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料理

数か月後

アリーナの部屋

いつものように部屋で入れ替わる。

「最近お父様があなたとの仲ばかり聞いてくるの。もしかして仲が悪いのかと心配しているのかしら。」

この頃にはアルとアリーナにはある種の信頼関係のようなものが芽生えていた。

「そうですね。あまり疑われていては追放されてしまうかもしませんね。」

「わかったわ。今日は私が昼食を運んであげるわ。少しはましになるかもしれないし。」

「そうか、ありがとう。」

「別にアルのためとかじゃないから。あなたが追い出されてはゆっくり書庫で本を読めないじゃないの。」

「そうか。ごめんね。」

「いいから行きなさい。」

俺は部屋を後にした。


厨房

「今日からアリーナ様に昼食のお弁当を持っていきたいのですが。」

料理長に頼んでみる。

「それはいいがアル。てか、お前はそろそろ厨房で料理の練習をしたほうがいいんじゃあないのか。好きな子が出来た時にアピールできないぞ。それにアルが料理したほうがアリーナ様もお喜びになると思うぞ。さあ、こっちにこい。教えてやる。ガハハハッ。」

私は腕を掴まれ連行される。

「ちょ、ちょっと読書タイムが。」

「読書で腹は膨れん。読書で料理は身につかん。何事も実践実践。」

人生で初めての料理をすることになった。

「とは言ったものの。いきなり難しいものも作れんしな。厨房にあるものでアルぐらいの初心者が作れるのは、ハムサンドくらいかな。」

はあ。何で私がこのような目に。

「まずは、キャベツの千切りからだな。ほれ、包丁だ。」

さっさと終わらせて読書をしましょう。

「まずはお手本だ。利き手で包丁を持ち、反対の手でキャベツを持つ。その時キャベツを持つ方の手は猫の手のように丸くする。」

猫の手のように。こうかしら。

「そして、あとはこのようにたったったっと。」

急に擬音語が入ってきましたわ。でもすごい早い。

「最初は早くなくてもいいから丁寧に切ること。指なんかを切るぞ。やってみな。」

トン・・・トン・・・トン・・・。

あれ、たの・・しい。

「よし。それくらいでいいだろう。で、今切ったキャベツとマヨネーズ、ここで隠し味にマスタードを混ぜ茹でたハムにチーズを用意して、バターを塗ったパンでそれらを挟む。なっ。簡単だろう。じゃあ作ってみようか。」

「はい。」


「できた。」

「おお。はじめてにしては良くできたんじゃあないか。」

褒められた。人に褒められたのはいつぶりだろうか。

「早く持って行ってあげなさい。アリーナ様お腹を空かせてると思うから。」

「うん。」


道場

やっと闘気を全身に纏わすことが出来た。

あとは、一点に集中させるだけ。

「アリーナ様。昼食をお持ちしました。」

アル(アリーナ)が入ってくる。

「アリーナ様。昼休憩にしましょう。では、また一時間後に。」

「はい。よろしくお願いいたします。」

教官が道場から出る。

「はい。アル。言った通り持って来たわよ。昼食。」

「ありがとう。美味しそう。いただきます。うわー!美味しい。」

私の作ったものでこんなにも人が喜んでくれるなんて。

「っふふ。美味しいでしょ。それ、私が作ったんだもの。」

笑顔でアリーナは言う。

ドキッ。

その笑顔はなんとも柔らかい笑顔をしていた。

「料理ってすごく楽しいものだったのね。私知らなかったわ。」

「じゃあ、また作ってよ。」

「気が・・向いたらね。じゃあ、私そろそろ行くわ。書庫で本読みたいし。」

「わかったよ。ありがとう。」

「ん。」

アリーナはあっという間に道場から消えた。


それからはアリーナは毎日昼食を作りアルに持っていくようになった。

作っていることはアルには内緒で。


厨房

「旦那様。どうされたのですか。」

「いや何。最近アルがアリーナのために昼食を作っているとか。」

「はい。それはもう。毎日熱心に楽しそうに習っていますよ。」

「そうか。そうか。指導頼んだぞ。」

「はい。任せてください。」

厨房を出ると窓から道場が見える。

そうか。アルもアリーナも青春しているんだな。父さん応援してるからな。

・・・娘の料理、食べてみたいな。でも、料理などしないだろうな。

今はただ、強くなってくれ。

後悔をしないように。

・・・私のように。ああ。クリスティーナ。

未熟だった私を許してくれ。

もっと強ければ。

もっと早く気づいていれば。

あんな戦争にならなかったんだ。

エルフ族との戦争には。

いかんいかん。こんな所で涙を流しては周りに示しがつかないな。

頑張るんだぞ。二人とも。

私は仕事場に戻っていった。


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