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第16話 ベル、出来事を語る。

『ど~したの、ベルママ?』

「……ううん、なんでもないのよ、なんでも……いえ、なんでもはあるわね。クラリス。何でベルママなの?」

『ベルママは、くらりすをだしたの! だから、ベルでママだからベルママ!』


 要するに、今まで外に出たことが無かったであろうクラリスを始めて外に出したのがベルだから、クラリスは刷り込みの要領でベッタリとなっている。ということだろうとベルは理解する。

 普通はここで止めるように言えば良いだろう、しかし頼れる者も居ないであろう彼女を突き放すのも可哀想。と考えたらしく、ベルは何も言えないまま少し困った表情で微笑んだ。


「そう……、だったらよろしくね、クラリス。それでなんだけど……こんな所に住まずに、きみも私の家に住まないかしら?」

『うん、いいよ~!』

「それじゃあ、クラリスのタンスも持って行かないといけないわね。ちょっと見えなくなるけど良いかしら?」

『いいよ~♪ ベルママといっしょだぁ~~♪』


 ニコニコと笑うクラリスを見ながら、ベルは彼女のタンスと盗賊が奪ったお宝を纏めて彼女の空間へと送り込んだ。

 突如消えたタンスやお宝をクラリスは驚きと興奮を混ぜた感情で見ており、それをベルは優しく見ながら話しかけた。


『おぉ~~! すごいすご~い!』

「さてと、それじゃあここから出ようか」

『うんっ』

「じゃあちょっと目を閉じててね」


 笑顔で頷くクラリスを見ながら、ベルはそう言う。

 するとクラリスはギュ~っと目を閉じ始めた。

 それを見ながら、ベルは空いたもう片方の手に杖を握り締めると素早く魔方陣を展開させ、その場から転移を行ったのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ということが起きていたのよ」

「なるほど、盗賊団は既に壊滅。でもって、それをやったんがそこにおる可愛らしい嬢ちゃんなんやね?」

「ええ、これから一般常識と一緒に魔法の制御を教えるつもりよ」

「なるほどなるほど、賢者さんの家族2人目、でもってちゃんとした弟子ってことやね?」


 テーブルに置かれたお茶のカップを取り、対面に座るミナットーへとベルは森での出来事を口にする。

 それを聞きながら、ミナットーはベルの隣に座るクラリスへと視線を向ける……のだが、その顔は優しい。

 何故なら、クラリスは現在生まれて初めてのお菓子――ケーキを、とても美味しそうに食べていたからだ。


『あまい~! おいしいね、おいしいよベルママ!』

「そう、良かったわねー。あ、ぼろぼろこぼしてるわよ?」

『ありがと~、ベルママッ♪』


 口についたクリームをハンカチで拭い、白い衣装に落ちた食べかすを手で取り空いた皿へとベルは置く。

 そんな光景を見ながら、ミナットーは思う。


(うーん……、これって弟子言うよりも姉妹? もしくは、ママ言うとるから親子って感じかな?)

「ミナットー、何を考えているのかは何となくわかってるわよ? 正直、私だってこういうのは初めてだからちょっと戸惑っているんですからね?」

「あはは、流石の賢者さんも家族には激甘っちゅうやつですな。じゃあ、激甘ついでにもう一人のほうにも優しくしたげないと拗ねるんちゃいます?」


 ミナットーはそう言いながら、ベルたちが座るソファーの隅でモクモクとケーキを食べるディックへと視線を向ける。

 視線を向けられたディックはミナットーが言ってるのが自分だというのに気づいたらしく、顔を真っ赤にしながらクリーム塗れの顔を上げた。


「っ!? べ、別にすねてなんかねーしっ!!」

「おっと、すまんすまん。ディックくんのこと言うとるんやないんやよ?」

「そ、そうなのか? だったら、いいけど……」


 ミナットーたちに数時間ほど預けていただけだけれど、ディックは彼を嫌っている様子は無いように見えた。

 流石、商売人で子供に優しいミナットー男爵だ。

 そんな感想を抱きながらミナットーを見るベルだったが、彼のちょっと気障ったらしいウインクでハッとする。


「ああ、そうだわ。クラリス、ディック、ちょっと良いかしら?」

「な、なんだよ?」

『な~に?』


 ベルの掛け声に2人は彼女のほうを見る。

 そんな彼らへとベルは微笑みながら……、


「ディック、この子はクラリス。きみと同じ混人で、今日から家族になる子よ」

「え、あ、え……?」

「クラリス、彼はディックで、きみよりも少し前に私の家族になった子よ。……所謂、お兄ちゃんって所かしら」

『おぉ~、よろしく、でぃっくおにちゃん!』


 両者を紹介しているのだが、突然のことだったからかディックは戸惑った声を出しながらベルとクラリスを交互に見つめた。

 その反応を見ながら、ミナットーに事の詳細を語っていたから紹介を疎かにしすぎていたことを少しだけベルは反省する。

 そして、クラリスのほうは目を輝かせながらベルの紹介を聞いて、純粋に笑顔をディックへと向けた。

 その笑顔にディックはビクッとし、クラリスの笑顔を避けるかのように視線を彷徨わせ……。


「……ろしく」


 小さく、ほんの小さく挨拶をした。

 対するクラリスは、どうしてディックが小さくモゴモゴするように挨拶したのか分かっていないようで、可愛らしく首を傾げる。


『?』

(これは、前途多難ね……。でも、同じ家で暮らすんだから仲良くして欲しいわね)


 そう思いながら、2人の様子を見ていたベルだが、あることを思い出してミナットーへと顔を向ける。


「それでミナットー、約束の品物は用意したかしら?」

「当たん前です。賢者さんが頼みごとを終わらせて戻ってくる時間を考えて1時間で用意しておきました。品物自体は倉庫の中に置いとります」

「わかったわ。ご苦労様です」

「いえいえ、ボクのほうが助かりました。盗賊の件はボクのほうで国に言わせてもらいます」


 ニコニコとミナットーは笑うのだが、他国のほうへの信頼という物が増えるから本当に嬉しいのだろう。

 ベルもそれが分かっているのか、少し苦笑しつつ彼を見ていたのだがディックとクラリスへと視線を向ける。


「2人とも、そろそろ荷物を受け取ってお家に帰ろうと思うんだけど良いかしら?」

『いいよ~!』

「う、うん」


 そう言って、ケーキを食べ終わった2人はソファーから立ち上がる。

 それを見つつベルも立ち上がると、ミナットーへと頭を下げる。


「それじゃあ、今日はこれで失礼するわね。またよろしくね、ミナットー」

「はいはい、今日もありがとうございました。またよろしくお願いしますね、賢者さん。ディックくんもクラリスちゃんもまたなー」

「あ、あの……ケ、ケーキ、ごちそうさま……でした」

『またね~! おいしかったよ~♪』


 開けられた扉からディックとクラリスを先に出させて、ベルもゆっくりと部屋から退室する。……が、そんな彼女へとミナットーは声を掛けた。


「……賢者さん。こっちの情報ですけど、あの馬鹿姫がロクでもないことを考えてるみたいですから気をつけてください」

「ありがとう、ミナットー……。向こうが何もしてこないことを祈るだけだけど……無理でしょうね」


 そう言って、ベルの溜息と共に扉は閉まったのだった……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――夜。

 ゴールドソウルのとある街の地下である取引が行われていた。


「……で? その混人のガキを捕まえて引き渡せば良いのか?」


 蝋燭の明かりだけが光源である薄暗い部屋の中、黒尽くめの男が依頼人へと問いかける。

 対する依頼人はどう見ても何処かの使用人としか言いようが無い男なのだが、へらへらと笑いながら頷く。


「はいはい、ワタシの主がご執心だった混人が、阿婆擦れな混人に連れ去られたのが気に喰わないようで取り返してきて欲しいのですよ」

「……それは分かった。……が、もう一度聞くが……ガキの居る場所はあの森の中にある家で良いんだな?」

「はいはい、阿婆擦れな混人は賢者とか呼ばれていますが、ただの行き遅れ。裏世界で有名な貴方たちならば、ガキの一人二人簡単に連れ去ることが可能でしょう?」


 へらへらと笑う男に、黒尽くめはあからさまに舌打ちをするのだが……男の態度は変わることはなかった。

 それどころか、男は黒尽くめの態度なんてまるで気にしないとでも言うかのように、パンパンに膨れた袋を机の上へと置いた。

 ズシリと重いそれの中身をわざとらしく緩められた口から見える物は、蝋燭の炎を受けて輝く金貨!

 それを見た黒尽くめの後ろに従う部下であろう男たちから「おぉ」と言う声が洩れるのが聞こえた。


「前金として、これだけ支払うと主は言っております。そして成功した暁には、これと同じ物を5つ差し上げましょう!!」

『ま、まじかよ……! お、お頭、受けましょう!!』

「テメェら黙ってろ!!」


 へらへら笑いながら男はまるでエンターテイナーとでも言うように両手を広げながら、黒尽くめたちに言う。

 それに釣られたのか部下たちは椅子に座る黒尽くめのお頭へと言う。だが返事は力強く叩かれた机の音だった。


「…………もし仮に、その依頼を受けて……賢者に遭ったらどうしろと言うんだ?」

「大丈夫です。主が賢者を呼んで足止めをします。それにもし万が一、足止めに失敗したとしても、これを使えば流石の賢者であろうと死にますよ」


 へらへらとした笑いを更に深くしながら、男は懐から瓶を取り出す。……どう見ても体に良い代物ではないだろう。

 それを見ながら、黒尽くめは静かに……。


「少し、考えさせてくれ」

「ええ、良いですよ。良いですよ。薬とお金はここに置いておきますから、良い返事を期待していますよ」


 黒尽くめの答えを楽しそうに聞きながら、男は笑みを浮かべながら立ち上がるとへらへらとこの場から去って行った。


 そして、後に残るのは…………。

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