0.プロローグ
気づいたら白い部屋にいた。いや、部屋というよりは空間か? まあ、とにかく辺りが真っ白なところにいた。
「やあ、どうやら、気づいたようだな」
いつの間にか目の前に現れていた人に声をかけられた。
若いようで年寄りのような、男のようで女のような、なんとも特徴がとらえどころのない人物であり、口調だけをとらえれば男のような気もする。
「えーと、ここは一体どこです? というかどなたですか?」
「ふむ、ここは……、そう、どこでもない空間だ。そして私は、そうだな……、君が元いた世界で言えば『神』といった存在に近いだろうか」
神だあ? 急に胡散臭くなってきたな。
「ははは、君が元いた世界と言っても、色んな人々がいるしね。多数が信仰する『神』の名を出せば理解しやすいと思ったのだが、なるほど確かに君がいた国では、『神』は余り信仰されておらず、むしろ胡散臭い対象の様だ」
居もしない『神』とやらを祀り、実際には信者――のみならず、家族や親戚まで――の有り金を毟り取る、胡散臭い新興宗教には山程心当たりがあるしな。
「では、言い方を変えよう。先程は『神』などと言ったが、実際には世界の、いや宇宙の管理者といったところだな」
あぁん? 神と言ったり、宇宙の管理者と言ったり――。
いや、待てよ。この流れって……、ひょっとしてアレか?
「どうやら薄々と察したようだな。それでは早速本題に入らさせてもらう。記憶には残ってないと思うが、残念ながら君は前の世界で事故に遭って死亡した」
キタコレ、俺、既に死んでた――!
「えっ? 俺って何で死んだの? ベーシックに信号無視の居眠りトラックに轢かれたの? それか、コンビニ強盗に遭って、幼馴染みの女の子を助けようとして刺され死んだとか? 或いは修学旅行の最中にバス事故に遭ってクラス全員死亡ってケース? それとも最近流行りの、理由は何だか知らないが気がついたら死んでた系?」
「やけに食いついた上に、色んな死因を妄想してくれた様だが、具体的な死因は言えない。なので最後の奴だと思ってくれ」
お、おう、そうか。
「だがこれは手違いであって、君の魂の徳の高さから考えると、君は本来もっと長生きできて然るべき存在だった。よって、その救済のため、君には違う世界に転生してもらう事にした」
あー、やっぱ異世界転生テンプレものの流れかよ!
異世界転生もののラノベやWeb小説はそれなりに読んでたけど、まさか、よりによって自分が体験する羽目になるとは。
それより、ちょっと気になる事が。
「俺の魂の徳の高さってなんですか?」
「人は生前の行動の内容により、魂の徳が上がったり下がったりするのだよ。君の場合は前世と言うよりも、前世を含んだそれ以前の徳の積み重ねが良かったのだろうね」
へー、そうなんだ。記憶がないから思い当たる節がさっぱりないけど。
「それじゃあ、その魂の徳の高さに免じて、今までの世界で生き返らせてもらうって事は?」
「それは不可能だ」
即答かよ、おい!
「大体、違う世界に転生って言っても、それってなんの救済にもなってないような気がするんですけど」
「心配は無用だ。幸い君は前の世界で中々良い名前を貰ったようだ。なので、君にはその名に相応しい存在に転生して貰おうと思っている」
ん? 俺の名前がどうした? というか、何の答えにもなってないんだが。
「それって、どういう意味で――」
「ではそろそろ時間だ。それでは良き転生を」
「ちょっ、まっ――」
そこから俺は、睡眠状態に陥るかのように、徐々に意識を失っていった。
途切れゆく意識の中で、チートなスキルの選択授与とかはないのかよ? だの、もっと詳しい説明があって然るべきだろうが! だのと憤慨する俺であった。
憤慨しつつも「そういや最近の異世界テンプレものだと、巻きで進行するのが主流だっけか?」などと、益体もない事を考えていた。