、先ずは受付に向かい、護衛任務達成の報告をして、報酬を受け取ろう……として、テンプレが発動した。
「見ねえ面だな、お前。ヒョロっとしやがって。お前、そんなんで王都で冒険者やっていけると思ってんのか?」
やっていけるも何も、こちとらCランク冒険者なんですが、何か?
「おうおう、ゴンザの奴、またぞろ新人イビってやがんのか? あんまやりすぎてギルド長の目に止まんなよ」
「おうよ、こりゃあ新人イビリじゃねえ! Dランク冒険者の先輩による新人教育って奴よ!」
Dランク冒険者て……格下じゃねえか。
「面倒くさい奴だなー。御託はいいからサッサとかかってこいよ!」
「んなっ! てめえいい度胸だ、修正してやる!」
右腕を振り被って俺の顔面を殴りつけてくる格下さん。
秘技! ノーガード戦法――突っ立っているだけともいう。
いつものゴツっとした鈍い音が鳴り響き、悶絶して蹲る格下さん。
「なんだと!?」
格下さんを囃していた冒険者が目を剥く。
「はいはーい、終了、終了」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、アシモフさんだった。
「馬鹿だなー、お前ら。外見だけでしか人を判断できないから、いつまでもDランクから上に昇格できないんだよ」
格下さんは拳を抑えながら「ぐぬぬ」な状態である。
「こいつはな、Cランク冒険者である上に、二つ名持ちだ」
周囲の冒険者たちからざわめきが起きる。
「鉄の塊と書いて<鉄塊>、それがこいつの二つ名だ。その理由は<鉄塊>さんに殴りかかったお前さんならよく分かるだろう」
格下さんは呆然とした顔つきをしながらもコクコクと首を上下に動かす。
「お前ら、俺達が王都近郊の街道で盗賊集団を蹴散らした話は聞いてるだろう」
周囲の冒険者たちもコクコクと首を上下に動かす。盗賊集団討伐の情報は、それなりに王都の冒険者ギルド内に広まってるらしい。
「俺達と一緒に盗賊集団を蹴散らしたのがコイツ、<鉄塊>のアマノよ!」
「「「うおおおおおおおおおお」」」
ちょ、うるさい。アシモフさん煽り過ぎだって。無駄に注目を集める気はないですから。
ざわめきが治まらない中、アシモフさんの先導で、冒険者ギルド内に併設の酒場へと場所を移す。
そこには一緒に護衛任務を請けた冒険者たちが揃っていた。
「アシモフさん、見てたんなら先に止めてくださいよー」
「いやいや、お前さんを売り込む丁度いい機会だったんで利用させてもらった」
「いやいやいや、売り込まなくていいですから!」
ワッハッハと笑い出す仲間の冒険者たち。冒険者たちのこうしたノリは正直好ましい。
「<鉄塊>さん、マジ<鉄塊>! 王都の冒険者たちにも知らしめないとな」
「うむ! そしてこう言わせるのだ、<鉄塊>さんなら仕方がない……、と」
これさえなければ……、であるが。




