第5話「一緒の帰り道。」
学校からの帰り道。なんだかんだでもう夕方だ。
自分でいうのは恥ずかしいが一目ぼれした相手と初日から一緒に帰る事ができるとはなんという幸運。
夢心地でぼんやりしながら歩いているとポケットの携帯が鳴り、はっと目が覚めた。
「誰だ、、?」
メッセージの相手は、瞬太郎?
『真、どうだい?上手くいったかい?』
『ああ、おかげさまで現在進行形で一緒に帰宅中だ。』
『おっとこれは予想外。さすが真だね(笑)』
瞬太郎の顔が浮かんでくる。こいつ、、馬鹿にしてやがる、、。
何か返そうかと思ってたが蔵屋敷と一緒に帰っている状況で携帯をいじってるのも良い事ではないな。
ポケットに携帯を押し込んだ時に蔵屋敷が話しかけてきた。
「電話?」
「いや、メッセージ、瞬太、、相沢から。大丈夫だったかと。」
「わざわざメッセージくれるんだね。」
「まぁ中学の頃からそんなんだったよ。まぁ中学からの知り合いだとそんなもんだよ。」
中学1年で会った時の瞬太郎にはどうも壁が感じられたものだったが、いつの間にか打ち解けていた。どんな理由で仲良くなったか、なんて数年もの付き合いになれば忘れるものだが最初の印象は少し悪かったのはよく覚えている。にっこりとして握手を求められたときは正直不気味な感じがしたものだが、しばらくするとそれは薄れていった気がする。
「あ、そういえば蔵屋敷さんの家はどのへんなの?俺んち方面てことは7区辺り?」
あそこは確か2年前に大きな林があったのだが開かれて住宅街7区となっていた。
引っ越してきたのであればそこにいるのではないだろうか?
「うん、そのとーり。こないだ引っ越してきたばかりだからね。あそこはまだ静かなんだよ。」
「へぇ、あそこにはめったに行かないから知らないなぁ。」
「そうなんだ?」
「まぁ友達もあんまりいない、というかまともに話してるのは相沢くらいだよ。」
「そうなの?意外だね。葉山君みたいに面白い人なら友達いっぱいいると思ったのに。」
______あれ?なんだこの違和感。蔵屋敷は別に変なことは言って、ないよな?
「面白い?俺が?はは、お世辞なのがバレバレだよ。」
「そんなことないよ~」
など話しているとやがて俺の家の前に着いた。
「俺んちはここだから______」
じゃあね、という言葉を飲み込んだ。
「ちょっと待ってて。」
俺は鞄を置いてすぐに蔵屋敷のところまで戻った。
「ん?どうしたの?」
「いや、ここから7区まで歩いてったら少し暗くなるから送るよ。」
少しぽかんとした表情の蔵屋敷は少しして目を伏せた。
「あ、ありがとう、、。」
「普通だって。」
これで合ってるよな!?瞬太郎!?俺は正しいよね?正直顔から火が出そうだよ!
と、その時、こちらへ向けていた蔵屋敷の顔が夕日に照らされたとき、
その顔がふいに無表情に見えた気がした。
しかしすぐに笑顔に変わり軽やかな足取りで歩き始めた。
「・・・・?」
気のせいか、緊張してるんだもんな。
その後は特に何を考える訳でもなく7区の彼女の家まで送り、帰り道。
現時刻は17時30分。春の日の入りは18時くらいだ、もう既に少し暗くなり始めている。
春とはいえこの時間帯だと少しばかり寒く、身を震わせた。
気づけば俺は、空を見上げて今日起きたことを振り返っていた。
______あまりにも展開が早すぎる。
それが俺の素直な感想だった。しかもそれはいい意味ではないのが頭を悩ませる。
まるでゲームのような、こうなることが決定していた、と言えそうなほどに都合がいい。
別に悪いことが起こるとか思ってるわけではない、が、不気味だろう。
ここで運を使い果たしたのではないかと思い、暴漢がいるのではと何回か勢いよく振り返ってみたりするが別に何もありはしない。
「ふぅ、、。」
不気味だと思うことを一つ一つ整理していく。
①まず瞬太郎に譲ってもらったこと、これは特段不自然でもない。あいつが副委員長について時点で可能性としては十分に考えられたことだ。
②では一緒に職員室にいったこと。これも彼女が責任を押し付ける訳にはいかないと考えている性格だから、ということで説明はつく。
③だったら『なぜ一緒に帰ったか』、これが謎だ。落ち着いて考えてみればどうして彼女は俺の家が5区にあることを知っているんだ?家が7区で5区の通り道だから一緒に帰ろう、これは男同士なら十分に起こりうる事象ではある。しかし会って間もない男と帰ろうとするか?普通。
そして俺が感じた2つの違和感。何だったんだあれは、、、。
考えられる可能性を挙げてみる。
①家に関して、確か掃除の最中に委員長と副委員長は先生の手伝いに行ったはずだ。その時に名簿かなんかでたまたま見た?まさか、写真記憶を保有しているわけでもあるまいし、その時は俺の事をまともににんしきもしてなかったはず。もし認識する可能性があるとするなら、、。瞬太郎か?
あいつが俺に関する話題をそれとなく振っておき例えば、、。
『真は僕と同じで5区に住んでて、中学から友達なんだよ。』
とか言っていた。うん、これは十分にありえるな。ならばこの件はこれでよしとして。
②一緒に帰った理由。これも瞬太郎が関係してるのだろうか?何か吹き込んだとしたらあいつの話術は神の領域なんじゃないだろうか、悪用したら金が生まれるぞきっと。
まぁ何か探らなければいけないようなことでもないか?こうやって推論をたててみたところで結果は変わらないし、むしろ偏見を生んで今後の影響に支障が出るかもしれない。
「忘れておこうっと。」
そんなことを考え、ぼやきながら俺は家路についた。