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夕顔

作者: 若葉茂

 いま世界のどこかで泣いている、

 理由もなく泣いている者は、

 私を泣いているのだ。


 いま世界のどこかで笑っている、

 理由もなく笑っている者は、

 私を笑っているのだ。


 いま世界のどこかで歩いている、

 理由もなく歩いている者は、

 私へ歩いているのだ。


 いま世界のどこかで死にかけている、

 理由もなく死にかけている者は、

 私を見つめている。



 私の妹は「で蚊い」による出血性ショックで死んだ。マゼラン一行による世界周航完遂の四百九十六年後の四月のことである。享年二十四歳であった。99.、小数点以下に9が星の数ほど並ぶ、高純度の「チのフル」を七日間連続投与したのだが、「で蚊い」に吸い上げられた乙女の純血は甚大過多であり、狂暴なる吸血の前では、「チのフル」も限界であったと、奇病専門医院の担当医は、強度近視の渦巻き眼鏡をトールネードさせながら言っている。


 私は妹を目の中に入れていたので、その死は目の光を折りとられたように堪えた。夏は過ぎ、風あざみ・・・・・・、少年時代からお小遣いを割いて妹に本を買ってあげる趣味があったが、いつも妹はその名の菫をSMILEにしてニコニコしていた。花市に連れていく。水族館に連れていく。それがいつもニコニコしながらついて来るといった風である。殊に思春期になって夏祭りで出目六を掬ってからそれが甚だしい。私はそういう妹を自然とさりげなく可愛がるのが好きであった。出目六は突き出た目の金魚、出目金である。その出目具合の完全性が私をして出目六と名付けさせた。ちなみに六は人間の知る最も小さな完全数である。人も一驚を喫すると目が飛び出るのだから掬ってあげないと、それが妹の崖の上の主張であった。


 一度だけ、たった一度だけ喧嘩をしたことがある。兄妹(きょうだい)喧嘩など言葉の無駄遣いなのだが、無駄、無駄、無駄っと、ジョルーノを連発してしまった。

 妹は杉ちゃんに出逢う前、加重檸檬に心を寄せていた。檸檬は小説家の卵で、その水際立ったレモネード投法は、読者の脳にたった一個の檸檬を爆発させて、奇怪な蜘蛛の巣を残していた。私は檸檬が好かなかった。

「ないであいつは不吉な塊ばかりを読者に残すんだ。そしてそれは未回収のまま終わる」

「檸檬君は世界の村上に、ためをはるきなのよ」

「世界の村上? 私は宇宙の○△だぞ。不吉な塊なんて神道でも、仏教でも、イスラム教でも、キリスト教でも回収されなければ、無宗教に改宗して回収されるべきなんだよ。それにレモンイエローなんて絵の具のチューブから搾り出すものではないだろう。そう、もっと自然で爽やかな・・・・・・、木陰の岩間から涌き出る清水のような」

 二人は加重に耐えきれず、無理やり搾り出されて不機嫌そうに出てくるレモンイエローを想像して微苦笑した。後には壊れやすい風鈴の風の音だけが残った。この風の音の意味を二人は知っていた。


 妹にはどこか鬱持ちなところがあった。私が買ってあげた「アフロを燃やせ」の一節を諳じては、「アフロなんて燃えてなくなればいいのに」とよくいったものだ。これはその一節である。


 ソーダはラムネを呼んで、剃り立ての頭を持って来いと命じた。アフロが来た。スカイは不協和音を感じて、振り返ってじっとソーダを見詰めた。剃り立てならばマルコメでもスポーツ刈りでもよいのである。アフロが来たのはピサの斜塔の傾斜(なぞえ)を転げ落ちるようなものであった。ソーダにはそれが幸いした。ソーダは炭酸(ガン)のフォースに集中した。

 

 「アフロを燃やせ」は、父親にも打擲(ちょうちゃく)されたことのない少年スカイが、管制空域を閉塞するアフロ連体から理不尽な攻撃を受け、その鬱積する怒りを発条(ばね)に、アフロ連体との四面楚歌の戦いを起こす戦争の小説であり、野鶲(のびたき)の巣を提供するロボットアフロとの出会いを通じてアフロ連体と和解する平和の小説である。


 妹が心に快く蔵ったのは、スカイが炭酸銃の秘術を伝授される場面である。妹がとりわけ感心したのは、アフロが来たの一句である。普通のライトノベルの作家なら、剃り立ての頭を持ってこいと命じて、その頭が来るところで、アフロが来たとは書けない。仮に書けたとしてもアフロを様々な形容詞や形容句でどどめいろに塗りたくってしまうのが必定である。・・・・・・たとえば、コルクの栓の音、その役目から放たれたーーー束縛から解放された瞬間の、へんに間が抜けた乾いた、おもえばどことはなしになにかの(きざし)が感じられる(てい)の、ふしぎな音・・・・・・、こういった形容詞句の連続は、フィギュアスケートのステップシーケンスのように、もはや我々のものになっている。我々が何がなんでも習得しなければならないのは、粗雑で、ゴミゴミした、無神経で、冗長な、甘い、気の抜けた、下卑て、不透明な、文章の塗り絵を絵画に精錬精華するための測地線の筆致である。


 アフロが来た。

 その、簡潔、清浄、ヴィクトル・ユーゴーの世界一短い手紙のような?!に、妹は胸を染めた。


 本の売れ行きは?

 順調!

 来たのは誰?

 アフロ!


 錆びたラムネの瓶、炭酸ガスの爆発ーーー、この詩的な炭酸銃は、アフロ一基をアフロごと粉砕できた。通常の(ガン)ではアフロが燃え残ってしまう。アフロ残りとは我慢がならぬ。

 管制空域にアフロ連体が旋回している。夥しいアフロである。アフロがアフロに凝縮している。これほど鬱蒼としたものが蒼穹にわだかまっていられるのが不思議である。その上部後方の青い空にはスカイのゼロ戦(アレフゼロ式戦闘機)が遊弋して、この鬱積したアフロを見下ろしている。アフロは耳鳴りのような沈黙に耐えている。突如として炭酸銃の五月雨が放たれる。アフロ連体は神隠しにあったように姿を消し、後にはスカイのゼロ戦が蒼穹に飛行機雲の白線を流す。そういう風にアフロ連体を一掃しなければならなかったのだ・・・・・・。ロボットアフロに出会うまでは。


 妹には古きを訪ねるところがあった。歴史的仮名遣いをブレンドして、古典と現代を折衷し、フォニティークした。

「モンシロてふがシロツメ草を音なっていたわ。菫のところにも来ればいいのに」

「山際さんの白髪がましましだわ。青年と壮年のグレーゾーンに、やうやう白くなりゆく山際ね」

 などと言ったりした。

 あつさゐ、あづさゐ、あぢさゐ、あじさい、どれに紫陽花(しようか)なであった。

 それはRPアクセントに慣れた耳がコックニーアクセントに初めて触れたときのように、音の通り道、すなわち外耳道に新鮮な印象を壁画した。


 病床には詩集「献血船」をおき、枕頭の机にはソーダの瓶に切り花を生けた。二酸化炭素のジェットを噴射し、微弱なソーダ水の中を献血船がとおる。


 薄暮

 とある献血車のドアから

 美しい少女が帰ってくる

 暮れやすい一日に

 血をぬかれ

 海深く血をぬかれ

 なおも赤い夕日に十字を切って帰ってくる

 枯渇した体の

 静脈も動脈も色をしずめて

 血は夢のように流れている



 太郎を目覚めよ、太郎の胸にチのフル

 次郎を目覚めよ、次郎の胸にチのフル


 ・・・・・・・

 ・・・・・・・


 目覚めよ、菫。目覚めよ、菫。チのフル投与初日、私が、三日目には、母が、七日目には、担当医が暗誦し、快復を祈った。七日目、一瞬意識を取り戻した妹が半ばうわ言のように言った言葉がなぞとして、トム・ソーヤのペンキ塗りのように残った。

「お兄さま、ありがたう。マゼラン一行じゃないわ。芸能・・・・・・」


 妹の死後、私はたびたび妹の夢を見た。時がたった壁画を修復するように、夢はひとつの習慣になって、今日まで規則正しくつづている。時の流れのなかで薄れゆく死者の記憶を忘れまいとする意識が無意識の背中を押したのかもしれない。


 鬱は傷口のようなものだ。鬱が治りかける。すると瘡蓋のようなものができる。完治するまでは、それは目に見えている。絆創膏だと思って瘡蓋を大事に見守らなければならない。そうすれば自然と剥がれ落ちて元の皮膚が現れるように元の自身に戻れるのだから。故意に剥がそうしてはいけない。また傷口が現れて鬱が円環してしまう。ために爽と鬱を繰り返す人は全身が瘡蓋のようなもので覆われている。どうすれば全身が瘡蓋状態でありながら、それを気にせずにすますことができるだろうか。

 全身瘡蓋・・・・・・そのようなときは、これから話すロックとロックのタマンゴーを思い出して、次のように問いかけるのはどうだろう。

『ロックよ、あなたはどうして、岩で覆われながら怜悧で、他のなめこのように、飄々といていられるんだい。今すぐでなくてもいいから、いつかあなたの秘密を打ち明けてくれ。あなたの謎は分かりそうでいて分からない』

 

 ロックというなめこには、【なめこの巣】というゲームの中で出会った。岩なめこといおうか、全身を岩で覆われている。ロックの仕事は冒険の扉を開くことだ。もぐらの道、岩石の道、ホタル茸の道、あまたの道なき道を開拓し、修繕してきた。私はひと仕事終えたなめこがそうするように、畑のほとりの岩に腰かけていた。からかさなりの作物が西日をこして内部から明かりが灯ったように畑一面に秀でている。私は赤煉瓦の図書館の壁が横向けに遠く感じられるような不思議な感覚に襲われた。

 ロックが来た。ロックは夕日の光のぬめらんとするままに、岩肌に清水の汗をながしている。

「んふんふ?」

「んふんふ!」

 なめこ流の挨拶をすますと、

「あれはなんの作物です?」

 と私は指さした。

 ロックはマニュアルモードで答えた。

「コムギノコっていうもんです」

 私は初めて雪のかまくらに入った少年のような気持ちで訊いた。

「コムギノコってなんです?」

 ロックは、靴紐をほどいたハック・フィンのようにノンマニュアル気分で応えてくれた。

「なめこの小麦粉のようなもんです」


 ロックのタマンゴーは次の逸話である。

 少年も少女もナイ巣、ナイ巣、ナイ巣に浮かれ、夢中になっている。指を課金課金鳴らし、なめたまの散財の限りを尽くして、ない巣は一日にしてなるという者まで現れていた。ない巣は一日にしてならず、ロックは諫めたのである。

 何の道具を使わずに、すわれる岩にタマンゴーを立てられるかな?

 タマンゴーはティファニーの愛した卵形をしている。

 誰彼が挑戦し、坂道コロンブスであった。巣の百年を百億のためたまに替えた子もとうとう降参した。ロックは事もなくげにやってみせた。自身の額でタマンゴーをうち割り、岩に立ててみせたのだ。


 ☆☆☆

 夢の中では妹は必ず探していた。それはチルトン先生の処方箋のようなものだ。スノー婦人やペンデルトンの忘れていた青空がポリアンナの瞳に見つかるように、出目六のビッグアイに見つかったのである。

「よかったね、見つかってよかったね」

 そう言いながら、私は一筋の不安をぬぐえずにいる。本当にそんなものが見つかるのかという疑う気持ちをぬぐえずにいる・・・・・・。

 純血を吸血する者は決して純血について知ることはできない。また、純血を吸血しない者も純血について十分に知ることはできない。そうであるなら純血の秘密の形代(かたしろ)など見い出されたりするのだろうか。


 私は世界一周旅行を中断して家へかえった。夜である。家へかえって又世界一周旅行を再開しなければならない。港のホテルまで傭ったタクシーを、門前に待たせてある。

 私は家の中をさしのぞく。家の中は静まりかえっている。みんな留守のようだ。

 しばらくして玄関に出てきたのは妹である。

「菫一人かい?」

「そうよ。お留守番なのよ」

 私は妹がいることに何の不思議も感じていない。家へ上がると、奥のリビングに仄暗(ほのぐら)い電灯がついていた。

 五本のストロベリーキャンドルほどの明かりである。いつもこの部屋には花にたとえたくなる明暗がある。

 妹の顔は暗くてよく見えない。着ているものの柄もよく分からない。子供のような浴衣を着て、山吹色の兵児帯をしめている。

「どんな柄、見せてごらん」

と私が言った。妹は黙って燈下に立って袖をひろげて見せた。鮮やかな若草色の地色に、優美に咲く夕顔の花。今まで咲いてきたというよりも、これから咲いていくというよりも、今咲いている。過去をわきまえることもなく、未来を夢見ることもなく、今咲いている。妹が中学生の時分に着ていた浴衣である。

「中学生のときのだね」

 と私が言った。

「うん」

 と妹がこたえた。暗くて顔がよくわからないが、うつむいて少し笑ったようである。それから手の指先を唇にあてて、何か考えるような様子をした。私がコーヒーを呑みたいと言った。妹は薄暗い台所へ立って何かごとごとやっていた。常の妹である。

「はい、ジョンコーヒー、菫はグリーンをまいる」

 妹がテーブルにコーヒーカップを置き、部屋の隅の緑のカウチに座って静かになった。私がコーヒーを呑んでいるあいだ、妹がいなくなったような気がした。液面にはブラウワーの不動点がある。散歩待ちの仔犬のようにうずうずしているように思えた。

「まだ、いるのかい?」

 私がそう訊いた。返事はないが、身じろぎするけはいがしたので、いることがわかった。

「いつまでそうしているの」

 私がまた訊いた。返事はない。しばらくして大変遠い弱い声で、

「ああ、疲れた」

 とこたえた気がした。

「なんで「で蚊い」に献身したんだ?」

「巌の上に綺麗に羽を畳んでいたわ。空いた腹からは景色が透けて、ひもじいに満たされていたの。それでも顔色ひとつ動かさずに、向こうの崖の上にしだれてるローズマリーを鷹のように凝然と見つめていたわ。ローズマリーは海のしずく、マリア様の薔薇なのよ。モスキートは羽を駆動させていないのに、耳をつんざく静寂(しじま)のようだった。それを目の当たりにしたら身を差し出すしかなかったの」

「病気はたしかに治ったのかい?」

「ええ、治ったわ、「チのフル」を七日間も浴びたのだもの・・・・・・。でも、まだ疲れている。校長先生のお話が長いのよ。長すぎるのよ。江田島平□塾長をお手本にすればいいのよ。四の五の言わずに、言うとすることのすべてを名乗りでもって一喝すればいいのよ。そうすれば朝礼中に貧血で倒れる人はいなくなるわ」

 蹌踉(そうろう)と寄って来て、深い雪に足を踏み入れたように膝をおとした。

「可哀そうに」

 私がその髪に手をやって髪を撫でた。髪は乾いていて、饒多であった。妹は又つと立って水やりへ行った。観葉植物には寛容にである。霧吹きの水嵩が減って、小さな虹ができる音がした。

「なんで世界一周にこだわるの」

 遠い声が小さな虹にまじって一様に滲んだ。

「なんで世界一周にこだわるの」

 腕時計を見たが、すでに出かけなければならない時刻である。私は玄関に行って、扉を排した。いつのまにか妹が背後に立っている。

「いってらっしゃい」

「フィリピンからスペインまでの残りを終えたら、また帰ってくる。みながかえったらそう言っておいてね」

「うん」

「じゃあ行ってくるからね」

「いってらっしゃい」

 妹は土間を下駄の爪先で軽く蹴って、行き場のない想いの行方を追うような様子をした。夕暮れの 小道を鍵っ子 鍵を蹴る。盗んだ俳句が走り出す。・・・・・・

 

 私は待たせてあったタクシーに乗って、町のあいだをしばらく往った。町はすでにネオンを消して、人通りはない。うつらうつらしているうちに、現実と夢の文色がなくなって、目を覚ました。思い当ったことはこうである。

『今会って来たのは、あれは幽霊だ。どうしよう?』

 どうしよう?には、小聡明(あざと)さが結晶していた。この結晶は良貨で引き替えることはできない。悪貨がどうしても必要だ。国際警察の重い腰をあげさせるため小芝居がはじまる。先達は銭*である。不▽子の報道部隊がつづく。カメラを止めるな。カメラのフレームを額縁にして銭*がポットアートにズームインする。

「おおっ!何だここは?まるで造幣局ではないか!あそこにあるのは・・・、ありゃー、日本の札!これは偽札だー!」

 ゴート札が潤む、揺れる、あざける。

 軽やかに、厳かに不▽子の真実の口が開く。

「たいへんな発見です」

 わざとらしさ、あざとさが炸裂する。

「見てくれ!世界中の国の偽札だー!ル☆ンを追ってて、とんでもないものを見つけてしまった!どうしよう?」

 こういう映画のひとコマが言葉になって擦過すると、妹の辞世の句の謎が解けるような気がした。身を乗り出して、運転台の背に両手を伸ばした。運転手にこう言った。

『今幽霊に会って来ましたよ』

 運転手の返事がない。私はその背に手をかけてゆすぶった。

 運転手がふとハンドルから手を離してふりむいて、こう言った。

「ま 、ぼ 、ろ 、し~」

 嗄れた、すっとんきょうな天空にかけ上るオネイの跫音(きょうおん)が脳内を土足で踏み荒らして行った。

 謎は解けた。菫の花の砂糖づけにかけて。


 マゼラン一行ではなくて、芸能・・・・・・。

 マゼラン一行ではなくて、芸能人の・・・・・・。


 マゼラン一行ではなくて、芸能人のI★★O。

 言い様のない、不可解な苛立たしい苦痛が私の耳にこびりついた。私はそれを中和してくれる四文字の言葉を探した。

 私は辞書を読んできた男だ。

 まっくろくろすけ出ておいで。

 それはジブリのページ、ま行に見つかった。

「まほろば」

 そういえば妹は鬱状態のとき、

「イーハトーブなんてないんだわ。エルドラドも桃源郷も・・・・・」

 と言って塩垂れていた。それでも、まほろばはあると信じて疑わなかった。


 まほろばには、ドーナツの椅子があるの。菫はその面に腰かけて、ドーナツの穴に足を投げ出すの。隣には杉ちゃんがいるの。

 ーーー 楽観主義者はドーナツを見て、悲観主義者はドーナツの穴を見る ーーー

 菫はうろ覚えで誰の言葉だったか思い出せないでいると、杉ちゃんが教えてくれるのよ。

 オスカア・ワイルドだろーって・・・・・・


 菫は杉ちゃんが好きです

 杉ちゃんはいつもワイルドです

 私と違って裸眼です

 二人でドーナツのレプリカに腰かけて

 水平線の三せきを眺めています

 船の三隻と夕ぐれの三夕です

 杉ちゃんと二人でいると

 むずかしいことちっとも話さない

 菫の胸のなかのむずかしいこと

 ちっとも分かってくれない

 それでも菫は杉ちゃんが好きです

 二人同じ夢をみるでしょう

 幸福な王子と星の王子様が出会う夢でせう


 妹は死んだ。それでも地球は太陽を公転し、向日葵は日に向かい、普連土には沈黙の水曜日があり、マゼラン星雲は南半球の空にだけ観測でき、ロボットアフロは野鶲の巣を提供している。・・・・・・



 歴史は繰り返す。良い歴史も?吉報を祈る。

「この小説面白かった?」

「一向にね!」

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