それはファーストコンテクスト
こにゃにゃちわ~!
どうも、防具職人のナツキです。自己紹介すると、βテスターで生産職。メインウェポンは槍のキュートなレディさ。まあ、レディを名乗れるほど、大人でもないが。高校生だし、つるぺったんだし(愁)
…………と、まあ、変なテンションで誰もいないので、心の中で自己紹介してみた。
しかし、いきなりお客さんが途絶えたな。
ん? 何かきょろきょろしてる女の子がいるな。って、あの子、綺麗だな。作り物みたい綺麗で可愛いのに、まったく作り物みたいな違和感がない! っと、見蕩れてもしょうがないし、どうせだからちょっと整理でもしてよう。
「すいません。今大丈夫ですか」
整理しようと下を向いたところで話しかけられた。
「はい。なんでしょうか」
そういって、顔を上げると、さっききょろきょろしていた、綺麗可愛い女の子がいた。
「え!? ああ、お買い物ですか?」
少し驚きつつも、NPCならおかしくないかと、思い直した。
「え? はい。そうですが」
女の子は、少し戸惑ったように答えた。
防具屋を買いに来るには幼過ぎるから、なんだろう? 買い物途中の迷子かな?
「えらいねぇ。お母さんかお父さんの手伝いかな?」
「いえ。あの、素材を売りたいのですが、いいですか?」
ええ! そんなことを子供に頼むのか。父親か母親か分からないけど凄いな。
「え、ええ。いいですよ」
少し詰まってしまったのは許してほしい。
「それじゃあ、これをお願いします」
そう言って、女の子はアイテムボックス? からゴブリンと思われる素材と、たぶん狼系統の素材と昆虫系の外殻の素材を出した。
え? ええ!? これって!
「な! この素材って!」
「あと、灰狼の素材で服を作って欲しいのですが」
そんなことを言っている場合じゃないでしょう!? 何この素材!?
「ちょっと! これどうしたの!? 今のレベルを遥かに越える素材じゃない! しかもこんなに大量に」
私は軽く叫んでしまった。
「え、そうなんですか? 結構厳しかったですけど、倒せましたよ」
「え? 倒したって!? もしかして、あなたプレイヤー!?」
倒したって!? 普通は無理でしょう。でも…………! まさかだよね。それに、この容姿でプレイヤーはないでしょう?
「そ、そうですけど」
不思議そうに首を傾げてそう言った。
「ごめんなさい。完全にNPCだと思っていたのよ」
本当にすいません。こんな女の子がプレイヤーなわけないと思っていました。
「そうなんですか?」
またもや女の子は不思議そうにしていた。
「ええ。PCとNPCの区別方法が、ほとんどないからね。店を持ってたりするのがNPCで、武器を持っているのがPCって、ところかしら。あと服装の違いからわかるけど、あなたみたいに初期服だと分からないわ」
言い訳っぽいが、理由を説明した。
「そうなんですか。確かにそうですね。話していても違和感も何もないですからね。あ、買取はどうですか」
納得してくれたようです。まあ、そんなに必死に言う必要もなかったかな。それにしても、これ…………。
「ええ。…………それにしても、この素材は凄いわね。いったいどうやったのか気になるけど……。まあ、いいわ。これ全部売ってくれるの?」
お金足りるかしら?
「ええ、いいですよ。そうだ、もう一種類、狼の素材があるんですけど、なんか使いにくいので、買ってくれます?」
「使い難いんですか?」
見た目がダメな素材なのかな?
「はい。なんか名前が呪われそうで……」
「これは………」
なんでこんなに高位の素材がこんな序盤に、しかもまだサービス開始3日も経ってないよ。いったいどうすればこんな…………。
「やっぱり、使い難いですよね?」
考えていると、不安そうに話しかけてきた。
女の子をほっといてしまったことを思い出した。
「こ、」
「こ?」
「こ、この素材はどこで手に入れたの?」
ついつい、思い立ったら吉日な感じで聞いてしまった。
「他の狼と同じ、[黒血狼の森]ってところですよ」
少し驚いたような顔をした後に、気まずいような顔で、女の子は答えた。
「こんな素材は見たことないわ。βテストの時も聞いたことないよ」
驚かせたことを申し訳ないと思いながらも、正直に話した。
「そうなんですか? 確かに面倒な敵でしたけど」
女の子は驚きながらも、少し疲れたように言った。
私は逆はテンションが上がっていた。
気になるわ。いったいどんなカラクリが!
「どんな敵だったの?」
ワクワクしながら聞いた。
すると、とんでもないことを言われた。
「なんか[小鬼の森]ってところの先の、[勇気の森]でなく、[黒血狼の森]ってところに誤って入ってしまいまして。そのことを知らずにそこのセーフティアリアで休んでいたんですが、遠吠えがしたと思ったら、巨大な狼がセーフティエリア内に侵入してきまして、そのまま戦闘です。取り巻きをほぼ無限に呼べるらしくて、随分と苦戦しました」
うん。普通は無理。それに[黒血狼の森]ってフィールドはあったかしら? おそらくまだ他のプレイヤーは入ったことのない。未到達フィールドね。
とりあえずは、当たり障りのない返答をしましょう。本人も自覚無い様だし。
「セーフティエリア関係なしに戦闘開始か。そんなのがいるなんて聞いたことも見たこともないよ。というか、よく生きて帰って来られたね」
「ええ、まったくです」
すこし顔が引きつっていたかも知れないが、見逃してくれたようだ。
「それで、買い取ってくれますか?」
「ええ、いいわよ。これはやりがいがありそうだもの。でも、装備は灰狼の素材でいいの?」
これを逃す生産職は、絶対いないと思う。それにこの素材は使用すると付加スキルが付くみたいね。やりがいがあるわ。
「はい。お願いします。あ、忘れてました。僕の名前はニズです。よろしくお願いします」
「私も忘れていたわ。私の名前はナツキよ。宜しくね。あ、どうせだからフレンド登録しましょうか?」
ニズちゃんっていうのか~。しかも、この可愛さで僕っ娘か~。人によっては垂涎の幼女ね!
とりあえず、フレンド登録申請出しときましょ。あら、何気にβテスター以外の初めてのフレンドだわ。
「は、はい。宜しくお願いします」
「ふふふ。そういえば武器は揃ってる?」
少し焦った様子のニズちゃんが可愛くて笑ってしまった。私、百合趣味はないはずなんだけど。
「武器ですか? まだです。これから探そうかと思いまして」
初心者装備で、この量の素材を手に入れたの!? いや、耐久度の関係があるから、逆に初心者装備だから持ったのかしら?
でも、もって無いなら、知り合いを紹介してあげましょう。
「なら、私が紹介してあげる。と言っても、ここから四軒となりなんだけどね」
私はそう言って、トーカの店のほうを指差した。
「分かりました。それじゃ行って見ます」
そう言ってニズちゃんはとことこ歩き出した。
あ、代金!
「ちょっと待った! まだ、買取金を渡してないよ」
あわてて呼び止めた。笑顔が引きつっていたのは秘密です。
「ああ、すいません。おいくらでしょうか?」
「う~ん。どうしよう。全部買うと店舗買うために貯めているお金がなくなるし、でも欲しいし」
この素材で防具を作れば一攫千金だけど、このレベルの素材だと、今の段階では売れない可能性もある。どうしたものかな。
「お金には困ってないんで、安くてかまいませんよ」
ニズちゃんは天使なことを言い始めた。
「それはダメよ。やっぱり、お金は適正価格で払わないと、やっぱり」
ここで引いたら、ただの詐欺師になってしまう気がするし、ニズちゃんとは仲良くしたいからね。ここは譲りませんよ。
「でしたら、この素材で防具を作って、その防具の売った時の利益の一部を貰うというのは、どうでしょうか? そこから、注文した灰狼の服代を除けばいいですし」
ニズちゃんはこちらが、譲りそうにないのに気付いたのか、代案を出してきた。
「う~ん。………わかったわ。それでお願い。それで、利益の何%がいい?」
これはいいのかな。でも、この申し出はありがたい。
「そこは良く分からないので、ナツキさんが決めていいですよ」
ニズちゃん。それが一番困るのよ。…………ハッ! 今、晩御飯の要望を聞くお母さんの気持ちがよく分かった気がする!
さて、どのくらいがいいかな。向こうが譲歩してくれてるから、ここは多めに、
「それじゃ、30パーセ「多すぎます」そんなこ「そんなことあります。それじゃ、多くても5%でお願いします。これ以上は受け取りません」それじゃ、少なすぎるよ」
多めに言ったら、逆に相場より下げられた。せめて10%くらいでないと、ぼったくりに…………、譲るつもりはなさそうね。この借りは別の形で返せばいいか。「いいですって。お金には本当に困ってないんですよ」なんて言ってくるし。気を使われてるのかしら。
まあ、厚意は素直に貰っておきましょう。
「そう? それじゃ、5%ね。武器のほうの代金もこっちから出してあげるね」
「え? いや、う~ん。わかりました。お願いします。それと、いい防具お願いします
」
せめてこのくらいは、出させてもらわないとね。そういえば、防具は何を上げるのかしら。上級防具職人には余裕よ。
「まかせなさい。ちなみに、何を強化する」
ニズちゃんはなにやら考え込んでいたが、決めたようで。
「それでは、Agiでお願いします」
Agiかスピードファイターを目指してるのかな? よし。張り切っていきますか。
「了解。Agiにしとくね。いいの作るよ~」
「あははは、お願いします。それじゃ武器屋に行きますね」
ニズちゃんはニコニコしながら、そう言った。
「まかせなさい!」
「はい」
そう言って、ニズちゃんはトーカのほうへ歩いていった。
さて、メッセージをトーカに送っておこう。
〈面白い素材もった女の子が、そっちに行くから宜しく。代金は私持ちね〉
よし。送信。
さて、露店を閉めて、作成開始。手応えがありそうだ。
◇◇◇
ん!? メールか、ナツキからか。丁度いい、時間的にそろそろ撤収だからな。
そう考えながらメールを開いた。
〈面白い素材もった綺麗可愛い女の子が、そっちに行くから宜しく。代金は私持ちね〉
ほほう。面白い素材ねぇ。それに綺麗可愛いってなんだよ。
「すいません。こちら武器「おお、来たか。まあ、四軒となりだからな」間違いないようですね」
おっと、想像以上で焦ってしまった。てか、この顔はマジか!?
「いらっしゃい。武器が欲しいんだって、なかなか面白い素材を持ってるらしいね。そして、ホントにプレイヤー? 持って帰りたいくらい幼可愛いね」
軽くからかってみる。
「はい。この素材で双剣を作って欲しいんですけど。あと、れっきとしたプレイヤーです」
幼女はそういいながら、何かの素材を出していた。
軽く返されたな。なかなかの度量だな。
「そうか。はははは。それにしても双剣って、また珍し、い………」
え?
「これって、ドラゴンの素材だよな?」
俺は目を見張って、素材を確認した。素材鑑定したところ、橙竜の角と牙と爪、それと橙竜玉か、なんで、こんな序盤にドラゴンが!?
「はい。偶然倒しまして、手に入れたんですよ」
「偶然で倒せるのもなのか? だってドラゴンだぞ?」
その前に、こんな序盤でドラゴンに会えるものなのか!?
「まぁ、簡単に言うと、ドラゴンが寝ているところに、上から尖った巨石は降ってきて刺さったといった感じですね」
幼女が経緯を説明してくれたが、ピタゴラスイッチみたいだな。
「よくそれで大丈夫だったな」
いや、ホントに。今のレベルでは、即死だよ。
「僕が落とした物だったんで、僕が倒したことになったんだと思います」
βの時、罠って言うスキルで倒しても、アイテムは手に入るからな。
「それは運がいいな。しかし、この辺にドラゴンなんているんだな。出会ったら壊滅しそうだ」
「なんか本来は山脈の中の方を住処にしているそうです」
そういいながら、幼女は[夕霧の森]の方の先にある山脈の方向を指した。
「そうなのか」
う~ん。行けるか? いや、逝けるな。今のレベルでは、勝てるプレイヤーはいないだろう。棲みかが分かっただけでも朗報かな。
「あ、名乗り忘れてました。僕の名前はニズです。宜しくお願いします」
「ん? ああ、すまん。私はトーカだ。よろしくな」
考え過ぎて、幼女、いや、ニズを忘れていた。
「それで、武器はどうでしょうか?」
ニズは、何事もないかのように聞いてきた。
「まかせておけ。しかし、ドラゴンの素材なんて、こんなに早く触れるとは思わなかったぞ。ただし、加工できなかったら、ごめんな。多分、β時の下級蛇竜と同じだと思うんだが」
遣り甲斐はあるが、加工できても、加工は大変だろうな。スキルレベルはβから特典で引き継いでいるが、鍛治場も鍛治道具も初心のものだ。いけるかな?
「かまいません。宜しくお願いします」
「おう。最高のものを作るってみせる!」
やるだけやるか。そう言って、俺は笑った。
「どのくらい掛かりますか?」
「う~ん、1日くれ。代金についてはナツキから連絡を貰っている。ナツキに貰っておくから気にするな」
どうせ露店はもう閉めるからな。
「はい。わかりました。それではまた来ますね」
そう言って、ニズは歩き出した。
さて、あっと、
「ニズ。忘れてた。ほれ」
楽しそうだからな。性格も悪くないし。そう思いながら、フレンド申請を送った。
「完成したら、メッセージ送るからな」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は手をひらひら振った。
ニズは、歩いて行った。
さて、β最強よりも、高位素材だ。やってやるぜ。
生産職、βテストトップ二人は、意気揚々と作業場へ向かった。