18.ベル
「お友達から?」
「そう! そもそも俺たちって出会ったばかりでお互いをよく知らないだろ」
「ええ、まあ。そうですわね」
「それなのに、いきなり婚姻だの(交配だの)、焦りすぎじゃないかと思うんだ。まずはお友達から初めてお互いの事をよく分かり合ってさ。それから考えればいいと思うんだ」
「でも、私、500年以上も待って――」
「奇遇なことにお互い17歳とまだ若いじゃないか! それにドラゴンは長命種なんだろ、10年や100年や500年なんてあっという間じゃないか」
「え、ええ、それもそうね」
こいつ、サバを読みきりやがった、おいおい! だがこれで、取り敢えずはセーフ!
首の皮一枚繋がったぜ――人、それを問題の先送りと言う。
「早速だけど、ホーリアさん」
念のため、話題をそらしておこう。
「ホーリアさんは王国を守護してるって話だけど、理由を聞いてもいいかな?」
「ああ、その事ですか。もう400年以上も前の話なんですが――」
17歳設定、どこにいった! おいおい。
「この国が建国する際に、気紛れで手伝ってあげたんです。魔獣の群れから助けてあげたりして。私も当時は若くてお転婆だったせいで、強い魔獣を相手にブイブイ言わせたいお年頃だったんですね」
ブイブイて……、しかし400年位上前っていうと……、100歳前後じゃねえか! お転婆娘って年齢かよ! あーでも長命種なドラゴンだし、そういう事もあるのかな?
「それで、当時の国王が相当感謝してくれて、私に何くれと良くしてくれたので、そのまま居ついちゃった感じですね。なので別に守護してるつもりはありませんよ。
幸いな事に、歴代の国王は底抜けにお人好しで善良な者が続いてるので面倒も見てますが、不相応な野心を持ったり、悪意を持つものが国王の座についたならば、速攻でおサラバですよ」
まああの王様も人が良さそうな感じだったしなあ。
それより建国して400年位上も経つのに善良な者だけが王位に就いてきたとか、ちょっと信じられんな。普通は継承者争いで血で血を洗ったりとか、後ろ盾たる有力貴族が国王を傀儡化して国政を壟断したりとかありそうなもんだが……。
ん? 待てよ。もしかすると、そうならないようにホーリアさんが裏で糸を引いていたりして? だとすると、王国の守護竜というのも、あながち間違いじゃないのか……。
「なにやら、変な事を考えてません?」
「いやあ、ホーリアさんって、頑張ってきたんだなーって思っただけさ」
「そう言われるとなんだか照れますわね」
テレテレしてる残念美人さんも可愛いものだ。
「ところで……、この黒い毛玉は一体何もの?」
黒い毛玉にしか見えない生物が、俺の足をガジガジと齧っているんだが……。
「ああ、その仔はケルベロスの幼子ですね」
地獄の番犬、ケルベロスですか。
「いつだったか、ある時、魔神に出会いまして。ああ、魔神と言ってもさっき言った通り、あくまで魔族の上位種ってだけですよ。魔族からは信仰されてたようですが」
やっぱり、魔族とかもいるのかこの世界。それに魔神ねえ……、異世界テンプレものだと、いやな予感しかしないんだが。
「その魔神が連れていたのがこの仔なんですが、なんでもその魔神曰く、この世界はツマラン。異世界転移魔法を開発したので、儂はこの世界からおサラバする。
この仔はまだ幼いし連れては行けない。なのでお前に預ける、とか言って、とっとと転移しちゃったんです。とんだ育児放棄ですよ」
「その魔神とは仲良かったの?」
「とんでもない! 名前しか知らないですよ! 大方、私を人族を守護する変わり者だとでも思って、押し付けて言ったんですよ! あんまり癪だから、その仔の事も放置です。餌ぐらいは上げてますけど」
お前も育児放棄してるんじゃねーか!
ふむ、一心不乱に俺の足をガジガジしてるな。全く痛くないけど。いつぞやのフォレストウルフの様に牙が砕けていないのは恐らく幼子ゆえに噛み付く力が余りないせいだろう。
意識してよく見ると、なるほど仔犬だ……。小さい頭が三つ付いているが。
頭をなでてみる。おお! モフモフだな。モフモフモフモフ。
「がうー」
今度はなでてる手に噛み付いてくる。
「お、なんだなんだ? 元気いいなお前」
モフモフモフモフ。
「なんだか私より扱いがよくない?」
残念美人さんが拗ねちゃった。
名前とかついてるのかな? 鑑定してみる。
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【名前】(なし)
【年齢】6
【種族】魔犬種 ケルベロス
・生命 C
・魔力 D
・筋力 C
・敏捷 C
・器用 D
・体力 D
・知性 C
・運勢 B
【固有スキル】
・闇爪
・冥界ブレス
【修得スキル】
・噛み付き
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名前はまだない……か。と言うか、なにこのステータスの高さ。6歳にして既にオーガ並なんだけど。
「まだ6歳なのに凄いステータスの高さだな。いやまてよ、犬で6歳って事は実は結構いい歳行ってるのか?」
「何言ってるのよ。魔犬種で、れっきとした魔獣よ。ペットの犬猫と一緒にしたらダメよ」
そ、そうなんだ……。
「そういや名前がないけど、つけてあげてたら?」
「なら、貴方がつけてやってよ」
ん? 俺か? 俺って、ネーミングセンスに自信ないんだけど……。
ふむ、ケルベロスだから「ケル」、「蹴る」はないか。んじゃあ「ベロ」、ないな。「ロス」――「アラモス」。連想ゲームか! 「ベロ」改め「ベル」でいいか、面倒だし。
俺は元毛玉に向かって宣誓する。
「お前の名前は『ベル』、だ。今後はベルと呼ぼう」
「「「あぉん!」」」
お、理解できたのかな? 中々可愛いものだ。モフモフ。
「貴方、凄いわね。名無しの魔獣に本当に名を与えるなんて!」
「え? だって、ホーリアさんがつけろって言ったんじゃん」
「普通はペットに名前をつける感覚じゃ、魂にまで名前が刻まれないわよ。鑑定し直してみなさいよ」
え、そうなの?
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【名前】ベル
【年齢】6
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「うん、ちゃんとついてるね」
「いや、だからステータスに表示される名前こそが、真名であり、魂に刻まれた名前って事。普通は真名まではつかないのよ」
そうなんだ……。
「それと後その仔……、貴方の眷属になってるから」
え?
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【名前】ベル
【年齢】6
【種族】魔犬種 ケルベロス 天之 竜一の眷属
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俺・・・なんかやらかしちゃった?




