軽率
小屋の中
「おい。オルフェ公爵家には手紙を送れ。娘は預かったってな。」
その横には縄で縛られたジュリエットがいた。
「どうして殺してくれなかったの。もう生きている価値なんて私にはないのに。」
少女の目からは生気を感じられない。
「お嬢ちゃんはこれからお金になるまでおじさんたちと一緒だ。お嬢ちゃんの家がお金を出せば開放するし、出さなかったら奴隷として売り飛ばす。精々支払われることを祈ってるんだな。」
返すわけねえだろ。結局は奴隷として国外に売り飛ばすんだけどな。
アルが崖の装置を回収して戻ってきた。
「ジュリ・・・。」
「どうした。急に。」
「い、いえ。別に。お腹すいたなって。」
「そうか。変な奴だな。」
なんとかごまかせたかもしれないが、なぜジュリエットがここに。助けなければ。しかし、どうする。
「成功を祝って飲むぞ。」
「おう!」
なぜか、宴会が始まってしまう。
しめた。山賊が酔っ払ったうちに連れて逃げよう。
夜
「ジュリエット。起きて。ジュリエット。俺だ。アルだ。」
疲れて寝ているジュリエットを起こす。
「あなたは、誰?私の知っているアルはもう。」
ジュリエットの頬に再び涙が流れる。
「あれは俺であって俺じゃないんだ。」
「言っていることが分からないわ。」
「俺は人と体を入れ替われる体になったんだ。それで、この兵士の体を奪ったんだ。」
「そんなの作り話だわ。子供だと思ってからかわないで。」
「じゃあ、二人だけの秘密。学校に一本だけ植えてある幹がハートに見える木の下に俺は本、君はペンダント、そして未来への手紙を入れて埋めたよね。」
「!。それは、私とアルしか。アルが約束を破るとも思えない。本当にアルなの。」
「そうだよ。早く逃げよう。後でもっと詳しく説明するから。」
「わかったわ。今はあなたの言葉を信じるわ。ただし、信じられなくなったら。」
「その時は好きにしてくれ。」
アルはジュリエットの縄を解き小屋から逃げ出す。
山道を下ってゆく。
近くに川があった。
「そこで、休憩を取ろう。」
俺は大丈夫だったが、ジュリエットの体を気遣う。
アル自身ももう無事に逃げ切れたと思っていた。
「どこへ行くんだ。」
「ちょっと。」
「ちょっとで、お嬢ちゃん連れて逃げるた~なあ。」
まずい。どうする。せめて、ジュリエットだけでも。
俺はジュリエットに抱きついた。
兵士とジュリエットの体が入れ替わる。
「へ。これってどういうこと。」
「逃げろ。」
コクリ。
兵士は必死に逃げた。
「おいおい。お嬢ちゃん見捨てて逃げんのかよ。」
「逃げるんじゃねえ。」
隷属印が赤く光り、兵士の体に激痛が走り倒れこむ。
「殺れ。」
茂みに隠れていた山賊が兵士を刺す。
「ぎゃああ。」
しかも、すぐに殺さずにじわりじわりと。悲鳴を楽しむかのように。
「やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめてくれ。」
そして、兵士は死んだ。
それは、あまりにも酷いものだった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
俺は気絶した。悲しみ、怒り、恨みに耐え切れずに。