見えない飛行船
初夏とは思えない気温に思わず汗を流す子供達。ここは隣国と戦争真っ只中のある国の校庭だ。
空には鯨のような巨大な飛行船が遊覧船のみたいにふわふわと動いていた。ただし、校庭にいた子供達はその存在に気付いていないようだった。正確に言えば気付いていないと言うより、視界に映ってないようだった。ただ髪色の違った1人の少年を除いて。
彼は捕虜として隣国から連れてこられた少年だ。少年は驚いた様子で飛行船の存在を周りに告げたが、誰一人としてその存在を認めてはくれなかった。それは子供達が彼を陥れているわけではなく、子供達の素直な見解だった。
その日を境に、少年は元の国にいた頃を思い出すようになった。日を重ねるにつれてその現象が校庭の上に浮かんでいたあの飛行船に起因しているのではないかと思うようになった。その思い出というのは、父に工場に連れて行った時のものである。いくつかの飛行機やミサイルが無造作に散らばっている中、「極秘」と書かれた看板の敷地だけはその名の通り誰も見ることができないようになっていた。が、背の低かった少年はこっそり中を覗いくことが出来た。その時に見た風船のようなものがあの飛行船にそっくりなのだ。夏の雲のような大きな飛行船に。
次の日、校庭近くの工場に爆弾が落とされた。遠くから見ていた者によれば、爆弾は何らかの飛行物体から落とされたのではなく、空からいきなり現れそのまま落下したという。彼らの目では見れない何かがそこにあったのだろうか。
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