13.護衛任務
そんな訳で数日後、依頼者である商隊の責任者と、他の冒険者たちとの顔合わせだ。
場所は、冒険者ギルドの大会議室である。
「どうもこの度は商隊護衛任務の顔合わせに参加して貰いありがとうございます。こちらが商隊の責任者のギャバンさんです」
なるほど、積み荷はズバリ香辛料だな。
「商隊の責任者のギャバンです。積み荷の殆どは当地で採取できた魔獣の毛皮や皮革、爪、骨、魔石など素材、それと干し肉などです」
残念ハズレた。
「朝晩の食事はこちらで持ちますが、基本的には保存食となりますので、味には期待しないでください」
若手の冒険者たちは、うげーっといった反応を見せたが、さすがにベテランっぽい壮年の冒険者たちはいかにもそれが当然と受け止めているようだった。
「それと御者は当然商隊の人間が担当しますが、野営時の不寝番は冒険者の方々でお願いします」
まあこれも当然だな。
「それと盗賊や魔獣の襲撃があった場合、原則として積み荷を死守でお願いします。死守が難しいとして撤退するかどうかの判断は商隊責任者である私が行います。私が何らかの事態で判断できない状況にある場合は商隊の副責任者が判断を行います」
これには冒険者達もザワリとした。
「つまり冒険者側の判断は認めないって事か?」
壮年の冒険者の一人が質問する。
「そう考えてもらって構いません」
「なんだよ、冒険者たちは死ぬまで戦えってか?」
若手の一人が不平を鳴らす。
「極論を言えばそうなります。ですが考えて下さい、あなた達冒険者が全滅をすれば、次は残った我々商隊の人間が全滅するのです」
一旦、間を取り、言葉が浸透するのを待つギャバン氏。
「決して、あなた達が無駄死にするような無茶な指示はしないと約束しますが、こればかりはこちらを信じてもらうしかありません」
「一応、筋は通っている。それに信じられないなら依頼を受けなければいいだけだしな」
と、壮年冒険者。
「うちらはパーティーだし、俺はうちのリーダーに任せるぜ」
ぼっちパーティーの俺には少々耳が痛いな。
「えーと、取り敢えず依頼を受けるかどうかは一旦保留で、冒険者さんたちの紹介をお願いできませんか? 俺はソロで参加予定のアマノです」
ちょっと仕切っちゃった。下出に出たつもりなので堪忍してね。
「あれが<鉄塊>さん!?」
「すげー、俺初めて見るよ<鉄塊>さん」
「ははは、見たか! これが<鉄塊>さんだ」
「うむ! 紛う方なき<鉄塊>さんであるな」
ちょっと、ちょっと! 得意げさんの同類がいるんですけど。
っていうか紹介プリーズ!
「では一番数が多い我々からかな。我々は<辺境の熱風>という5人パーティーで、Bランクが2人、Cランクが3人の構成だ。そして俺がリーダーでBランクのアシモフだ。個々のメンバーの紹介は後ほどと言う事で」
質問をしていた壮年の冒険者だな。
「じゃあ次はうちだな。うちは<払暁の誓い>という。4人パーティーで、リーダーの俺がBランク、残りはCランクだな。あ、俺はディックという」
ぶふっ! <辺境の熱風>だの<払暁の誓い>だのって! その中二病全開なパーティー名に全力でツッコミて――!
パーティー名はアレだが、Bランクが3人に、俺を含めたCランクが7人とかなかなか粒が揃ってるな……俺はなりたてCランクだけど。
「ご紹介ありがとうございました。それで俺としては依頼を受けたいと思ってるんですが、なにぶんソロなもので……」
「我々も受けようと思う」と、アシモフさん。
「うちも受けようと思う。中々いい感じのメンツが揃ってるんでな」
同じ感想です、ディックさん。
じゃあ俺も、俺もー……って最初に参加表明してたっけ。
そんな訳で、出だしはどうなることかと思った顔合わせだったが、無事に全員参加となった。
あと冒険者側の責任者はリーダーがアシモフさん、サブリーダーがディックさんに決まった。パーティーのバランスを考えると至極普通な人選となった。
俺? 俺はほら「Cランクの中でもアヤツは最弱よ!」的な存在ですから。
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そして王都行き商隊出発の当日となった。
商隊の荷馬車は4台編成なので、荷馬車の左右に1人ずつ配置で計8人、先頭と後方に1人ずつ配置で計2人。合計10人での護衛となる。
冒険者も馬に騎乗しての護衛である……俺以外。
いや別にイジメでも可愛がりでもなく、単純に俺が馬に乗れなかったからである。
だって騎乗スキルなんて持ってないし、ドラゴンが馬に乗るだって? ハハハ、そんなバカな。
という訳で、リーダーたちと相談した結果、商隊の先頭を走って行く事にした。
俺、探知魔法使えまっせ! と売り込んだら、それじゃあ、どうぞどうぞと先頭に相成った。
辺境の街を出て、1日目、2日目は全くの問題なし。
3日目の午後にゴブリンの集団が5匹ほど現れたが、氷矢でサックリ殲滅しておいた。
探知で薄々気付いていた様子のリーダーことアシモフさんには事後報告をしておいた。
5日目に入り、王都との中間となる街に入った。
そこそこ大きな街であり、商隊のメンバーは支店併設の宿舎に、冒険者のメンバーは指定された宿屋に泊まった。
久々の街に宿という事で若手の冒険者の酒が進んでいたようだが、それぞれのパーティーリーダーから程々にしとけ、と窘められてションボリしてた。
俺? 俺はほら、ぼっちパーティーのリーダー様だから。
そもそも程々もなにも、ドラゴンは二日酔いとかならないし。本当だよ!
雲行きが怪しくなってきたのは、街を発った6日目の事だった。




