第3話「愛さない男と花を愛する女。」
おひさでっさ。
(追記)タイトル間違えてました。ごめんなさい、「を」→「と」です。
「なるほど、あの真が一目ぼれと。蔵屋敷さんに。」
瞬太郎はニヤニヤとしながら俺を見つめる。
「あの、とはどういう意味だ、、。」
「分からないの?僕から見たら君は恋なんかしないし、ましてや一目ぼれなんて。打算的でなんでもかんでも達観したような口調で最初から諦めモード。挑戦してもすぐに飽きてなんだかんだの理由を付けて投げ出すし、勉強も頑張るわけでも、サボるわけでもない。何事も中途半_____」
「分かった分かったよ。そんなことをいうのは母さんだけで十分だよ、勘弁してくれ。」
俺はさすがにうんざりして口をはさんだが、瞬太郎が言ってることは否定できない。
確かにオレはいつも逃げ腰だ。
瞬太郎には言っても気づかれてもないだろうが、少しばかり気になる子はいた。
けどどうせ俺とは付き合ってくれはしない。
なぜなら俺はロマンチストの夢を見るリアリストだからだ。
これがしたい、あれがしたいとは思ってみても、すぐに「やらなくていい理由」を探す。
中学だけの生活でそれを見抜くとは、瞬太郎も大したもんだ。
などと少しばかり感心していると、
「それで、どうするつもりなのさ?」
「どうする、とは?」
「決まってるでしょ、蔵屋敷さんに、告白でもする気かい?」
瞬太郎がため息をつきたそうな顔で言う。
「どうしてお前がそんな顔するんだよ、、。まぁ、してはみたいが出会ってすぐ、という訳にもいかないだろう、、。どうすればいいと思う?お前こういうの得意だろ?」
「あのねぇ真、君から見たら僕に友達が多そうで、そういうことに詳しいと勘違いしてるようだからこの際はっきり言っておくけど、僕は女の子と付き合ったこともないし、これからそうするつもりもないんだよ。」
「え、そう、なのか?だってよく女友達と話してるじゃないか?」
「そりゃ、友達、はね。でも恋人としての意識をした例はない。どうもそういうのが重く感じるんだよ。」
瞬太郎はどこか淋しそうな目でクラスのみんなが遊んでいる様子を眺めている。
何かあったのかと聞きたいところだが、こんな瞬太郎にそれを聞くのは野暮な話だろう。
「そうか、それなら仕方ないか。」
小さくため息をついた俺に表情を少しばかり変えて瞬太郎が俺の方を向く。
「ああ、いや、、。真の恋を否定するつもりはないよ。ただ僕がひねくれてるだけだ。それに協力しないとは言ってないだろう?」
正直なところその言葉には驚いた。それは専門外だからよそに行けという話をするかと思ったんだが。
「いいのか?」
瞬太郎は小さく笑う。
「何を言う、親友の頼みは可能な限り聞いて、手助けしてやりたいだろ?まぁ、あんまり力にはなれそうにないとは思うけどね。もしもっと実用的な話をするなら、あいつと仲良くなるといい。」
そういって瞬太郎はひときわ女子に囲まれている男子を指差した。
「原沢、か、、、。」
原沢迅。確か俺の中学の時の隣のクラスにいた奴だ。彼女がいないときはないと友達が話していたのを聞いた気がする。
「確かにそれはいい案、と言いたいところなんだがな、、。」
がっくりと俺は肩を落とす。
ああいうプレイボーイ、というか鼻にかけたようなやつはひどく苦手だ。
ただでさえ人付き合いが苦手だというのに、ハードルが3倍くらいになる感覚がする。
「まぁ、無理か、、。真が合うタイプではないか。ま、合うタイプの方が珍しいけど。」
「そうなるとお前は珍しいな、いや、お前は誰とでも合うものか。」
「そんなことはないさ。少なくともばっちり合うのは真くらいなもんだよ、実際はね。」
「そんなもんか。」
昼飯を食べ終え、集合時間も近づき、俺と瞬太郎は錆びたベンチから立ち上がる。
既に大体の生徒が集合の入り口に向かう中、一人でうずくまってる女子がいた。
誰もが彼女に声をかける訳でもない。
「悪い、ちょっと先行っててくれ。」
瞬太郎にそう言って、俺はその女子のところへ近づいていった。
「おい、そろそろ集合だぞ?」
彼女はその声に背中をびくっと震わせ、恐る恐るこちらを見た。
腰の上まである長い髪の毛、目にはかかってないがどうも暗く見える前髪。身長はしゃがんでるから尚更低く見えた。顔がどうも見えづらいせいでどんな表情をしてるかもわからない。
何を言いそうもないので______
「あ、えーっと、誰、だっけ?」
と、言ってみたが暫く返答はなし。
なんだこいつ、返事くらいはちゃんとしてほしいもんだ、とは俺が言えた立場じゃないかと、自己嫌悪のため息を吐き出そうとしたタイミングで。
「森口、です。森口、楓、、。」
消え入るように呟いたその声はかろうじて俺の耳に届いてきた。
「ああ、森口さん?そろそろ集合だけど、何してるんだ?」
彼女の先ほど向いていた地面を覗き込むと。
「花?」
「うん、私、花が好きで、、。家でも育ててるの、、。」
わざわざ聞いてもいないことを、、。なんかめんどくさそうだな。
「わざわざ声をかけてくれて、、ありがとう、、。」
ゆっくり立ち上がって頭を小さく下げる。
ただでさえ小さい声がおじぎをして更に聞こえづらくなった。
「いやまぁ、別にお礼を言われることじゃない。ほら、置いてかれると面倒だぞ。」
そうとだけ言って俺は踵を返して瞬太郎のいるところへ走って行った。
少し経つと森口も集合場所に来ていた。
「どうしたのさ、真?」
不思議そうに瞬太郎が俺に聞いてくるため、経緯を話した。
「へぇ、森口さんか。僕も話したことはないな。見た目通りって感じみたいだね。」
「花を育てるのが趣味だそうだ。周りが聞こえなくなるほど花が好きとは珍しいやつもいるもんだ。」
ちらりと森口を見て瞬太郎に言うでもなく、呟いた。
無表情にも見えたその顔は、俺にはどうしてかその時見た森口の顔は静かに笑ってるようにも見えた。