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1話 人違いの異世界転移

この作品は以前投稿した短編『未熟なドラゴンテイマー』を連載の形に修正し、読みやすくしたものです。


─人は死んだらどこへいくのだろう?


 死んだ祖母の顔を見つめながら、一姫は自分が哲学的なことを考えていたことに気がついた。

 死んだら骨になってそれでおしまい、そう思っていた。


 最愛の家族の死を前にして、死後の世界があるのではないかという馬鹿らしい考えが浮かんだ。


「…馬鹿みたい」


 首を横にふって、部屋を出ようと背中を向ける。


「一姫、どこ行くの?もうすぐみんなでご飯だからね」


 おばさんに引き留められ、扉に手をかけたまま立ち止まる一姫。

 振り向くことなく、


「ちょっと外の空気を吸ってくる」


「…暗いから気を付けてね」


 おばさんは一姫をそれ以上留まらせることはなく、一姫は部屋を出た。


 外へむかう途中、焼く寸前の棺が目にはいった。

 棺の横には下半身が薄くなっている青年がおり、別れを惜しみ泣いている人々を見つめている。


「─!」


 一姫と青年の目があう。


 青年は血の気のない顔を綻ばせ、消えてしまった。

 一姫は足を早め、外へ急ぐ。

 酷く気分が悪い、見たくないものを見てしまった。


「何もいない。何も見えてない…」


 霊なんていない、そう信じていないと心が不安になる。

 口元を手で押さえ、外に飛び出す。


 日はすっかり沈み、暗い夜空には星が瞬く。

 冷え込んだ空気を吸い込み、心を落ち着かせる。


 ─霊なんていない。


 そう信じていたいのに、一姫には他の人には見えないものが見える。

 昔はそのことをよく周りに話して、不気味に思われた。


 霊感が強いせいだ、祖母はそう言って一姫にもうその事は誰にも話すなと言った。

 祖母はとても不思議な人だった。

 一姫の戯言にも真剣に耳を傾けて相談に乗ってくれた。

 だが、もう祖母はいない。


「…これからどうしよう」


 風が吹き、一姫の長く黒い髪が舞い上がる。

 低い身長と着ているセーラー服のせいで幼く見えるが、白い肌と童話にでてくるエルフのような尖った耳が神秘的な雰囲気を醸し出す。


 容姿と不思議な力のせいで、周りから畏敬の念を集め、うまく溶け込めない一姫。

 一緒に暮らしているおばさんですら一姫に対してどこか余所余所しい。


「はぁ、戻ろ」


 気分もだいぶ落ちついた。


 霊は見えないと思い込めば気にならない。

 これも、祖母に教えてもらったことだ。


 ─れなおばあちゃんは何者なの?


 祖母に聞いても「私は異世界から来たの」とはぐらかされてしまった。

 確かに祖母の耳は一姫と同じ不思議な形をしているし、髪も日本では珍しい白に近い金髪だった。


 小さい頃はそれを信じていた。

 今は、


「…異世界なんてない。魔法も霊も存在しないんだから」


 死んだら骨になる、ただそれだけ。


 霊が見えるのに霊を信じない自分に思わず苦笑する。

 扉の取手に手をかけた時、


 ─ガサリッ


 後ろにある草むらが揺れたようだ。

 風が草を揺らしたのだと一姫は思ったが、


「…変な感じがする」


 霊が近くにいるときは普段とは違う「気」が周りにはっている。

 一姫が感じた変な感じはこれによく似ている。

 つまり、霊が近くにいるのだ。


 今、親族達が集まっているセレモニーホールは古く、霊が多いのだろう。


 下手に近づけば厄介事に巻き込まれる、長年の経験から一姫は無視して中に入ろうとする。

 だが、


「ちょ、ちょっと待って!気づいてるのに無視は酷いよ!」


 霊が一姫の背中に向かって話しかける。


 どうやら厄介事に巻き込まれたようだ。

 こういう場合成仏できないから手伝ってくれ、なんて迷惑なお願いを頼まれることが多い。


 一度無視して通りすぎたら、霊に物凄い剣幕で追いかけられたため、スルーするわけにもいかない。

 適当に話だけ聞いて帰ろう、そう心に決めて振り返る。


 そこには、


「もう!無視なんて酷いよ、レナーテ!」


「…レナーテ?」


 いたのは霊ではなく、幼児くらいの大きさの青いトカゲみたいな生き物だ。

 トカゲの背中にはその体の倍以上ある禍々しい翼が生えていて、トカゲというよりはドラゴンに近いフォルムをしている。


 普通の人なら悲鳴をあげて逃げ出す光景だが、日常的に普通じゃないものが見えてる一姫は冷静な態度で、


「霊獣ってやつかな?たまに見かけるし」


「レナーテ、からかうのは止めてよ!確かに体は小さくなっているけど、僕は昔と変わらない蒼龍だよ!」


「蒼龍?」


 蒼龍とは中国伝承に出てくる青龍のことだろうか。

 だが、目の前にいるのは伝承に出てくる蛇のような竜ではなく、西洋のドラゴンに近い。


「そう蒼龍だよ。一緒に邪神と戦ったじゃん!もう忘れたのレナーテ!」


「そのレナーテって誰よ?」


 蒼龍が話にだすレナーテとは誰なのか一姫にはわからない。

 蒼龍は軽やかに飛び上がり、一姫の肩に着地して、


「そんな冗談言ってる場合じゃないよ!邪神たちが甦ったんだ!」


「いや、冗談ではなく…え?じゃ、邪神?」


 いきなり出てきた邪神という新ワードに戸惑う一姫。

 蒼龍は一姫を完全に無視して、


「いいから!また竜使いとしてロルマーナを救いに行くよ!」


「ちょ、ちょっと待って!ロルマーナってどこ!?何をしに行くの!?」


「さあ、行くよー!転移、ロルマーナ!」


 蒼龍と一姫の足下に淡く光る魔方陣が現れ、辺りを包み込む。

 目映い光に目を閉じ、音が吹き飛んだ感覚がする。


 光が弱まり目を開けた瞬間、目の前には青い空。

 足下には地面を踏んでる感覚がない。


「ちょおおおおおおお!!」


 一姫は突然空の上に放り出され、重力にしたがって自身が落下中であることに気がついた。

 スカイダイビングのような体験が皆無の一姫はどうすることもできずただ叫ぶだけだ。


「あ、いい忘れたけど、転移ゲートの入り口は天空にあるから落下に気を付けてね」


「今現在進行形で落下してるんだけど!?」


 呑気な子竜は一姫の肩に掴まりながら遅すぎる警告をする。

 そうしているうちに緑に覆われた地面が見えてきた。

 このまま激突したら即死は免れないだろう。


「蒼龍!あなた何かできないの!」


 メルヘンな見た目の蒼龍にとりあえず助けを求める。


 蒼龍は「んー」と少し唸り、


「むむむ、念力ー!」


 体がふわりと浮き上がるような感覚に包まれ、落下速度が格段に落ちる。


「凄い…これなら助かるかも…!」


「うぐぐ…」


 ほっとする一姫に対して、顔を赤くして唸り続ける蒼龍。

 地面まであと十メートルといったところ蒼龍が、


「あ、ごめん。もう限界」


「えええええええ!?」


 浮き上がる感覚は消え、再び加速しながら地面に落下し、


「ふぎゃ!?」


 一姫が間抜けな声をあげる。

 落ちた先は意外にも柔らかく、落下の衝撃を和らげている。


「痛たたた…急に空に放り投げないでよ」


 ともに落下した蒼龍に文句を言うと、蒼龍は呑気に、


「いやー落ちた場所が柔らかくて良かった。温かくて少し毛深いけ…ど…」


 急に蒼龍の言葉が止まる。

 落下した緑色の場所はプルプルと震えだし、


「グルガアアアアアアア!」


 人間大の大きさの全身緑の猿みたいな動物の背中に落下したようで、二人は慌てて退くがもう遅い。


「あ、やばい。オークを怒らせたみたい」


 緑色の怪物─オークは蒼龍が言葉を発した直後、木でできた棍棒を取り出して二人に向かって振り回す。

 速度は遅いがその分、力がこもっているようで当たったら痛いでは済まされないだろう。


 かろうじてそれを避け、二人はオークに背を向けて全力で走り出す。

 オークも敵を逃そうとは思っていないらしく、棍棒を振り上げながら追いかける。


 大きく重そうな見た目とは裏腹にオークの走るスピードは早く、気を抜いたらすぐに追い付かれそうだ。

 走りながら一姫は、


「な、なんなのあの怪物!と言うかさっきまで夜だったのに…まさか本当に…」


 ─まさか本当に異世界に来てしまったのか?


 今まで生きてきて十五年、来月で十六年の人生において、霊や霊獣なんて代物は何度か見かけた。

 だが、全身緑の怪物やしゃべるドラゴンなどと言う『異形』のものは見たことはなかった。


 霊や霊獣とは違う、この世界に存在してはいけない、今後ろと隣にいるのは一姫から見ればまさに異物そのものだ。

 そんな異物が当たり前のように存在している世界─異世界にどうやら一姫は来てしまったようだ。


 いやこの場合一姫こそ、この世界において異物なのだろう。

 この世界はオークという存在を通して、一姫という異物を排除している─一姫にはそう思えてならない。


 頭に浮かんだ考えを振り払うように首を振り、隣にいる蒼龍に話しかける。


「ねえ!あなたはさっきみたいな力を使えないの!?」


「昔はブイブイ言わせてたけどもう年だし…。そんなに強大な魔法は使えないよ?」


「それでもいいから!」


「んーじゃあいくよ。ファルイーチェ!」


 かっこいい台詞とともに蒼龍の周りに手のひらくらいの大きさの氷の塊が現れ、オークに向かって突撃する。


 が、その速度は亀のように遅い。

 オークは棍棒を振り回して氷塊を破壊し、何事もなかったかのようにこちらに向かってくる。


「ちょ、ちょっと!全然ダメじゃない!もっとこう、強いのはないの!?」


「今は僕、アシスト専門だし…そんな攻撃型じゃないんだよね」

「じゃあどうすれば…」


 一姫の疑問に蒼龍は真面目な顔で、


「地の果てまで逃げるか、素手で頑張るか、どっちがいい?」


「逃げましょう」


 一姫は即答し、疲れてきた足を無理矢理動かす。

 だが所詮は十五才文化部の体力。運動を日常的にしているわけではない一姫の体力は限界に近い。


 だが止まればオークに挽き肉にされる未来しかない。


「もう…む、無理…」


「諦めないでレナーテ!現役だったあのタフさはどこに置いてきたの!」


 そんなもの最初から存在しない、そう思ったが言葉に出す余裕がない。


 足を止めると疲れが溢れて、地面に膝をつく。

 オークに疲れた様子はなく、へたりこむ一姫に向かって棍棒を振りかざしす。


 ─終わった。


 十五年の人生を異世界で終えるなんて悲しいが、最愛の祖母が死んでしまったのだから元の世界で生きても意味がない、そう自分に言い聞かせ覚悟を決める。


 オークはどんどん近づき─


「─ファルイーチェ」


 突如、辺りに鈴のように美しい声が響き渡り─

 オークの腹に剣のように細く鋭い氷塊が突き刺さる。


 腹からおひただしい血を流し、オークは一瞬何が起きたのかわからない、といった顔をした。

 それも一瞬で、最後の力を振り絞って一姫を道連れにしようと棍棒を振り下げようとするが─


「さようなら、オークさん」


 棍棒を振り下げるより先に鉄球のような氷塊がオークの顔面を叩き潰す。


「グル…ガぁ…」


 弱々しい声と共にオークは地面に崩れ落ち、飛び散ったオークの血が一姫の頬にかかる。


「ひぃ…あ」


 血と肉の塊となったオークと目の前で起こった惨劇に一姫の口からか細い声が漏れる。

 遅すぎる恐怖が身を襲い、体の震えが止まらない。

 オークの血でできた水溜まりを白い靴が波紋を生み出しながら踏みつける。


 一姫が顔をあげると、前にいたのは一人の少女。

 足首まで届く輝く金色の髪。宝石のように綺麗な碧眼の瞳でこちらを見据えている。


 一姫より一つ上くらいの年齢の美しい少女だ。白い装束に身を包み、手首には金色のブレスレットがつけられている。

 非力そうな少女がオークを殺したのか、一姫には到底信じられないが、無慈悲な瞳でオークの死骸を見つめる様子からそう断言するしかない。


「凄く震えているけど大丈夫ですか?もしかしてオークさんに何か嫌なことされましたか?」


 少女が心配そうな表情で一姫を見る。

 返事をしなければならない、頭では分かっているに、口は震えるばかりで言葉が出てこない。


 すると、蒼龍が一姫の肩から少女の肩へと軽くジャンプして飛び移り、


「ナイスタイミングだよルキア!ルキアが来てくれなかったら僕たちは今頃オークのご飯だったよ…」


「パパは戦い専門じゃないんだから、あんまりオークさんを怒らせちゃダメだよ?」


「今回のは不可抗力だよ。でもいい知らせがあるよ!」


 蒼龍は片方の手で一姫を指差し、


「じゃじゃーん!伝説の竜使いと呼ばれた僕のパートナー、レナーテを連れ帰ったよ!」


「このお方がレナーテ様…!お会いできて光栄です!」


 蒼龍のどや顔に対してルキアは手を胸の前で組んで感激している。


 盛り上がる二人に一姫は気まずそうに、


「…盛り上がってるところ悪いんだけど、私はレナーテじゃなくて、一姫っていう名前よ」


 ピタリ、二人の動きが止まった。

 ゆっくりと蒼龍がこちらを向き、


「も、もうやだなーそんな冗談!僕を認識できたんだから、君はロルマーナの住民に決まってるじゃないか!」


「…冗談を言ってるように見える?」


 乾いた笑みを浮かべる蒼龍を真剣な表情で見つめる一姫。

 一姫のただならぬ様子をみてルキアが、


「パパ、レナーテ様って確か白色に近い金髪だったんだよね?カズキさんは黒髪じゃないかな?」


「え」


「それにパパがレナーテ様とコンビを組んでいたのも何十年も前の話だし…少しは年をとっているんじゃないかな?」


「……」


 蒼龍の顔から汗が大量に流れ出る。

 目の焦点も定まっておらず、動揺しているのが丸見えだ。


「も、もしかし、て…間違った?」


「…たぶん」


 蒼龍の質問にルキアが苦笑いしつつ返答する。

 次の瞬間、


「うわあああああああ!間違ったあああああああああ!!」


 蒼龍は叫びながら翼を羽ばたかせてルキアと一姫の周りを旋回。

 一姫は慌てふためく蒼龍に、


「誤解が解けたら、私を元の世界に帰してよ」


「それは無理なんだよおおおお!!」


「なんでよ!連れてきたときと同じ転移ってやつを使えば…」


「えっと、それは私が説明しますね」


 説明が出来る精神状態にない蒼龍の代わりにルキアが一姫に説明する。


「この世界─ロルマーナとカズキさんが住んでいる世界の他にもいろいろな世界がカオスと呼ばれる混沌の上に混在しています」


「かおす?混沌?」


 次々出てくる新しい単語に理解が追い付かない。

 いや、どこかで聞いたことがあるような気もして、それが一姫をよりいっそう混乱させている。


「例えると、混沌という海の上に世界という船が沢山浮かんでいる…そんか感じです」


「ふむふむ」


 一姫はルキアの話に頷く。

 ルキアは一姫が話についてきていることを確認して、


「でもその船に舵をとる人はいません。だから他の船とぶつかってしまうことがたまにあります。そのぶつかってしまったときに橋─ゲートを繋げるとそのゲートを通して『転移』という形でその世界に行くことが出来ます」


「なるほど…宇宙人ってやつもそうやって私たちの世界に来てたのかも」


 テレビでよく見かけた宇宙人は異世界の住民だったのかもしれない。

 そういうことにしておくと、お茶の間のUFO番組も夢が広がる。


「じゃあそのゲートが繋がっているなら、転移ってやつができるんじゃ…」


「でもゲートが繋がっている時間は凄く短くて…パパが戻ってきたときにはほとんど切れかけてて…たぶんもう消滅してると思います…」


「…じゃあ、私は帰れるの?」


「またカズキさんの世界とロルマーナがぶつかれば…前回ぶつかったのが七十年ほど前なのでそれくらい待てば…」


「私はもうおばあちゃんだよ!!」


 そんなに年をとって元の世界に帰っても何の意味もない。

 一姫は両手で顔を覆い、


「異世界で生活とか無理だし…いやでも住めば都って言うし…」


 これからの異世界生活になんとか希望を見いだそうとするが、一姫を知る人間がいない世界で無職状態になってしまってどう生きればいいのか不安だらけだ。

それにこの世界はオークのような怪物も住んでいるのだろう。 剣の技術もなければ魔法もつかえない現代っ子にはハードすぎる。


「そうだ!カズキ、竜使いにならないか!」


 突如、蒼龍が旋回を止め、一姫の目の前で大声を出す。

 蒼龍は「うわっ!?」と驚く一姫を無視して、


「僕が見間違えるほどレナーテに似ているし、なによりその耳!ドリアスであるカズキなら竜使いになれるよ!よし決まり!」


「竜使い?え、ド、ドリアスってなに?」


 またまた出てきた新単語のパレードに一姫は困惑する。

 見かねたルキアは、


「竜と心を通わせることができる唯一の存在、それがドリアスです。ドリアスは精霊と人間の中間の種族みたいなものですね」


「そう!その尖った耳はドリアスの特徴!僕を認識してる時点で魔力はこの世界の住人と同じくらいあるし何の弊害もない!」


 弊害しかない気がするのは気のせいだろうか。 


 一姫は興奮しながら話す子竜を両手で捕まえる。

 …とりあえずこいつを竜使いにして本来連れてくるはずだったレナーテの代わりにしておこう、そんな心の声が聞こえた。


「…私は人間よ。ドリアスなんて変な種族じゃないわ」


 目を伏せながら一姫は答える。


 一姫の両手の中の蒼龍は一姫を見つめて、


「僕の知ってる限り、人間は他者の心なんて読めないよ?」


「…気づいてたの?」


「ドリアス最大の特徴である『心読』を使えるカズキはもう分かってるんじゃない?自分がどういう存在かなんて」


 蒼龍の言葉に口を閉じる一姫。


 心読。

 それは一姫が持つ、人や動物に触れることで対象の心を読み取る力だ。

 長年この力と暮らしてきて一姫はある程度この力を把握することが出来た。


 一つは、触れるといってもどこでもいいわけではなく、頭に近くないとうまく読み取れない。一番いい場所は肩辺りと首だ。

 もう一つは、発動には一姫の意思は関係なく、相手に触れたら必ず発動する、といったところだ。


 この力のことは祖母にすら口外していない。

 口外したらどうなるか、心霊番組の笑い者だけでは済まされないのは目に見えている。


「さっきも僕を本音を読み取ったみたいだし。この世界で生きていくなら、職につかないとね?竜使いになるなら身の安全と生活は保証するし。ね?」


 片目を閉じて、ルキアの方を一瞥する蒼龍。

 ルキアもにっこり笑って、


「はい。竜使いさんは数が少ないので、邪神さん達との戦いも有利になると思います」


 もう異世界で生きていくしか道がない一姫に選択肢は一つしかない。

 諦めたようにため息をついて、


「…なればいいんでしょ。その竜使いっていうのに」


 もう一度手の中の子竜に意識を集中させて、


「…レナーテじゃないけどこいつでいいやって、本当に大丈夫なの?」


「心を読まないでよ」

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