表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界テンプレ・ドラゴン転生  作者: あまたちばなルイ
10/90

間話.受付嬢ステラの困惑



 なんか受付のお局様デボラ――冒険者からは受付ババアと呼ばれてる――が、急に暫く仕事を休むと言い出したらしい。

 私達若手受付嬢の活躍の場を散々奪ってきたくせに!

 とはいえ冒険者ギルドとしては、受付業務を滞らせる訳にはいかない。


 幸いこの時期は依頼も少なめだし、常設依頼の魔獣を討伐とする冒険者も少ない。

 冒険者ギルドの受付としては公然と喜ぶわけにはいかないが、仕事が少ないのは正直助かる。依頼達成の度合いによって収入が左右される冒険者と違い、冒険者ギルド職員の給与は一定の賃金を保証されている。なので、冒険者の依頼達成が多かろうが少なかろうが職員にとっては正直いってどうでもいい。


 ただ、優秀な成績を収めた冒険者を担当した受付には、特別ボーナスが支給される。お局様デボラが若手を排除し受付に居座る理由はこれである。

 優秀な成績を収めそうな冒険者には媚を売って粘着し、見込みが薄そうな冒険者は冒険者ギルドをやめるよう子飼いの冒険者を使って恫喝する。正に冒険者ギルドのクズである。


 なんでギルドマスターがデボラを更迭しないのか理解できない。

 ギルドマスターは賄賂や汚職といった俗物的な行為には決して与しない清廉なお方だ。

 ただ与しないというだけで、不正自体は放置という困ったお人なのだが……。


 おっといけない仕事、仕事。

 幸い午前中は特にこれといった事もなく、受付業務をこなしていた。


 だがお昼頃になって状況は一変した。人の良さげなイケメン冒険者によって……。


「すいませーん、グレーウルフを狩ってきたんですが、討伐報酬と素材の買い取りお願いできますか?」


 と申し出てきたイケメン冒険者に対応したのが悪夢の始まりであった。


 討伐部位どころが解体すらしていないというイケメン冒険者の申告で、併設の解体場で解体担当のジャックさんに解体をお願いをした……のだが、討伐数が尋常じゃなかった。

 たった一日で32匹ものグレーウルフを狩ってきたFランク冒険者さんに、Eランク昇格の説明をする羽目になった。

 どうやらお局様デボラはアマノさんに冒険者ギルドの規約や規則を全く説明してなかったようだ。


 それにしても持ってきたグレーウルフの状態が凄く良かったんだけど、どうやって仕留めたんだろう?

 下手な冒険者だと傷だらけにして毛皮をダメにしたりするのに、アマノさんが持ってきたグレーウルフには、血抜きの痕らしい首筋の傷しかついてなかった。眠り薬入りの餌とか使ったんだろうか? でも、数が数だしなー……。


 私は優秀な冒険者を担当した受付として、僅かながらも特別ボーナスが支給された。嬉しかった反面、お局様デボラの気持ちがちょっとだけ分かった気がして却って落ち込んだ。


 解体担当のジャックさんは、同僚たちが休暇に入ってる中、解体作業を頑張ってくれている。真面目な人だし、解体担当の責任者でもあり、正直尊敬の念に絶えない。

 本人の弁の通り、翌日中には解体作業も終了するだろう。


 ……と、思っていたのだが……。


「すいませーん、今日もグレーウルフを狩ってきたんですが、解体場に行くので受付さんも付いてきて貰えますか?」


 と、明るい笑顔で言われた。畜生! イケメンの笑顔の破壊力って半端ねーな! と思いながらも私の意識は途絶えた。




 ――――――――――――――――――――――――――――




「ステラさん! ステラさん!」


 ん? 同名の誰かを呼んでるのかな?


「えーっと……、ステラさんとやら、呼ばれてますよー」

「ステラさんは貴方です! ステラさんしっかりして下さい!」


 そういいつつ私の肩を揺らしているのは、後輩の受付ちゃんだった。

 ハッ! 現在の状況を思い出した!


「アマノさんはどちらに?」

「解体場にいます!」


 私は即座に解体場に向かった。


「え?」


 いつも冷静沈着で平静な姿勢を崩さないジャックさんが、ポッカーンと口を開けている。しかも顔面蒼白である。こんなジャックさんを今まで見たこともない。


「あ、受付嬢さん! 正気に戻ってよかった」

「え? あ……」


 どうやら私は正気を失っていたらしい。確かに正気を失う理由を持っていた。


「昨日の今日でグレーウルフを狩っていらしたんですよね?」

「はい、その通りです。昨日よりも数が多めなので、討伐数を確認して貰えますか」


 はぁ? 昨日よりも多い? 登録したての冒険者がEランクの魔獣30匹を超える数を討伐しただけでも異例なのに、昨日よりも多いってなんだそれ?

 って、え? 解体場のグレーウルフの数って、昨日の倍ぐらいじゃないの?


「昨日の倍ぐらい多いんだけど!」


 思わず素で声を荒らげてしまった。


「ええ、大体昨日の倍ぐらいですねえ」


 事もなげに答えるアマノさんだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 冒険者ギルド若手受付のステラはこの時全てを悟った。


 人類には時として理解し難い超常の能力を持つ存在が現れる。

 それは英雄と呼ばれたり、勇者と呼ばれる、人類を超越した力を持った存在である、と。


 その理解は一見正しい。だが間違っている。なぜならその者は人類などではなくドラゴンなのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ