誘拐
今回は主人公が出てきません。視点がぐるぐる入れ替わるので読みにくい、理解しにくいかもしれません。
馬車の中
「はっはは。今でも思い出すわ。あのレグール家の処刑。夫婦は意識がなかったのが、つまらんが、あのガキの絶望の顔。なあ、ロイよ。」
ロイはオルフェ公爵の親衛隊隊長を任されている男だ。
「オルフェ様、ジュリエット様の前でそのような発言は。仲の良かったご友人を亡くされたのですから。」
ロイは隣に座っているまるで人形のような容姿の公爵の娘ジュリエットを気遣う。
「あのガキか。ジュリエットよ。付き合う相手は考えろといつも言っているだろう。泣くんじゃない。鬱陶しい。」
ジュリエットは青い瞳から流れる涙でピンク色の華やかなドレスの袖がぐしゃぐしゃになっている。
「 だって、あ、アルはぐすっ。学校で私にいづも優じく接じで ずずっ くだざっていましたの。それをなんで、どうして、殺したりしたの。アル だけなら 家で引き取ることもできたでしょう。それにお父様だってレグール家とは仲良くしていたではありませんか。」
ジュリエットの青い瞳の中には怒りなどといった感情の炎がメラメラと燃えている。
「あれは大人の付き合いというものだ。ジュリエットにもいずれ分かる。それに優しくしていたのは公爵の娘だと知ってのことだろう。ほんとうに嫌なガキだったな。」
ブチッ。ジュリエットの中で何かが切れる音がした。
「殺してやる。(ぼそっ)」
「ジュリエットなんて言った。」
「殺してやるって言ったのですよ。お父様。」
口は笑っていても目が笑っていなかった。
「殺してやるか。周りから何度も私は同じことを言われた。だがな。今まで誰も殺せていない。儂には優秀な部下がいる。ロイもそうだ。我が領地においては右にでるものなしとまで言われた男。勝てるやつなどそうはいまい。いつでも殺しに来てよいぞ。ほれ、ナイフだ。フッハハハ。おっと。無駄だと言っただろう。」
公爵の笑い声の中、ジュリエットがナイフで刺そうとするがロイに止められた。
その時だった。
遠くからこちらに向かって地響きのような音が聞こえたのは。
その音が鳴りやむと兵士が駆けてきた。
「お知らせします。何者かに前方を岩で塞がれ身動きのできない状況です。危ないので馬車からは出ないでください。」
「引き返すんだ。」
「敵襲。敵襲。」
「オルフェ様はここにいてください。」
ロイはすぐに馬車から飛び出した。
「どうした。すぐに兵をかき集めろ。引き返すぞ。」
「無理です。後方も岩で塞がれ身動きが取れず、また、兵もここにいるのが全員です。」
しまった。油断した。私をいれて8人しかいない。
「ぐはっ」
上から山賊どもが降ってくる。兵士が一人討たれた。
山賊の一人が近づいてくる。その男を私はよく知っている。
「よう、ロイまさかこんなとこで出会うなんてなあ。」
「師匠とはもう呼びませんよ。元王国騎士団1番隊隊長アルバート。あなた堕ちるところまで堕ちましたね。」
「俺を止めれると思ってるのかよロイ!」
激しい戦闘が始まった。
「まったく儂の兵士たちは何をしておるのだ。さっさと殺せ。儂を助けるのじゃ。」
馬車の窓越しに様子を伺っていたオルフェ公爵の後ろにジュリエットがゆっくりと迫る。
「どうせ、殺されるのならせめて私の手で殺して あ・げ・る。」
怒りと恐怖でジュリエットの人格が崩壊していた。
グサッ。
「ぎゃー。なに を。」
馬車から叫び声があがる。
「オルフェ様。」
「油断したな。」
ズシャ
「しまっ た。」
「たく、誰だ公爵のやろう襲ったの。計画では俺がって。 お嬢ちゃん何してんだ。」
「殺すなら殺せばいいわ。私は殺されるならせめて恨んでいた父を殺しただけよ。」
その手には血にまみれたナイフ。返り血を浴びたドレス。言っていることは本当のようだ。別に誘拐する相手は公爵じゃなくてもいい。むしろ、軽い嬢ちゃんのほうが楽そうだ。
「作戦変更。お嬢ちゃんを連れていく。来い。」
ジュリエットを連れ出したときにはもう兵士たちは皆殺しにされていた。
「野郎ども。引き上げだ。俺は先に行っている。小屋で会おう。」
仲間に合図を送りアルバートとジュリエットは崖の上に送られた。
他の山賊たちも崖を軽快に登って行った。