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殲滅戦

「なぁ、本当に私たちは戦う必要が無いのか? お前はこの中で最高戦力と聞いたが……」


 相変わらず不安そうにこちらに聞いてくるアシュレイ。まぁルドルフも俺たちに戦闘待機命令を出した後、こいつとその見張り役の俺には作戦を伝えなかったしな。心配するのも道理か。


「だから心配すんなって。確かに単純な戦力的には俺が一番だろうけど、シチュエーション次第じゃ全然俺が負ける可能性はあるからな? それにとりあえず現状お前は俺達から疑われてる立場だし息子を助けたいなら大人しくしとけって」


 俺の言葉を受けて再び黙り込みルドルフ達の後に続くアシュレイ。先程からもう何度となくこのやり取りが繰り返されている。心配なのはわかるが流石にちょっと面倒くさくなってきた。


「ところで私も一つ気になっていたのだが、バニラの強みが隠密行動だということは知っているけれど、だとするとルドルフの強みは一体何だい?」


 ああ、そういえばネリアも知らないんだった。それでよく俺たちに全幅の信頼を置けるよなとある意味感心する。


「まぁいいや。とりあえず魔術ってのが火、土、風、水、光、闇の六属性から成ることは知っているよな?」


「当然だよ。我々は生まれつき属性ごとに得手不得手があることもな。いくら私が魔術がそこまで得意ではないと言っても爺に教えられてきたわけだからね。基礎理論くらいは押さえているさ」


 流石は元魔王、自分の主人にきちんと教え込んでいたようだ。それなら多少は端折っても大丈夫か。


「で、だ。恐らくこれも知っているとは思うが、原則ある魔術を行使している最中にそれとは別属性の魔術を行使することは出来ない。これは主に人間の情報処理能力の問題だったりするんだが、まぁ出来ても実行するのは中々に難しい」


 だから並列で別属性の魔術を使えるというのは大きなアドバンテージになる。自分で言うのもなんだが恐らく才能が必要な次元の話になると思う。


「だが術式の設置という方法を取ればその限りじゃない。設置して起動するから二段階手順を踏まなければならないというデメリットはある者の、遠隔操作で複数の別属性魔術を同時に操ることが可能になる」


 例えばバニラの魔力痕。あれはあくまで術式ではなく魔力そのものをその場に残すというものであったが、術式の設置はこれを応用したもの、いわば上位互換として成立している。


「ちなみにこの魔力を残せる時間ってのも人それぞれでな。俺はこれが苦手で十秒しか残せないんだけど、平均的な魔術師だと三十秒、バニラは十分てな。んで本題のルドルフだが、奴の魔力残存時間はなんとなんと三十分以上、単純計算で普通の魔術師の六十倍ってとこだな」


「は? いやそれなら三十分前からトラップを張れば無敵じゃないか」


 ネリアの言葉に俺は頷き、


「ああ、そうだ。だから奴は拠点防衛線においては無類の強さを誇ると言われている。魔王軍幹部の名は伊達じゃねぇよ」


 勿論トラップを張れば張るだけいいというものじゃない。増やせば増やすほどどれをどのタイミングで起動するかが難しくなるのは言うまでも無いことだ。しかしことルドルフみたいな頭の恐ろしく切れる奴がこういう能力を持つと恐ろしいことになる。こちらの嫌な位置、タイミングで罠を置かれ、反撃しようにも本人は全く別の位置にいるのでまず探す必要があるとか考えただけで面倒くさい。正直なところ魔王を除けば第四魔王軍の中で一番戦いたくない相手だったりする。


「しっ! 光が漏れてる。もう奴等との距離はほとんどないと考えていいだろうな」


 確かに耳を澄ませてみると、かすかではあるが話し声らしきものが漏れ聞こえている。全く、随分とまぁ不用心なことだ。奴等から隠れるだけなら身を壁に寄せているだけで十分だろう。


「ふむ、時間もないことだしそれでは手筈通り行くぞ。ミスト、イザベラ。ネリアのカバーは任せた」


 そういうとルドルフは即座に身をひるがえし、山賊の前へと躍り出た。俺達もその後に続いて戦闘態勢に入る。


「な、なんだテメェら!!!」


 リーダー格らしき男が慌てて武器を取ると、つられて山賊たちも各々武器を持ち始めた。こういうところを見ているとやはり統率が取れていない。見た感じ人数は四十人はいると思われるが、皆先ほどまで座っていた場所から動こうともしない。普通こういう場合は人数有利なのだから、散らばって扇形のように俺たちの周りを囲むのがベストなのだが、こうも固まっていては人数の有利をまるで活かせていない。この程度ならすぐに片が付きそうだ。


 ルドルフもどうやら同じことを思ったようで、手っ取り早く相手に圧力をかけるべく前に一歩踏み出し、


「さて、まぁ俺たちがここに来た理由は至って簡単。そこの竜種に奪われた積み荷を取り返しに来た、ただそれだけだ」


「て、テメェ裏切りやがったのか!!??」


「裏切るだと? 息子を人質にしておいてふざけるな!! 私は一度として貴様らと友好関係を結んだ覚えはない!! さぁ! 私の息子を返してもらおうか!!!」


 ああ、あそこで寝ているのがコイツの息子か。人間の造形をしているが、母親の方の血を強く引いているのだろうか。なんであれアシュレイの言っていたことが嘘ではなくてホッとする。


「ふ、ふん。まぁいい。こちらに人質がいる以上テメェが俺たちに手を出せんのは分かっているからな。テメェの処遇はそいつら嬲ってから考えて……」


 リーダー格の男がそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。


「全く不快極まりない。これ以上あなたの声など聴きたくもありません」


 そう言いながらイザベラは男の腹部からどこから取り出したのかもわからないレイピアを引き抜き、それと同時に男は地面へと崩れ落ちた。


「な!?」


「お頭!!??」


 わめきたてる山賊たちをそのまま鬼神の如き剣捌きで切り伏せていくイザベラ。正直彼女の印象はずっと事務担当だったのでこれには驚きを禁じ得ない。


「逃げるぞ!!」


「ああ!!! 化け物の相手だけは御免だ!!!」


 混乱からどうにか脱した面々が次々とアジトの外に向かって逃げていくが、もうここからは完全にアルベルトの掌の上だった。奴らが逃げ出したのを見て少し時間を置いてから、ルドルフが一度指を鳴らすと、突如四方八方から爆発音が鳴り響いた。


「悪いな。そっちは行き止まりだ。経路は入り組んでいても、来た道含めたった三か所しか出口がないのは流石に読みやすすぎるぞ?」


 相変わらず流石の手際だ。これで山賊の大半は始末出来ただろうし、仮に脱走に成功した者が数人いようと、反対側の出口にいるバニラに漏れなく全員狩られていることだろう。


 これで無事制圧完了って……、


「お、おい! テメェらこれを見ろ!!」


 声のする方向を見ると、そこにはアシュレイの息子の首筋にナイフを立てる山賊の姿があった。しまった最も警戒すべき事柄だったのに……! アシュレイもそのことが分かっているのか悔しそうに顔をゆがめていた。だが、


「やはり馬鹿だなお前は」


「あ? この状況が理解できてねぇのか? 舐めた真似してくれたらコイツの首から血が吹き出すぞ?

あぁ?」


 相手の挑発を受けても一切ルドルフは笑みを崩すことなく、


「いや何。ここまで侵入を許してなお、お前らに周囲を警戒するという発想がないのが驚きでな」


「まぁお陰様で後ろ取るのも簡単で助かったけどね~」


 間の抜けたような女の声がした次の瞬間、山賊の顔面に裏拳がめり込み、そのまま男は後方へと吹き飛んだ。成る程、ルドルフが余裕だったのは爆発とともにバニラに中に入るよう指示していたからか。周囲の警戒を怠るような連中に隠密行動の天才であるバニラが見つかるわけがないし、そう考えると確かにこの作戦の成功率はほぼ100%といっても過言ではなかったのかもしれない。というかバニラの奴吹き飛ばすと同時にちゃっかり人質の子供を解放している辺り抜け目がない。


「クソ野郎がァァァァァァ!!!!!!!!!」


 もう状況が絶望的だとわかったからか、自棄っぱちで斧を振りかざしながらこちらへ突進してくる男の姿が見える。戦うつもりはなかったがこっちに来た以上仕方がない。俺は一歩踏み出し、


「悪いがこの男はもらうぞ」


 横から言葉が聞こえたと思ったら、その直後俺の顔の横を風圧と共に何かが遮った。


「ぐぉっ!?」


 そして男はそのまま壁へと容赦なくたたきつけられた。本当に竜種というのは馬鹿げた力をお持ちのようだ。ただ殴っただけであんなに飛ぶとは。


「親の怒りを知るといい。まだ立てるものは……」


 そこでアシュレイは周りを見渡し、俺たち以外に立っている者がいないことに気づいたようだ。そしてすぐに息子の所に駆け寄りその身体を抱きかかえていた。遠目でも寝息を立てているのが分かるし、特に目立った外傷もなさそうだ。つまり、


「山賊の殲滅、及び竜種の息子の救出作戦はこれにて終了だ」


 そうして俺たちの初陣はものの十分もかからず成功に終わるのだった。しかしたった五人で四十人以上もの山賊を軽く殲滅したというこの事件が瞬く間に世界中へと広まり、新たな火種となることをこの時の俺たちは知る由も無いのだった。

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