ヤベーぞ、修道院に逃げ込め!
とりあえず試しで初投稿した短編です。
慣れてくるまで短編を他にも投稿するつもりではいます。
「はっ!?」
この国独自の婚約の儀式を始める際に私は前世を思い出した。
そう、これは前世で一時期流行っていた乙女ゲーの世界の悪役令嬢に転生するとかいうヤツだ。
勿論、私が転生したのが悪役令嬢なのだがゲームとはまだ、同じ顔をしていない。
私が転生してしまった乙女ゲー、いや乙女ゲーと名乗る怪奇ゲーのタイトルは『覚悟の乙女』というモノなのだが、まさしく開発が他の乙女ゲーに差別化を図るべく異様なシナリオと設定を盛り込んでしまったゲームなのだ。
「どうした?まさか臆したとは言うまいな?」
父である現公爵に婚約の儀式の最中に固まってしまった事について不審な目を向けられる。その場にいた婚約者の王子殿下と他の王家の皆様、私の父以外の家族も表情を険しくしている。
・・・ヤバイ、よりによってこのタイミングで記憶を取り戻すとは・・・いや、むしろ取り返しがつかなくなる前に記憶を取り戻せた事を喜ぶべきか。
現状を把握した私は迷わず手にした刃物で髪を切った。
「私は王家の末席を汚す事の責務に臆しました。この断髪を持ちまして修道院に向かいます。」
周囲は騒然となる。だが構わない。ここを逃したらあのヤバイシナリオに乗らなくてはならないからだ。
・・・そもそも、婚約の儀式とやらに刃物を持っている事に皆さんは疑問に思っている筈だ。理由はこの世界が少なくともあの『覚悟の乙女』に類似したヤバイ世界の婚約の儀式にある。
その婚約の儀式とは違いに婚約の際に顔に傷を自ら付けて他の異性を誘惑出来ない様にして誓いを立てるというイカレたモノだ。その際、傷が大きく醜い程相手に対しての想いが強いとされるというそんな世界にどうすれば現代日本人女性が憧れるんだと一晩中問い続けたくなる儀式である。
先程、『まだ』ゲームと同じ顔をしていないと言ったがゲーム中の悪役令嬢こと私は左のこめかみ辺りから右頬にかけて大きな古傷が特徴である。悪役令嬢というより最早女海賊とか女盗賊と言った凄味のある顔立ちになっていた。
無論、本編中にも頭おかしいシナリオ満載であり定番の断罪シーンでの悪役令嬢はその場で割腹、介錯も拒否しながら王宮前まで歩いて行き、無念を叫びながら立ち往生すると言うゲーム中のヤバイエピソードベスト3に入るアレな内容である。
その後の事はあまり覚えていない。
とにかく慌ただしく修道院に送られたのだが意外にもあまり責められる事は無かった。
父や他の家族からも王家に臆病な娘を送り出さずに済んだ、よくぞ逃げる決意を決めたと言われた。
・・・きっと、世界はおかしくとも良い家族だったのだろう。そもそもゲーム中でも悪役令嬢は元平民のヒロインちゃんをイジメたりはしてなかったし、歪んだ性格をしたキャラじゃなかったりで『悪役』ではあっても家族含めて『悪』では無かったのだろう。
もっとも元平民のヒロインちゃんにこの歪んだ世界の貴族の過酷過ぎる風潮は中々馴染めず、イジメと思われて私は断罪までされてしまう訳だが。
とにかく、普通に暮らすだけでもこの世界の貴族の暮らしは転生した元日本人にはキツすぎる!私は修道院に逃げ込んだのであった!
「で、なんで貴女まで居るんですかねぇ?」
「いやいやいや、こんなヤバイ乙女ゲーのヒロインなんかやってらんないでしょ?」
「「ですよねー!!!」」
修道院にはやはり日本から転生してきたヒロインちゃんが居た。例の断罪シーンよりも更にヤバイシナリオがゲーム中でも二つは存在するようなヒロインとかどんな罰ゲームかよ!って話である。彼女はゲームでは色々あって聖女として認定されて男爵家の養子となるのだが、確実にゲームシナリオから逃げる為に平民の内に修道院に逃げて来たのだ。
さあ、ヒロインちゃんと仲良く修道院ライフを送るぜ!!!
尚、この後修道院では何故か昭和末期の少年漫画的努力友情勝利な汗と血に塗れた修行生活が待っているのであるがそれはまた別の話である。
悪役令嬢・・・今回の主人公。名前も考えていたが別に無くても問題なかったので省かれた。実は前世は男でこのゲームはクソゲーと評判だったのでやってみてその独自の世界観にハマってやりこんでいた。
現公爵・・・悪役令嬢の父親。ゲーム世界における一般的な価値観の大貴族。名前も考えていたが(以下略)。
王家の皆様・・・間を持たせる為になんか喋らせるつもりだったが別に喋る必要も無かったので背景になった。
ヒロインちゃん・・・転生者で前世はぼっちで無趣味な女の子だった。せめてオタク女子のグループに入ろうと乙女ゲームに手を出してよりによってイロモノを掴んでしまいより孤立した可哀想な娘。最後にちょっと出るだけだから名前すら考えてもらえなかった不憫なヒロイン。ゲーム中でも酷い目に合う不幸過ぎる存在。かわいそう。