闘気
次の日の朝
「おはよう。朝食をとって早速やって貰いたいことがある。また、私の部屋に来てくれ。」
「はい。わかりました。」
また、もふもふでもするのだろうか。
朝食を終えて旦那様の部屋に向かった。
部屋に入ると旦那様ともう一人小さい子供がいた。
「この子は私の娘のアリーナだ。この子は内気な性格で外で遊ばずに本ばかり読んでいるんだ。歳も近いからすぐに仲良くなれると思うし、一緒に外で遊ぶのは身体的に無理かもしれないが、このままでは幼少期の大切な時期に友達がいないのもどうかと思っていたんだ。だから、よろしく。私はこれから仕事だ。」
「いってらっしゃいませ。旦那様。」
そう言ってフォーチュン伯爵は仕事に出かけた。
部屋に取り残された二人。
「ねえ。あなた、もういいわよ。私からは楽しかったとでも言っておくわ。」
だが、俺はあることを思い出していた。
スキルや能力を自分のものにできる。
そうだ。俺にはこれがあった。
「アリーナ様。もっと怪しまれない良い方法がございますよ。」
「ほう、言ってごらんなさい。」
「私がアリーナ様に代わってって言うよりも実際に見ていただいたほうが理解できると思います。」
そう言って俺はアリーナに抱きつく。
「な、なによ。これ。私があなたになってる。」
「そうです。これは人と人との魂を入れ替える魔法です。これで、私が外で遊び、アリーナ様が私の姿で本を読めば問題ありません。」
「そうね。それは名案と言うとでも。もし、あなたが私の体を奪って逃げてしまっては意味がないわ。」
その発想はなかったが今は逃走よりもスキルと能力を取るべきだ。
「確かにそうですがこの魔法は一定の時間魂が元の体に戻らないとアリーナ様の魂が自分の体に戻ろうとする力で追い出され私は死にます。どうですか。これでもまだ私が逃げるとでも思いますか。」
咄嗟についた嘘だった。
「いいわ。信じてあげる。じゃあ、早速書庫に籠るから。」
「信じていただけるのですか。」
「まあ、このまま逃げられても良いと思ったまでです。」
「そうですか。分かりました。では、アリーナ様を裏切らないように致します。夕刻までには戻ります。」
俺はそのまま外に走り出した。
うわっ。体が軽い。
だが、スキルや能力ってどうやって身につけるんだ?
まあ、適当に枝を振ればいいのか?
俺は茂みに入って剣術の真似をする。
数十分後
あれ?どうもならないぞ。
「お嬢様?さっきから何をされているのですか?」
やばい他の人に見られた。
「まさか、お嬢様がやっと武術に興味を持たれたのですか。」
どうしよう。話を合わせよう。
「えっ。ええ。最近剣術に興味が湧いて。」
苦し紛れににごまかしてみる。
「そうですか。ですが、申し上げにくいのですが私たちは種族的に剣術のスキル及び能力は全くと言っていいほどありません。ですので、私どもは素手で戦います。種族的にも身体能力は他の種族には負けません。」
「でも、素手で剣にかなうの?」
「はっはは。そのために闘気を体に纏うのですから。」
「その闘気を私に教えて。」
「はい。このマック全力でご指導します。フォーチュン家は代々武道を生業としてきた家柄です。素質は十分にあるはずです。頑張りましょう。」
武闘派って旦那様見てる限りそんな風には見えなかったぞ。
「では、まず闘気を改めてじっくりと見てもらいます。ここに木があります。普通に殴ると。フン。」
ドン。ベキッ。
「これ位なのですが。」
これ位?木が一本折れたぞ。
「闘気を拳に纏わすと、ハー。」
拳がうすく緑色に光る。
ドン。
おい、拳の当たった木どころか拳圧で周りの木が吹っ飛んだぞ。
「まあ、こんな感じでしょうか。私はまだまだ未熟者ですので、旦那様のように闘気を直線上に放つことができません。まあ、この技術はほんの一握りのものしかできません。では、特訓していきますか。」
「はい。お願いします。」
これを学べば火器を使わなくても同等の威力が出せる。
屋敷内道場
「ではまず、そこに正座してください。」
「もっとこう筋力とか持久力とかつけないのですか。」
「そんなものは生まれながらについています。まずは正座してください。」
俺は静かに正座する。
「目をつぶって。精神を落ち着かせて体の中にあるなんかこうメラッとするようなものを。」
メラッってなんだよ。あれ、これのことかな。
「その感情を高ぶらせてください。ゆっくりとですよ。」
「ハッ。ハッ。ハッ。」
息が荒げる。やばい意識が。
「お嬢様。ペースが。不味いぞ。」
俺は、突然暴れだした。
道場内を縦横無尽に飛び回る。
「お嬢様すみません。」
俺は頭を押さえつけられ止められる。
だんだん意識が戻ってくる。
「お嬢様。良かった。まだ浅かったのですね。」
俺は何が起こったのか分からなかった。
「今のは狂化といって闘気を暴走させた状態です。これは、我々の最終手段といえる代物ではありますが、闘気を扱うのが非常に難しいのです。さきほどのように意識がなくなって暴れだすくらいならまだ良いほうです。闘気の力に体が耐え切れず内側から破裂することもあります。最初は闘気が育ってないのでそんなことにはなりませんがね。」
「わかりました。気を付けます。」
「まだ、やりますか。」
「もちろんです。」
そして、また気持ちを落ち着けていった。




