第26話 アラン、動き出す。
暗い一室、そこに一人の男は出来上がった物を見ながら笑みを浮かべていた。
「フ、フヒッ! で、出来た……出来たぞぉぉぉぉぉっ!! これさえあれば、これさえあればあの忌々しい阿婆擦れ賢者も殺すことが出来るッ!!」
男……アランは賢者から受けた呪殺返しの傷を撫でるように触れ、笑みを更に深くする。
そんな彼の目の前には、一本の禍々しいデザインをした短剣が置かれており、そこから滲み出る気配も普通の物とはまったく違っていた。
これはアランの恨みであり、賢者を殺すための呪い。それを凝縮させた一本だった。
「クククッ、これをあの賢者に突き立てれば全身を襲う毒に苛まれ、もがき苦しみながら指先からぼろぼろと崩れていくことになる……! 後はどうやって賢者を呼びつけるか……だが、それはあの馬鹿姫が何とかしてくれるだろう。ワタシはただそう仕向けるようにするだけだから問題は無い!」
そう自信満々にアランは口にするのだが……暫し沈黙し始める。
……彼は考えたのだ。そんな風に高を括った結果、自分はどうなったのかを……。
「…………そうだな。保険ぐらいは掛けておくべきだ。頭を下げるのは腹立たしいが、あいつらに頼むか……」
椅子に座ると、アランはある人物へと手紙を書き始める。
……そんな彼の部屋の前では、ここ数日奇声を上げたり、色々と起こしているため可哀想な目で見る従者仲間たちの姿があった。
「……いったい何があったんだろうな、あいつ……」
「姫様のお守りできっと疲れたのよ……」
「もう限界だろうな……」
「医者、呼ぼうぜ……」
ついでに言うと、呪いだの殺すだのという言葉は彼の中の目覚めた何かだと思われているのか、本気と捕らえられていないようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数日経ったある日――。
時刻は、酔っ払いも家に帰ったり道端で眠りこけてしまっている深夜――。
ゴールドソウルのある街にある民家の地下では、黒尽くめの男たちの視線が椅子に座るにやついた笑みをした男――アランへと向けられていた。
「……テメェ、よく平気な顔でここに顔を出して来れたな?」
「おやおや、どういう意味でしょうか? ワタシはただ貴方がたと依頼の話をしに来ただけですよ?」
「…………そうか、そういうつもりか。なら俺たちの返答はこうだっ!」
アランと対面で座る男……この一団のボスは手を上げた。
直後、アランの背後に立っていた男2人がアランの背中へと短剣を突き刺した!
突然のことだったからかアランは対処出来なかっただろう。
「――うぐっ!」と言う呻き声を上げ、彼は机へと倒れた。
それを見ながらボスは蔑むようにアランに告げる。
「俺は知ってるぞ? テメェがうちの下っ端3人唆して賢者の森に行かせたことをな。……顔を見ないところから死んだというのも予測している。だから賢者よりも今はテメェの粛清のほうが先なんだよ」
そう言って、用が済んだとばかりにボスは立ち上がる。
「おい、こいつは何処かに捨てておけ」
『了解しやした!』
「――はいはい、そんな簡単に終了しないでくださいよ」
「「っ!?」」
突如聞こえた声、その声に黒尽くめたちは驚きを隠せなかった。
そして――、
「う――っ!?」
「ぎゃ――っ!?」
アランを突き刺していた男たちの短剣と腕が段々と黒く染まり、ガランと落ちた短剣と男たちの腕がぼろぼろと崩れ始めたのを一同は見た。
その目の前の異常な光景にボスを含め黒尽くめたちは呆然と立ち尽くしてしまっていた。
……だが、それは失敗であった。何故なら――。
「おやおや、腕が無くなってしまいましたか。でしたら、代わりのものを与えましょうか。ラーウネ!」
「あらぁ、デバンかしらぁ?」
「ええ、出番ですよ。この方たちに代わりのものを付けてあげてください。ああ、体は変質しても構いませんので」
アランがそう声を上げると、何処からとも無く室内に声が響き……男たちは周辺を警戒し始める。
だがその警戒を潜り抜けるようにして、それは現れ……片腕を無くした男たちの体を捕らえた。
「ひぃっ!? な、なんだっ!?」
「ボ、ボスッ! 助け――もがっ!?」
「ば、化け物……っ!?」
「あらぁ、シツレイしちゃうわねぇ。わたくしはバケモノなんかじゃないわぁ。マジンゾクのラーウネよぉ」
「ま、魔人族……だとっ!?」
くすくすと笑いながら、男たちを捕らえた存在……壁から生えた巨大な花の下半身を持つ女は自らを魔人族と名乗った。
魔人族、そう名乗った瞬間……黒尽くめの男たちが困惑し始めた。
それもそのはずだ。魔人族とは100年近く前に勇者が魔王を倒し、そのときに全て絶滅させたと言われているのだから。
それがいったい何故こんな場所に現れているのか、その事実に困惑しているとラーウネの蔓を口の中に押し込められていた男2人が呻き声を上げた。
「うっ、うごっ!? うごげっ!?」
「がごっ!? がががごっ!? ががぎぎぎぃぃぃぃぃぃっ!?」
「――っ!? な、何が起き……っ!?」
ビクビクと痙攣を起こし、男たちの腹が脈動し……まるで腹の中で何かが蠢き暴れ回っているかのようであり、ズルリ……という音を立てながら、失った腕の付け根から無数の蔓が飛び出してきた。
更にそれが引き金となったのか、男たちの体の中を蠢く何かが男たちの体を突き破るようにして飛び出してきた!!
あらわれたモノ。それは、植物の蔓だった。蔓、蔓、蔓……!
部屋中を多い尽くすほどの蔓が男たちの体の中に入れられていたのだ!
その事実を知り、恐怖を感じたのか黒尽くめの下っ端たちが逃げ出し始めた。
だがもう遅い、遅いのだ。アランを招いた瞬間――彼らの運命は決まっていた。
「なっ!? か、階段が蔓で塞がれてるっ!?」
「おいっ、速く急げッ! あいつらがやって来るっ!!」
「わ、わかって――え? いぎゃっ!?」
「ひぃっ!? つ、蔓が腕に突き刺さって……!? あぎゃぎゃがやががががが!!」
「うごっ!? むごっ――もごが――ごげっ」
そして、その運命は無残にも行われ……、地下に黒尽くめたちの悲鳴が木霊した。
……男しか居ないと思われていたが、奏でられる悲鳴で女性も居たことが分かったがどうでもいいことだった。
「……ふぅ、ごちそうさまでしたぁ。センリョクのゾウキョウもばっちりよぉ」
「ええええ、彼らもワタシたちのために使われるのですからきっと本望でしょう」
「そうよねぇ。それじゃあ、わたくしはもうすこしだけオモシロいものを捕まえてくるわぁ」
「はいはい、わかりましたよ」
「というか、アランさぁ。あなたのそのクチョウ。とってもキモチワルいわよぉ」
「いえいえ、この口調も馬鹿には出来ませんよ。大抵の人間は舐めてくれますから」
「ふぅん……、まあわたくしにはわからないわねぇ。……それじゃあまたアトで」
くすくすと笑いながら、ラーウネは壁の中へと潜り込んで行く。
それを見届け、アランは黒尽くめたちのアジトだった部屋を見る。
そこには引き千切られた黒尽くめたちの衣装が散らばり、その他にも皮膚片が落ちていた。
更には引き千切られた、零れ落ちた、苦悶の表情の顔、顔、顔。
ただしそこには血は滴ってはいない。当たり前だ、ラーウネが吸い取ったのだから。
それらを見ながら、アランは歪んだ笑みを浮かべる。
「ほんと、こうしたら速かったんだよなァ……。けど、今度は舐めてかかる気はない。覚悟しておけ、賢者」
さあ、最後の仕上げだ。そう口にしながら、アランは階段を上がっていった。
……この夜、ひとつの闇の組織が姿を消した。だが、それを知る者は誰一人居なかったのだった……。




