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気持ちのそこには・・・。

作者: 猫村 文祐

私の名前は中井なかい 奈月なつき

17歳の華の女子高生。

京都の高校に通ってるんだけど、方言?そんな事気にしたら負け。

それよりも、今は自己紹介をしている場合じゃないの。

なぜなら、私は今この放課後の時間に、自分には全く身に覚えのない事で特別会議室という部屋へ呼び出され、担任の村山先生の相談を受けている。

正直、成績関係の事だろうかと思うと、とてつもなく面倒。

でも、うちの学校の特別会議室ってさ、教師が生徒や保護者・来賓者を対象に個別の話をするの。

その時に教師側からお茶は勿論、お菓子が出てくる、たとえ私たち生徒でもね。

そんなの出てきちゃったら・・・行かない訳が無いじゃない。

食い意地張ってる?うん、知ってる。

あら、ごめんなさい。

そろそろ話を進めた方がよさそうね。

 

奈「あの、私何かしましたか?そもそも私関係の内容ですか?」

村「いいや、中井さんの事で呼んだんじゃないんだ。ごめんね」

奈「いえ、大丈夫です。では、私を呼んだのは?」

村「実は2年2組、つまり僕ら1組の隣のクラスなんだけど、宮村 浩也君って知ってるかな?」

奈「知ってるも何も彼とは幼馴染ですけど・・・」

 

あ、このモンブラン美味しい、どこのだろう。

って、そうじゃなかったわね。

宮村みやむら 浩也ひろなり

私たちが小さい頃からの幼馴染で、超大手企業の社長を親に持つ双子の兄。

双子ってのは私たちのクラスメイト、2年1組の宮村 浩明の事なの。

頭脳明晰だからテストの成績とかも2人揃って上位5人の中に入ったりする、チキショウ。

兄の浩也は口数が少ないっていうか少しクールで、しかもスポーツ万能。

弟の浩明は音楽や情報技術に長けてて、陽気な性格で兄弟の性格は真っ反対。

クールと陽気な2人なんだけど、人柄も良いからクラスの周りから人気がある。

あるんだけど、親譲りで2人とも目つき悪いし、髪色も濃いか薄いかだけの差しかない茶髪で最初は皆怖がってたのに、今じゃ関わってしまったら良い意味でTKOよ。

そんな浩也の事で相談って・・・。

 

奈「浩也がどうかしたんですか?」

村「なんか、宮村君がとてつもなく怖い顔をして無言で怒ってるらしいんだよ」

奈「・・・は?」

村「誰かと一緒で良いからさ、彼を落ち着かせてくれないかな」

奈「え、いや、別に良いんですけど・・・」

 

え?そんな事?そんな事で呼ばれたの?

そりゃ私なら静められると思うけどさ、誰?浩也怒らせたの。

そんな事の所為で私まで巻き込まれてさ、どこの猛者か馬鹿よ・・・。

まぁ、モンブラン食べちゃったし、やるしかないよね。

 

奈「別に良いですけど、弟の浩明をここに呼んでから動きます」

村「ありがとう!!」

奈「では早速浩明に電話します」

 

善は急げって言うし、それに、流石に今は放課後だから教室にいる人は少ないかもだけど、まだ教室に残っている人は気まずいだろうなぁ。

まぁ、浩明なら明るい性格してるから、何とか落ち着かせられるよね、多分。

 

―――プルル・・・、プル・・・、ガチャ。

はやっ。

 

明『もしも~し。奈月どうしたの?』

奈「あのさ、今なんか浩也が凄く怒ってるらしくてさ、落ち着かせに行くから一緒に来て欲しいんだけど」

明『行く行く!俺も行く!』

 

幼馴染情報、それは、弟→兄でちょっとブラコン・・・。

ブラコンって言っても単なる兄弟愛だからご安心を。

浩明は浩也絡みになるとテンションが上がる。

浩也はそうでもないんだけど、浩明に厳しくも優しいから満更でもない。

私は電話をしながら思わずため息が出る。

 

奈「とりあえずこっちに来て。今どこ?」

明『今グラウンドにいる。暇だったからサッカー部の人と話してたら奈月から電話って訳。奈月はどこ?』

奈「え?特別会議室だけど」

明『分かった。そっちまで走るよ』

奈「いや、別に走らなくてもいいよ。グラウンドから特別会議室まで遠い『着いた!』から」

明「(ガラッ)おまたせ!」

奈「・・・・・・」

 

早い、いくらなんでも早過ぎる。

どんだけ兄貴LOVEなのよ。

考えるとこっちが微笑ましくなるわ。

いや、コイツの場合はきっとクールな兄をイジるのが好きなんだろうな。

このズレたブラコンめ・・・。

とりあえず、浩明が来たから残りのケーキとお茶を食べ尽くそう。

え?食い意地張ってる?知ってるってば。

食べ終わったから浩明と一緒に2組にいる浩也のところまで向かったんだけど、特別会議室から教室までは案外近いから話す間もなく教室に着いた。

―――ガラッ

 

奈「浩也~。いる~?」

也「・・・あ?」

奈「・・・・・・」

 

怖ぇ~。

いくら幼馴染でもこれは怖い。

あからさまに1人殺した感じの顔つきになってる。

さっさと静めよう。

 

奈「なに怒ってるの?クラスのみんなが怖がってるよ」

也「悪い・・・、けど、別に怒ってねぇ・・・」

奈「怒ってないなら別にいいけど。今から帰るんだけどさ、一緒にどっか食べに行かない?」

也「!・・・行く」

奈「じゃあ帰る準備して早く行こ?」

也「ん」

 

はい、終了。

なんか、浩也が落ち着いたと同時にホッとする人や私に対しておぉ~って言ってる人がそこらにいた。

・・・おぉ~って言ってる奴うるせぇ!

そんな事より、私個人として気になることが1つ。

 

奈「なんで怒ってたの?」

奈「あ、いや、その・・・」

 

ん?私なんか変なこと聞いた?

浩也が目の前でもの凄い顔真っ赤にしてどもってるんだけど。


奈「あの~、浩也?」

也「さ、先に門前で待ってる」

奈「あ、ちょっと!行っちゃった・・・」

 

明「なんだろう、完全に俺の存在無視だよね」

奈「あ、ねぇ、浩明」

明「ん?なに?」

奈「浩明は何か知ってる?浩也が怒ってた理由」

明「知ってるも何も、多分俺が原因かも」

奈「・・・・・・」

明「痛い、痛いから!ちょっと待って!なんで無言でチョップ連打!?」

 

思わず無言で連打してしまった。

なぜだろう、叩いてるこっちからしたらとてつもなく楽しい。

でもまぁ、このまま叩いても私としては良いんだけど、とりあえず理由を聞こう。

 

奈「浩也に何言ったの?」

明「特に何も言ってないよ。ちょっとからかっただけ」

奈「(絶対ちょっとどころじゃないよね)まぁ理由はいいわ。浩也待たせるのも悪いから早く行きましょ」

明「そうだね」

 

 


也「で、どこで食べるのか決まってるのか?」

奈「私たちの家の最寄り駅にある喫茶店でいいんじゃない?」

明「相変わらずお茶とかコーヒーとか好きだよね」

奈「うん、まぁね、はは・・・」

 

私が好きっていうより作者が好きなんだから、私に言わないで作者に言ってほしい・・・。

そんな事を呑気に話していると、あっという間に最寄り駅にある喫茶店に到着して、お茶って言うか、それぞれの好みを楽しむことになった。

ス●バの様な雰囲気を感じられる喫茶店で、私は抹茶ラテ、浩也はキャラメルマキアート、浩明はカフェラテを買って席に着いた。

 

*「あ~!中井さんに宮村兄弟!!」

 

呼ばれた声に振り返ってみれば、そこには私たちの同級生が1人歩いてきた。

黒髪で中性的な顔立ち、男なのにすらっとしていかにも『脂肪?なにそれ美味しいの?』みたいなスリムボディ!

くそっ、女子の敵め!!折れちゃ「ん?なに?」・・・なんでもないです。

 

奈「あぁ、君は・・・しも・・・」

也「えぇっと・・・下・・・」

明「確か・・・下・・・」

「「「シモフリ・・・?」」」

*「誰が肉の脂じゃコラァ!!」

奈「ごめんごめん、シモヤケ君」

*「全然違うから!最早悪意しかない!!」

也「えっとじゃあ、下川君だっけ?」

*「惜しいけど違~う!!」

明「2人とも何言ってんのさ。かわいそうだよ。ねぇ、篠原君」

*「アンタが1番違うからね!?下原です!下原!!」

 

そうだった、すっかり忘れてた。

彼の名前は下原しもはら 祐樹ゆうき君。

一応私たちの友だ「一応なの!?」・・・ごめん。

基本的に祐樹君って呼んでるから苗字がなんだったか覚えてなかった。


奈「で、祐樹君は何でここに?」

祐「俺んち、この店の近所なんだ。んで、家に帰っても誰も居なくて暇だったからここに着たら3人に遇ったって訳よ」

奈「じゃあ一緒にどう?2人ともいいよね?」

明「俺は兄さんがいいなら全然OKだよ」

也「俺も大丈夫」

祐「ホント?ありがとう!じゃあ失礼しま~す」

 

祐樹君の参加により、4人での会話になった。

ところで祐樹君、そろそろ気付かないかな。

さっきの名前ボケのせいで周りの人から密かに笑い声がするよ、気付こうよ。

事の発端の私が言うのもあれだけどさ。

 

祐「そういえば、みんなは何を注文したの?」

奈「私は抹茶ラテ、浩也はキャラメルマキアート、浩明はカフェラテだよ」

祐「俺も抹茶ラテなんだ!ここのは他のと比べて少し甘いから美味しいんだよね」

奈「それわかる!他の抹茶ラテってなんか苦味が強いよね」

祐「そうそう!やっぱここの方が甘さとほろ苦さが丁度いいから俺好きだわ~」

奈「私もここのは好きだなぁ」

 

也「・・・・・・」

明「兄さん、人1人殺しそうな顔してるよ?」

也「うるさいミジンコ、ほっとけ」

明「ミジンコ!?俺そんなに小さくないし、っていうか兄さんと俺同じ身長じゃん!」

也「じゃあミジンコ兄弟」

明「え・・・、なんかやだ・・・」

 

何か凄まじいワードが聞こえたんだけど。

ミジンコ?そんな事言ったらアンタたちより小さい私はどうなるのよ。

最早肉眼では見れないもので例えられるわ!

そんなこんなで話している内に、時間帯は大体夕暮れ時になってしまい、浩明が「このまま俺たちの家で4人で晩飯だ!!」と、弱2次会ノリみたく誘われ、そのまま宮村家に直行した。

 

喫茶店から歩いておよそ10分、浩也と浩明が住んでいる家に着いた。

見た目は立派な高級マンション、部屋に入ればとてつもなく広い部屋が何部屋もある。

私もさ、最初は「チキショウ、この金持ちファミリーめ!」って幼馴染だからこそ羨望感半分、嫉妬半分で罵ってたんだけど、その数日後にここのマンションの1部屋を彼らのお父さんが私に買ってくれたのよ。

「私に」よ、私の家族じゃなくて私個人に。

その日から私は宮村パパに「あぁっ!神様、仏様、宮村様!!」って頭が上がらないくらい崇めたわ。

おかげでその部屋は私の個室として扱わせてもらってるし、宮村家には色んな意味で感謝感激よ。

え?何が言いたいかって?

宮村家は超大金持ちで超良い人って事よ!!

 

まぁ、私の興奮はここまでにして。

只今午後7時、私たち4人は平然と浩也と浩明の家にお邪魔して私と祐樹君はファミリーサイズのソファで寛ぎ、あの兄弟は夕食の準備をし出していた。

祐樹君はともかくとして、勿論私は女子だからお母さんに電話したわよ?

そしたら、『あらそうなの?まぁ、浩也君と浩明君なら安心ね。一晩でも二晩でも泊めてもらいなさい!』・・・って、なにを言ってるんだか。

 

兄弟2人が作業を始めたぐらいかな、急に浩也の携帯が鳴った。

 

奈「浩也、電話鳴ってるよ?」

也「あ~、手ぇ離せないから代理よろしく」

奈「はいよ」

 

奈「もしもし?」

*『おや?その声は奈月ちゃんか!』

奈「よ、佳典さん!?どうしたんですかこんな時間にいいいいぃぃぃぃ!!!???」

 

いま私と電話をしているのは、宮村パパこと宮村みやむら 佳典よしのりさん。

最初の浩也での件でも言ったように佳典さんは超大手企業の社長さん、要はこんな最後の切り上げの時間に電話が出来る訳が無いくらい多忙である。

多忙っていっても別に常に残業してる訳じゃないんだよ?

終電までには帰ってくるし、ただこの時間には驚いた。

驚いたけど、それよりも驚いたのは私が佳典さんの名前を出して数秒後に宮村兄弟もビックリして2人同時にお皿を手の中で滑らせてお皿がくるくると回転しながら宙を舞っていた。

なんとか2人揃ってお皿をキャッチしたわ、っていうか2人揃って手を滑らせるわ、同時にキャッチするわ、どんだけ双子の息ピッタリよ。

 

佳『どうかした?凄い焦った声が聞こえたけど』

奈「き、気にしないでください。それで、電話なんて掛けてどうしたんですか?」

佳『あぁ、息子たちに伝言を頼むよ【1930番、ゲコッ】』

奈「【1930番、ゲコッ】?・・・あ!わかりました、伝えときますね」

佳『よろしく』

 

さて単純な問題です。

【1930番、ゲコッ】とはどうゆうことでしょうか?

 

也「父さん、なんて言ってた?」

奈「【1930番、ゲコッ】だってさ」

祐「なにそれ?暗号か何かなの?」

明「今日は予定より早いね」

也「そうだな、ならさっさと取り掛かるか」

祐「ねぇ、どういうことなの?除け者は寂しいよ・・・」

 

諦め早いな。

もうギブですか。

でも、しょうがないか。

だって、眉毛を八の字にしてただでさえタレ目なのに涙目かつ上目遣い、そしてもの凄い寂しそうな顔をして見てるのよ?

答えを教えてあげるしかないじゃない。

にしても可愛いなこの野郎。

 

奈「えぇ~っとね。大したことじゃないんだよ。遠回しに現状報告をしてるのよ」

 

奈「祐樹君、いま何時?」

祐「今は・・・7時25分」

奈「今の時間を12時間体制から24時間体制に変換したら?」

祐「・・・!19:25!!」

奈「あとは:を省いて今から5を足すだけなの、番は何も関係ないわ」

祐「ってことは、1930って19時30分って事だったんだ。あ、じゃあ

ゲコッってまさか」

 

佳「そうゆうことだ」

祐「!」

奈「あ、佳典さんおかえりなさい。お邪魔してますね」

佳「ただいま、気兼ねなくどうぞ。そちらの子は?」

祐「は、はじめまして!下原 祐樹です」

佳「シモフ「下原です!!」・・・下原君か、いつも息子たちが世話になってるよ」

 

さすが親子・・・。

初対面でも名前ボケは健在ね。

見慣れてため息が出るわ。

 

也「父さん、今日は早かったな」

明「そうだよ、いつもならもうちょっと遅いのに」

佳「まぁ、母さんがもういない今では家事全般をお前たちに任せっきりだったからな。偶にはと思って秘書に我侭言って帰ってきた」

「「・・・そっか、ありがとう」」

 

宮村家の母、宮村みやむら 千明ちあきさんは私たちが6歳の時に浩也たちと死別している。

死因は病死、詳しいことは私も小さかったから話は多分聞いてたんだけど忘れてしまった。

私が覚えているのは、死因は病死だったという事、死ぬ前からも死んでからも彼女は笑顔でいた事、そして何より彼女の

『泣かないで、別に何処にも行かないわ。いつだってあなたたちの側にいる。だから忘れないで。私が生きていたという事、私はあなたたちを最期まで愛していたという事を』という言葉だった。

 

その日から彼らは泣かなかったし、何よりも強かった。

 

奈「そうか、もう11年も経つんだね」

祐「俺、なんかお邪魔な感じになってきた」

也「よし。お~い、飯出来たぞ~」

明「父さん、ご飯机に持っていって」

佳「はいよ」

「「ってみんな軽っ!!!」」

 

ちょっと待って!え、何これ!?

私のシリアスを返してくれない!?

めっちゃ恥ずかしいんだけど。

ほら、祐樹君もシリアスからの急なコメディで疲れてんじゃん。

とりあえず、お腹が空いたので宮村兄弟作の晩御飯を頂こう。

今日の晩御飯は、オムライスにデミグラスハンバーグ・新鮮なサラダの盛り合わせ・サラミとイタリアンバジルのピザ総勢5人前・・・待って、多くない?

 

奈「ねぇ、ちょっと多くない?」

祐「それは俺も気になる」

明「ん?だってほら」

也「ほうひは?はべなひのは?(どうした?たべないのか?)」

佳「飲み込んでから喋りなさい。浩也がよく食べるからな、我が家ではいつもの事さ。ほら、奈月ちゃんも下原君もたくさん食べなさい」

奈「あ、うん。いただきます」

祐「い、いただきます」

 

一口食べれば誰もが頬を綻ばせる男らしくも繊細で丁寧な味。

めっちゃ美味しい!!

中でトロリと溶けたチーズに小海老・グリーンピース・コーンと色んな食感を楽しませる半熟卵のふわっふわのオムライス。

半分に割ってみればジュワッと染み出てくる肉汁、外はカリッ・中はジュワッと丁度いい加減まで火が通り、デミグラスソースとその香りによって味が更に引き出されたハンバーグ。

レタスを綺麗に受け皿として敷いた上に、ゆで卵・プチトマト・ツナの解し身(謂わばシーチキン)・コーンが見栄えよく添えられたサラダ。

 

某人気ピザ店でも売っていそうなモチモチなパン耳とカリカリッとした土台生地の2重奏に、バジル・サラミ・ケチャップと至ってシンプルなのにとてつもなく美味しそうに見えるピザ。

見た目・味覚(味)・香りと料理に対する三大要素を完璧に揃えられたこのメニューたちは、まるでプロが作ったかのような出来栄えだった。

正直、美味しすぎて文句の付け所が無いし、私も料理はするけどここまでは無理だわ。

 

祐「めちゃくちゃ美味い!!」

奈「2人とも、腕上げた?」

明「ホント?よかったぁ!ね、兄さん」

也「お、おう///」

 

楽しく食べたみんなでの晩御飯もすぐ終わり、少し時間が過ぎたところで祐樹君が先にお暇した。

私も流石に長居するのは申し訳ないと思って帰ろうとした。

そしたら、浩也が家まで送るって言ってくれて、今2人で帰宅途中。

 

奈「ごめんね、わざわざ家まで」

也「気にするな。俺がしたいと思ったからしただけだ」

奈「ならいいんだけど」

也「あ、あのさ。奈月」

奈「ん?なに?」

也「えと、あの、その」

 

呼ばれたから浩也のほうに顔を向けると少し緊張したような顔をして、あーだのうーだの口をモゴモゴさせていた。

なんだろう?

放課後のどもり具合といい今といい、今日の浩也はいつもと雰囲気が違う。

 

街灯や月の明かりで顔を覗けば良かったんだけど、生憎夜空が曇っていて全然顔が見えない。

そんな事を考えてたら次第に雲が晴れていって、月が見えはじめた。

 

奈「浩也みて!月が綺麗だよ!」

也「月?そっか、今日は満月だったな」

 

今日は8月2日。

私も噂で知らなかったけど、今年は世にも珍しくブルームーンの年だった。

え?説明してほしい?

間違えてるかもしれないから自分で調べてちょうだいな。

そんな珍しい月を見て私は目を輝かせていた。

浩也が月を見ながらその手があったか、と呟いてることも気付かずに。

 

也「な、奈月!」

奈「ん?どうしたの?」

也「月が綺麗ですね」

奈「そうね、とても綺麗」

也「あ、あぁ。綺麗だな」

 

浩也の言葉に返事しただけなのに浩也は目を見開いたあと、なんだか少し悲しそうな顔をして返事が返ってきた。

そのあとはずっと無言のまま私の家まで送ってくれた。

 

家に入ってそのままお風呂に入り自室にあるベッドに腰を下ろすと、鞄の中に入っていた私の携帯にメールが1件届いた。

送り主は浩明で『明日の休み、兄さんと3人で買い物でも行かない?あと、奈月に聞きたい事があるんだ』

明日は暇だから誘いには乗るけど、聞きたい事ってなんだろ?

なんだか怖いな。

とりあえず寝坊は避けたいからもう寝よう。

おやすみなさい。

 

8月3日。

予定の時間よりもかなり早く起きたから今日に服装の最終確認をしている。

夏という事もあって上はボーダーの七分丈Tシャツ、下も七分丈のジーパン、白い半袖上着というシンプルなファッションのほうが私としては好きなの。

さて、そろそろ現地に向かおう。

 

 

自宅から2駅ほど離れたところにある大型ショッピングモールで待ち合わせになっている。

今までも普通に3人で買い物とか行ったり休日に遊びに行ったりとかしてたけど、浩也がたまに面倒だからって学校の制服で参加するんだよね。

しかも指摘したら道中でいきなり着替えだすし、勿論上からだけど。

幼馴染だからってのもあるのかな、浩也が着替えてても全く気にしてなかったけど、いつも浩也ばっかり見てた気がする。

しかもなんだろうこの気持ち、昨日の晩の浩也が送ってくれてる時に私に言ったあの言葉・・・。

 

『月が綺麗ですね』

 

あれを聞いてから、あの台詞を言った時の浩也の顔を思い出すとなんだかモヤモヤした気分になる。

なんだろう、もの凄いもどかしい・・・。

 

*「・・・さん、そこのおねえさん!」

奈「え!?あ、はい!!」

 

焦った、本気で焦った。

ずっと考え事をしながら歩いていたら後ろから声を掛けられちゃった。

え?まさかナンパ?って思ったら全然違って、何か不思議な雰囲気を漂わせた美人の女性が話しかけていた。

ってかホントに美人だな、この人。

一応言っとくけど、私はそんな気一切無いから安心してね?

 

*「あなた、これから誰かとお会いになられますか?」

奈「あ、はい。知り合いとこれから買い物ですけど」

*「今日はもう誰とも会わずに帰ったほうが良いわ。良くない事が起こりそうよ」

奈「?よくわかんないけど、気遣ってくれてありがとうございます。でもすみません、もうそこで連れが待ってるので私もう行きますね」

 

なんだったんだろう?

よく分からなかったけど、あれって予言か占いなのかな。

私自身があんまり占いとかに対して興味が薄いからなんかこう、言われてる実感が無かった。

 

あの女の人と別れたあと、少し小走りでショッピングモールに向かったら浩也と浩明が見えてきた。

同じ身長・同じ格好・周りからの女性からの注目・・・。

うん、あいつらだ、分かりやすいな、オイ。

それにしても、なんか見覚えのある模様だわ・・・。

 

奈「ごめーん。おまた、せ・・・」

明「・・・あ」

也「(ポカーン)」

 

読者に聞きます・・・、偶然って信じますか?

私の今日の服装、ボーダーの七分シャツに七分ジーパン・白い半袖上着なんだけど・・・、浩也も浩明もボーダーの七分で浩也は黒、浩明はベージュのチノパン、そして2人とも紺色の半袖上着を羽織っていた。

・・・色が違うだけで完全に一緒の格好なんだけど!?

どこのグループユニットよ!?

双子がお揃いなら分かるわよ、でもまさか私まで被るとは流石に思ってなかったわよ!!??

なんか浩明は少し微笑ましそうに浩也を見てるし、浩也は浩也でポカンと口を開けて見事な間抜け面になっていた。

 

奈「ご、ごめんね。遅くなっちゃって」

明「大丈夫大丈夫。そんなに待ってないから」

也「あぁ、そうだな」

「「50分くらい」」

奈「長いじゃん!!」

明「冗談だって。俺らもさっき来たところだし、ね?」

也「・・・あぁ」

 

あれ?なんか浩也に目を逸らされた?

なんか胸の辺りがジリジリするっていうか、モヤモヤする。

めっちゃ気になる。

 

明「じゃあ奈月も来たことだし、そろそろ行きますか」

奈「そうだね」

 

浩明の仕切りによって買い物が始まりショッピングモールに歩き出した。

メンズショップ・インテリアショップ・ゲーセンと色んな所に寄ってはハシゴをして浩也の盛大な腹の音を境にフードコートでお昼ご飯にする事になった。

浩也がよく食べるという事で私と浩明は食べたい物を浩也に頼むだけ頼んで並んでもらう代わりに私たちは席で待機していた。


明「ねぇ、奈月。兄さんと何かあった?」

奈「うぇ!?な、なにかって?」

明「昨日さ、兄さんが奈月を送って帰ってきた時兄さんの顔が暗かったんだ。どうしたのって聞いても答えてくれないし、今日も今日で兄さんは相変わらず少し暗いし、奈月に話しかけても上の空だし」

奈「えっと、昨日浩也にこんな事を言われたんだ」

明「こんな事って?」

奈「『月が綺麗ですね』って」

明「・・・え?」

奈「だから、『月が綺麗ですね』って言われたの」

明「・・・・・・ブフッ!」

 

昨日私が浩也に言われた言葉を浩明に言うと、目を見開いたと思ったら突然吹っ切れたかのように笑い出した。

え?笑い事なの?ってかそんなに笑う?

 

奈「なんで笑ってるの!?」

明「くそぉ~、そうきたか兄さん・・・グフッ」

奈「え?え?どういうことなの?」

明「『月が綺麗ですね』ってね、『I Love You』ってことだよ。夏目漱石のヤツなんだけどね、日本人は『I Love You』なんて言わないで『月が綺麗ですね』とか言っとけばいいみたいなことを言ったんだって。簡単に言ったら奈月は兄さんに『好きです』って告白されたんだよ」

 

奈「え・・・ええええぇぇぇぇ!!!!」

 

え!?浩也が私をす、すすす、好きって・・・。好きって!!

うそぉ!?

 

 

明「で、奈月は兄さんのことをどう思ってるの?」

奈「私は、浩也は兄貴にも弟にも見えて側にいて当たり前って言うか・・・。でも浩也が自分の知らないところで怒ってたり悲しんでたりしてたら頼って欲しいとは思うし、今日も浩也に目を逸らされた時もなんだか分かんなかったけど、胸の辺りがモヤモヤした」

 

明「それって・・・、奈月も兄さんに気があるんじゃん」

奈「うぅ・・・」

也「お待たせ。って、どうした?」

奈「な、なんでもない!気にしないで!!」

也「そ、そうか・・・」

 

どうしよう、直視できない。

思わず顔を背けちゃった、めっちゃ顔が熱い。

そっか、私・・・浩也の事・・・

 

好きなんだ・・・。

 

 

明「いやぁ相も変わらない兄さんの食べっぷり、周りの人吃驚してたね」

也「そんなに多かったか?」

明「食べたメニュー言ってみて」

也「えっと、醤油ラーメン・餃子・炒飯・山盛りポテト・フライドチキン・唐揚げ・たこ焼き」

明「一般人はそんなに食べ物が入る胃袋は持ち合わせてないよ?」

也「・・・・・・え?」

明「え!?なんで何言ってんだコイツみたいな顔してるの!?俺がおかしいわけじゃないからね!?ね、奈月!!」

奈「え、あ、うん・・・」


結局、今もだけどお昼の時からずっと浩也と話すどころか顔すら向けれてない。

浩也は遠回しでも私に『好きだ』って言ってくれた、その事実は変わらない。

でも私は、浩也の気持ちも自分自身の気持ちにも気付かないで浩也を断ってしまった。

私・・・馬鹿だ・・・最悪だ・・・。

ちゃんと私の気持ちを伝えたい。

浩也に伝わって欲しい。

ずっと・・・浩也と一緒にいたい・・・。

 

明「奈月!!危ない!!」

奈「え・・・・・・」

 

―――ドン!!

 

 

奈「う、ん・・・っ」

明「奈月!よかった、気が付いた!!」

 

頭が少しだけ痛い。

痛みで目を覚ますと、私は白い天井を上にして横になっていた。

目を細めて横を見れば、目を腫れさせた浩明が座っていた。

赤くなった目や目元が痛々しい。

 

奈「ここは・・・」

明「病院だよ。時間は大体22時、日にちは変わってないよ」

奈「私、どうして・・・」

明「奈月、交通事故に遭ったんだよ」

奈「事故に・・・」

 

浩明の話によると

買い物の帰りだったあの時、私は信号が赤になっていたことにも気付かず、俯き考えながら横断歩道を渡ってしまっていたらしい。

浩明に呼ばれて気付いた時には既に遅く、すぐそこまで車が来ていた。

そんな時、浩也が私を助けてくれた。

浩也が・・・私を・・・。

そうだ。

 

奈「浩明。浩也は、浩也はどこなの?」

明「・・・・・・」

奈「そんな、うそ、うそだよね・・・まさか、し、しん・・・」

明「大丈夫、死んではいないよ・・・。手術もさっき終わった。ただ・・・。」

奈「ただ・・・どうしたの」

明「・・・・・・」

奈「お願い、教えて」

明「・・・意識が、戻らないんだ・・・」

奈「そんな・・・」

 

私を庇って浩也まで事故に巻き込まれた・・・。

浩也に守られてた私は車と直接接触することもなく、軽く頭を道路にぶつけた程度で済んだ。

けど、私を庇った浩也は内臓や骨・神経系といった体内に関するところには全く以上は無かったものの、車との直接的な接触・地面に頭を強く打ちつけたことにより頭部は重症・出血多量で危険な状態であることに変わりは無かった。

浩明や他の人による迅速な対応と早急な手術によって命を繋げることは出来たらしいが、衝突時の衝撃による重度のショックで意識が戻らない状態になっている・・・。

 

奈「私のせいで、浩也が・・・」

佳「心配ないさ、奈月ちゃん」

奈「佳、典さん・・・。ご、ごめんなさい!わ、私のせいで、浩也がこんな事になって」

佳「確かに、君の不注意で君や浩也が事故に遭ったし、今は意識不明の状態になっている。その事実は変わらない」

奈「っ・・・」

佳「けどね、あの子からしたら助けることも出来ず、もし奈月ちゃんが死んでしまったり昏睡状態に陥っていたらきっと浩也はその方がずっと1人で苦しんで悲しんでたと思う。男ってそういうもんだよ、好きな子を助けるのに理由をつけない。それだけだよ」

奈「でも・・・でも!」

佳「もう一度言うよ、心配ない。きっと大丈夫さ」

 

*「そろそろ入ってもいいかな?」

佳「すみません、お願いします」

奈「あの、こちらの先生は?」

明「先生の名前は下原しもはら 知樹ともきさん。奈月と兄さんを助けてくれた先生で」

知「昨日は祐樹が世話になったようだね、ありがとう」

明「下原 祐樹君のお父さん」

奈「祐樹君の・・・」

 

そうだったんだ。

祐樹君のお父さんはお医者さんだったんだ。

 

佳「それで、浩也の様子はどうですか?」

知「今もまだ眠り続けており、、私たちの声は届いていません。ですが、植物状態になったわけではないので人工的に酸素を送り込まないといけないというわけではありません」

明「なんとか兄さんの意識を戻せる方法はないんですか?」

 

知「彼と親しい者の声・介抱によって意識が戻るという事は無きにしも非ずです。必ずとは保障できませんが、他よりは効果及び可能性があるとは思います」

 

奈「あ、あの・・・」

佳「奈月ちゃん?」

奈「私の身体は浩也のおかげで無傷に近いんですよね?」

知「そうだね、無傷とは言いがたいけど、どこにも異常は無いし今からでも退院できるほどだよ」

奈「じゃあ私に浩也を任せてもらえませんか?お願いします」

 

こんなので浩也に全部を償えるとは全く思っていない。

でも、せめて、せめて私を助けてくれた浩也を・・・。

 

奈「1人で何が出来るかなんて分かりません。それでも、浩也を今度は私が助けたいんです。お願いします!」

 

佳「・・・分かった」

奈「!」

佳「ただし、1人で責任を負わないこと。なにかあったらすぐに僕らでも家族でも連絡すること。・・・浩也を任せたよ」

奈「っ・・・はい、はい・・・」

 

佳典さんの言葉で目元が熱くなる。

俯いてみたら病室のベッドシーツに小さなシミが出来ている。

私、泣いてるんだ。

手の甲で拭っても次々と流れてくる。

嬉しいわけでも悲しいわけでもないのに、涙がどんどん溢れてくる。

 

知「とちあえず今日ここで泊まるか退院するかは君の自由にしなさい。でも、彼と会うのは明日からにしなさい」

奈「では明日の準備もあるので退院させていただきます。助けていただいてありがとうございました」

知「その台詞は彼が目を覚ましたときに言ってやりなさい。お大事に」

明「じゃあ帰ろっか、荷物持つよ」

奈「ありがとう、浩明」

佳「親御さんには連絡したけど、よかったらそっちに泊めてやってくれって言われたんだが、奈月ちゃんはどうする?」

奈「すみません、じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」

 

浩也、待っててね。

明日も、明日からもずっと浩也の側にいるから。

だからごめんね、今日は待っててね。

そう思いながら私は佳典さんたちの待つ車に乗り、家に着いても浩也に対する不安が募ってうまく寝付けないでいると、佳典さんが頭を撫でてくれた。

高2になって幼馴染のお父さんに頭を撫でられるのはなんとも言えない恥ずかしさがあったけど、安心できる手だなと思えてようやく眠ることができた。

 

浩也が昏睡状態になってから14日、浩也は未だに目を覚ます気配はなく、ただずっと眠り続けていた。

 

奈「おはよう、浩也。今日もいい天気だよ」

 

カーテンや窓を開ける音をたてても、いくら話しかけても彼からは返事も・・・声すらも返ってこない。

 

浩也・・・。

(也『奈月、あんまり無理するとテスト自体が受けれなくなるぞ。もう休め』)

(奈『心配してくれるなら勉強教えてよ!この天才!』)


私の、幼馴染・・・。

(奈『浩也、いくら家の中で今居るのが私だけだからって女の子の前で裸は止めた方がいいよ?』)

(也『見慣れてるだろ?それに・・・下はちゃんと着てる』)

(奈『そうゆうことじゃないから!それに今冬だから!』)

 

一緒に居て当たり前だった存在・・・。

(奈『浩也~、お昼ご飯食べよ』)

(也『俺ばっかりじゃなくて他の友達とも食べろよ』)

(奈『え?浩也以外は面倒くさい・・・』)

 

私の・・・好きな、男性ひと・・・。

(也『な、奈月!』)

(奈『ん?どうしたの?』)

(也『月が綺麗ですね』)

 

奈「・・・浩也。私ね、今までずっと浩也の側で生きてきた。一緒にいて当たり前だと勝手に思い込んでたから。でも違った。私・・・浩也が好きなの・・・浩也じゃないと嫌なの。浩也が好きだからずっと一緒に居たいって思えるの。だからお願い・・・私をおいて死なないで!目を覚まして!1人にしないで、浩也!」

 

奈「私だって浩也にちゃんとした答えを返したいのに・・・。うう・・・ひっく・・・」

 

 

 

 

 

也「ここは―――どこだ」

 

白い、ただ真っ白い何も無い世界―――

俺は浮いているのか、足が着いているのか、生きているのか、死んでいるのか全く分からない。

分かるのはただ一つ、この世界はなんだか寂しさを感じる。

誰かがいるわけでもなく、何かがあるわけでもなく、天国でも地獄でもない無の世界。

 

*「―――なり。ひろ、なり。浩也」

也「え?」

 

呼ばれた声がしたから振り返ってみれば、俺は驚いた。

もう逢えると思っていなかった俺の大切な人・・・。

 

也「か、母さん」

*「久しぶりね、浩也」

 

俺を呼んでいたのは宮村みやむら 千明ちあき、俺の母さんだった。

 

千「もう!大きくなっちゃって!母さん嬉しい!!」

也「うぐっ!母さん、苦しい!!死ぬ、死ぬから!!」

千「なに?母さんとハグするのは嫌?」

也「そうじゃなくて!首!首が絞まってるから!!」

 

出会って早々首を絞められる。

抱き締められるのではなく、「首を」絞められる。

一種の殺人行為じゃねぇか。

この大胆さは絶対に弟の浩明に遺伝されてるな。

 

千「それはそうと、浩也。早く意識を身体に戻しなさい」

也「そうか。俺、死ん「でないわよ?」割り込むな!!」

千「あなたはまだ死んでないわ、死にかけていただけ」

也「それもそれで問題なんだが・・・」

千「あなたはまだ死ぬべきじゃないわ。あなたを待つ人がいるんですもの」

也「!・・・奈月」

千「あの子、とても良い子ね。さすが、浩也が好きになっただけのことはあるわね!」

也「ふぁ!?なんで知ってんだよ!!」

千「細かい事は気にしたら駄目よ~。ウフフ」

也「細かい事扱いかよ・・・」

千「とりあえず、ちゃんと目を覚ましてあの子の話を聞いて、自分の気持ちをぶつけちゃいなさい。あなたならきっと大丈夫よ。私と佳典さんの子ですもの」

 

そう言って母さんは俺を正面からギュッと抱き締めてくれた。

そして母さんは俺の耳元で呟いた。

 

千「浩也、頑張ってね。佳典さんと浩明をよろしくね。いつまでも見守ってるね」

也「・・・ありがとう、母さん」

 

母さんとの別れの挨拶の様な交わし方をしたと同時に身体に呼び戻されているような感覚になり、急に意識が軽く、白くなっていった。

 

 

也「・・・・・・き」

奈「え・・・いま・・・」

也「ん、う・・・な、つき・・・」

奈「!!・・・浩也!!」

 

浩也が、浩也が目を覚ました・・・意識が戻った!!

14日も眠り続けていた浩也は目を少しだけ開け、掠れた声で私を呼んだ。

意識が戻ってきてくれた嬉しさ・私を呼んでくれた嬉しさ・無事に目を覚ましてくれた嬉しさでまた涙が溢れてきた。

 

也「ふはっ・・・なに泣いてるのさ」

奈「嬉しいから泣いてるに決まってるでしょ!!バカ!」

也「なぁ、奈月・・・」

奈「・・・なに?」

也「・・・ただいま」

奈「っ・・・うん、うん・・・おかえり」

 

私の・・・誰よりも側にいてほしくて、誰よりも側にいたい・・・私の大好きな人・・・。

 

おかえりなさい・・・浩也・・・。

 

 

 

浩也が目を覚まして1週間。

佳典さんたちに連絡したり、浩也の身体に異常が無いかの検査と大忙しだった。

そんな中、8月30日。

今でも入院中の浩也から1件のメールが届いた。

 

『明日31日の2000番、俺の病室に来て欲しい』

 

2000番?あ、午後の8時か。

何かのお誘いメールかな、でも、返す言葉はただ一つ。

 

『もちろん、行くね』

 

何の話かは分からないけど、私も、私の気持ちをちゃんと伝えたいし、伝えよう。

 

8月31日。

約束の8時になり、私は浩也の病室前で立ち尽くしていた。

大した事じゃない筈なのに、扉を開けたくても妙な緊張で扉を開けられない。

無理・・・こ、声掛けてから入ろう。

 

奈「ひ、浩ない!・・・」

 

噛んだ・・・。

恥ずかしい、恥ずかしさで死ねるわ。

あぁ、顔熱い。

絶対耳まで真っ赤に気がする。

 

也「奈月?入ってきていいよ」

奈「は、入るね。・・・ってなんて格好してるの!?」

也「なにって、暑いから脱いだ」

奈「だからって上半身裸にならなくても」

 

浩也に入ってって言われたから入ると、浩也は上の服だけを脱ぎ捨てていた。

勿論下は着ている。

変な所にデリカシーがあるよね。

 

 

奈「それで、今日はどうしたの?」

也「とりあえず、屋上に行こっか」

奈「う、うん」

 

浩也に手を引っ張られてそのまま屋上へと連れて行かれた。

好きな人に手を繋がれるっていうのは緊張して手汗が出そうで仕方が無い。

そんな事を思っている間に屋上に辿り着いた。

屋上への扉を開ければ、そこには輝かしい景色があった。

空には無数の星が広がって、雲1つ無く、夜風が涼しく感じた。

 

奈「うわぁ!きれい!!」

也「あぁ。これも見せたかったんだけど、もっと見せたかったのはそれよりももう少し上だよ」

奈「上?・・・あ!満月!!」

 

満天の夜空を更に見上げてみれば、、そこには綺麗に輝く青白い満月があった。

あの日、浩也に告白された時に見た、ブルームーンが再び現れていた。

 

奈「まさか、これを見せてくれるために・・・?」

也「あ、あぁ。それで、あの」

奈「浩也」

也「え?」

奈「月が・・・綺麗ですね」

也「!!・・・死んでもいいかも」

奈「ダメダメ!死んじゃダメ!!」

也「ふはっ、そうゆうことじゃないよ」

 

え?どういうこと?

月が綺麗だから死んでもいいって・・・え?

 

也「先を越されたな。じゃあ俺からも」

奈「え」

也「俺も奈月のことが好きだ。俺と付き合ってくれますか?」

奈「私も浩也が好きです。私で良かったらよろしくお願いします」

也「ありがとう」

 

 

 

 


 『一緒に居れば気付かない気持ち

 

  周りに気付かされては意味が無い

 

  一緒に居た人が突然消えて

 

  はじめてその人の大切さを知る』

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin.


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