表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

ミストとルドルフ

「ちょっ!! アンタそれ大丈夫なの!?」


「正直ボロボロにしか見えませんが……」


 俺と竜、名前はアシュレイというらしいが、が山賊のアジトに着くと、そこには既にバニラだけではなく、ネリア達の馬車も到着していた。確かにアジトは俺とバニラが分かれた地点からそう離れていない位置にあったのだが、俺がアシュレイと戦っていた時間はそう長くはないはずだから、追っている間俺達と馬車の距離はそこまで離れていなかったことになる。こっちは魔術の分だけスピードが加算されていると考えると、馬の脚というのも中々に侮れない。


「いや平気平気。見た目は派手だけど怪我自体はしてないし」


 実際アシュレイの奴威力の方もかなり加減してくれていたようで、予想していたよりもはるかに完全回復までの時間が短くて済んだ。いやまぁそんなことより目下最優先で解決策を考えなければならないことがありまして……、


「で、だ。一つ疑問なんだがお前の隣にいるその男は誰なんだ?」


 やっぱりそう来るよな……。バニラやイザベラはアシュレイよりも俺の状態が気になっていたみたいだが、ネリアやルドルフはそんなことよりもアシュレイの方が気になっていたようだ。さっきから視線を俺ではなくアシュレイの方に向けていたし。


「あ、ああこいつはな……」


「私の名はアシュレイ。先程君たちが追っていた竜種だ」


 場が凍るのが分かる。正直俺も開いた口が塞がらない。普通に紹介したら絶対こうなることは誰だってわかるというのに何を考えているんだコイツは。


 と、そこまで周りを見渡してみてネリアだけがやけに冷静なことに気づく。確かにこの中でこういうことに一番聡いのはネリアだし気づいていてもおかしくは……、


「ほぅ……。中々に面白いじゃないか。自分が私の旦那様をボロボロにした張本人ですと、自ら名乗り出てくれるとはねぇ……」


 あ、違う。これ怒り心頭なだけだ。冷静そうに見えるのは怒りを押し殺すのに必死で、感情そのものを表に出せなくなっているからか。


「ま、待て!! アシュレイにも事情があってな? それに盗賊のアジトの前で話し込むのはどうかと……」


「少し黙っていて欲しい。今私が話したいのは君ではなくそこの竜種だ」


「あ、ハイ。すいません」


 情けないと言われようとも怖いものは怖いのだ。後竜種じゃなくてアシュレイって呼んであげて? 怖くて口には出せないけどさ。


「ああ、そうだ。ミストをこうしたのは私だ。その処罰は甘んじて受けよう」


「そうか。ならまずは手始めに君の体を覆っている鱗を……」


「落ち着け落ち着け!!! 俺は無事だから!!!! 平気だから、な!!??」


 マズい、ネリアの奴完全に怒りで我を失っている。このまま彼女を放っておけばこの場で拷問を始めかねないくらいには。


「はぁ……。アシュレイとか言ったか? とりあえずお前が今どういう状況に置かれているか話せ。信じるか信じないかはこちらが決めるが、何も知らないままでは埒があかん」


 流石にルドルフは冷静だったようで、明らかに平静な状態ではないネリアに代わり、状況の把握に努めていた。そしてアシュレイが俺にしたのと同じ説明をすること五分、


「つまりお前は山賊の人質にされている子供を救いたいと、そういうわけか」


「ああ、そうだ」


 そして少しだけルドルフは考え込むようなそぶりを見せ、


「却下だ。助けたいならお前の方で勝手に救えばいい。俺たちは辺り一面焼け野原にしてでも山賊を殲滅してやる」


「な!? 何言っているんですか!? 人質が助からなくてもいいと!?」


 意外なことにルドルフの発言に食って掛かったのはイザベラだった。確かに常識的で少し潔癖で短気なところはあるが、しかしここまで怒りをあらわにした彼女は初めて見る。が、ルドルフはそんな彼女の態度を前にしても眉一つ動かさず、


「ああ、だからそう言っている」


 絶句していた。無理もない。俺たちは付き合いが長く、ルドルフの人となりを知っているから不思議でもなんでもなかったが、普段の比較的穏便で常識的な姿しか見ていないイザベラにはかなり衝撃的なことだっただろう。


「確かにこれが山で出くわした村人等であれば悩むところではある。流石に善良な一般人が被害を被るというのは俺としても望まぬところだからな。

 だが今回は違う。元々そいつは明確な悪意を持って俺たちを襲ってきた。つまり今の話が全て虚偽であり俺たちを嵌めるための罠であるという可能性も無視できないレベルに高い」


「だ、だがアシュレイに最初から殺す気があれば俺は間違いなく死んでたぞ!? わざわざそんな回りくどいことする意味が……」


「いいや、意味ならあるだろう? お前たちは最初二人で追っていたのだからそいつはもう一人の追跡者の存在に気づいていたはずだ。追跡者が他にいる可能性にもな。であればお前ひとりをさっさと殺すより、あえてお前を生かすことによって信憑性が増した作り話で追跡者の同情を買い、俺たちが山賊のアジトに乗り込んだところで後ろから奇襲をかけて潰した方が得策だ。違うか?」


 否定できない。そもそも何が何でも人質を助けたいというのはただの感情論でしかないのだ。俺たちの雇い主はあくまでネリアであり、今回俺たちに言い渡されたのはキャラバンを護る事、ただそれだけ。だから優先すべきは山賊の殲滅だし、作戦遂行の確率が少しでも低くなる選択を取るべきではない。理解はしている。でも納得は出来ない。


「嫌だ。絶対に救う」


 するとルドルフは少しだけ戸惑った様子で、


「お前自分の立場が理解できていないのか? 俺たちには依頼を引き受けた時点でキャラバンを護るという義務が発生している。つまり俺たちは自由に動ける身ではないし、優先順位をつけるのは俺たちではなく依頼主だ。それに何より目に付くものすべてを救える訳じゃない。魔王軍にいた時に嫌というほどその事実を痛感してきただろう?」


「ああ、そうだな。で、だからどうした?」


 今度こそルドルフは絶句していた。いや、ルドルフだけではない。ルドルフに同じ理由で食って掛かっていたイザベラも、そして息子を助けるよう頼んできたアシュレイですらも、ただただ言葉を発することなく呆然としていた。


「確かにお前の言い分は正しいよ。俺たちはただの護衛だし、任務遂行のために私情を持ち込んではならない。この場面ではその選択肢を取るべきだってことくらい俺でもわかる」


「なら……」


「でもだからって見て見ぬふりするのは嫌だ」


 生憎俺にはルドルフの正論を崩せるほどの理屈など持ち合わせていない。いつだってルドルフは俺よりはるかに頭がよくて、色んなものが見えているのだから。けれど、ルドルフの主張が正しいからと言ってここで退くつもりはない。どれだけ正論を並べ立てられようともこれだけは譲れない。


「目に付くものすべてを救うなんて出来っこない、そのことを否定する気もねぇし、かと言って救う努力を諦めるべきじゃないなんて上から目線のご高説を垂れる気もないけどさ。でもやっぱり嫌だよ。もしあの時助けるために動いてたら救えた命があるんじゃないかって後悔しながら生き続けるのはさ。それに嫌なことにその手の後悔って結構後々まで残るんだ。未だに恨み言吐かれる夢を見るくらいにはな。お前だって魔王軍にいた時、経験したこと何度もあるだろ?」


 アシュレイにも言ったが結局のところ俺は自分勝手な人間だ。後悔したくないからというただそれだけの理由で、本来の優先順位を無理矢理変えようとしているのだから。いや、違うか。後悔したくないなんて、そんな美しいものじゃない。


「言い訳したいんだ、俺は。努力したって。情けないけど、幻滅されるかもしれないけど。罪悪感に耐えられるほど俺強くないんだ……。何よりもこの先自分に責め続けられるのが怖くて仕方ないんだよ」


 だから昔からずっと強くなるための努力をしてきた。ベストを尽くしてなお救えないのなら、諦めが、いや自分に対して言い訳できるから。あまりに後ろ向きで格好悪い理由だけど、ずっと俺はそうやって生きてきた。


「ま、そうは言っても自分勝手すぎる行動だ。だからもしお前らの不安が拭えないのであれば俺とアシュレイの二人で行く。もしアシュレイがだましていたとしてもそう簡単に殺されるつもりはないし、俺が戻って来なけりゃ俺事アジトを爆破すればいい。そうすりゃ失敗することはない」


「お前……!」


 卑怯な言い方なのは重々承知の上だ。だがもし通ってくれれば危険な目に遭うのは俺一人で済むし、任務は遂行できる。後は俺がどれだけ動けるか……、


「……………………ふざけるな」


 聞き取るのも難しいような暗く低い、呻くような声。しかしその一言にも満たない言葉は確かにこの場を支配していた。俺たちが皆言葉を発せずにいると、彼女は再び口を開き、


「君は確かに私と約束したはずだ。私を絶対に王にして見せると。それがなんだ? 『俺が戻ってこなければ』? そうか成る程、君にとって私との約束はその程度のものだったということか?」


「違う! 確かに俺はお前を王に……」


「なら二度とそんなふざけたことを口にするな! 私の信頼を失いたくないのであれば!!」


 黙るしかない。我を通そうとするあまり、かなり軽率なことを言ってしまったのは確かだからだ。幻滅されることを覚悟していたとはいえ、俺が死ぬことを想定した話の進め方をするというのはあまりに配慮に欠けていた。


「悪かったよ。今のはナシだ」


 すると彼女はそっぽを向き鼻を鳴らし、


「ならよし。次はないから覚悟しておくように」


 すると話は終わりというように二回ほど手を叩き、周囲を見渡して、


「さて、ルドルフ。君は先ほど依頼を引き受けているからリスクを負えないと言っていたね。ミストの言っていた通りそれは正しい判断だ。失敗すれば私の信用問題に関わってくるからね。しかしだ」


 するとネリアはオリバーさんに目をやり、


「今回の場合少々複雑でね。忘れているかもしれないが、一応私はこの国の代表という立場だ。表には出ないけれどね。だから通常の依頼主と請負人という関係性とはかなり変わってしまう。例えばオリバー殿、もし任務が失敗した場合私の方からその被害分を補填する、と言ったら承諾してくれるかな?」


 聞かれたオリバーさんは彼女の言葉にうなずき、


「ええ、それは勿論。快諾させていただきます」


 その言葉を聞き終えるとネリアは再びルドルフの方に視線を戻し、


「ほらね。多少荒業ではあるもののこういった方法がとれるというわけさ」


「お、おいちょっと待て。お前の立場とかその……ばらしていいのか……?」


「ミスト、仮に君がオリバー殿の立場だとして、身なりがまともなのに金も求めず、ただ入国時にキャラバンの一味としてカウントしてくれればいい、なんて頼む人間が普通の立場にいる人間だと思うかい? 少なくとも私なら何らかの事情を抱えた位の高い人間だと考えるけどね」


 確かにそうだ。最近頭脳労働をネリアとルドルフに投げているから頭が劣化した気がする。もうちょっと考える習慣をつけなければ……。


「というかオリバー殿もそれが分かっているから補填なんてふざけた提案を快諾してくれたのさ。ある程度信用が無ければこんな提案通るわけがない」


 そこで一度彼女は言葉を区切り、


「さて、後はルドルフ、君次第だ。ちなみに任務遂行を最優先というのであれば、そこにいる竜種に積み荷を奪われた時点で失敗しているのだから気にしすぎても仕方がない。それに頭のいい君のことだ。もうすでに安全に人質を救出しながら山賊を殲滅する方法くらい思いついているのだろう?」


 表情はにこやかだが、そこには有無を言わせない迫力があった。ルドルフもそれを感じ取ったのか、


「わかった、わかったから。全く仕方のない連中だ。失敗しても知らんからな?」


「問題ないさ。君たちなら失敗しない。私の全財産を賭けてもいい」


 その言葉にルドルフはため息をつき、諦めたように懐から一枚の紙を取り出し、俺たちに見えるように広げた。そしていつも通りの毅然とした様子で、


「今から100%成功させる作戦を伝える。時間が無いから一度で完璧に把握しろ。いいな?」


 相変わらずの仏頂面のままきっぱりとそう言い切って見せたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ