祖母
娘の教育の失敗を取り返すつもりだったのかもしれないし、祖母の知る係累の誰にも似ていない孫がただただ面憎かったのかもしれない。
とにかく祖母はきびしかった。
友達は祖母の眼鏡にかなった子だけ。それ以外の子が遊びに来れば露骨に迷惑がって追い帰し、郁子が遊ぶ約束をしていれば反故にさせた。
流行っているおもちゃも文房具も少女漫画も、全部、祖母から見れば勉強のじゃまになる「くだらない」ものだったから、買ってもらえなかった。
テレビも自由に見られない郁子は、話題についていけずにクラスから浮いた。けっきょく友達は一人もできなかった。
それを遠慮がちに訴えれば、容赦なくぶたれた。
「なんでおばあちゃんの言うことがきけないの」
耳鳴りの向こうで、祖母がいつも同じ言葉を唱える。
「おまえも母親みたいなロクデナシになりたいのかい」
祖母のきついしつけを受けて、郁子はすっかり委縮し、内気で臆病な子供になった。
郁子がもう少し気の強い性格ならまた違う関係を築けたかもしれないが、そのおどおどした態度はひどく祖母の癇にさわった。
しつけは厳しさを増し、郁子はさらに小さくなっていく。
悪循環ともいえる関係は、しかしあっけなく終わった。
二年前。高校三年の十月。
祖母はパート勤めをしていた物産館で倒れ、意識の戻らないまま息を引き取った。
病院で紹介された葬儀社が、あれこれと葬儀の見積もりや参列者のことを聞いてくるが、郁子にはなにもわからない。
家にあるはずの現金のありかも、銀行口座のことも、なにもかも。
母の一件から、祖母は親戚一同とは疎遠になっており、頼るべきおとなが誰もいない。
一人でおろおろしているところに現れたのが、ハナエだった。彼女は亡くなった祖父の従妹で、付き合いのあった近在の人が連絡をしたらしい。
かけつけたハナエは、優しく郁子の手を握った。
「大変だったわね。一人で不安だったでしょ? 大丈夫。おばちゃんにまかせておきなさい」
小柄だがもっちりした身体を喪服につつみ、笑ったハナエはとても頼もしかった。葬儀の手配から親戚への連絡と、采配をふるい、なにくれなく郁子の世話まで焼いてくれた。
高校の卒業直前だったが、内向的な性格と両親のいない家庭環境から、就職希望の郁子の進路は未定のままだった。
それなら自分の経営している喫茶店で働いてみないかと、ハナエは誘ってくれた。
雑誌や小説に出てくるカフェに憬れがあったし、ここよりも都会の街で暮らしてみたかった郁子は、二つ返事でその話を受けたのだが。
現実は雲泥の差だった。
葬儀の時、優し気にかけてきた声も姿も、偽物だったとほどなく知ることとなる。