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例 了見の狭い男

一話完結の続きものとなっています。

 僕の名前は劉英雄といいます。

台湾から来ました。21歳です。

お父さんとお母さんは学校の先生をしています。

私は7ヶ月日本語を勉強しています。

日本語はとても難しいです。

でも、ゲームをするには日本語が分からないといけませんから

毎日日本語学校に通っています。

将来はゲームソフトを作る仕事がしたいと思います。

日本は物価がとても高いです。なのでイタリア料理の店でアルバイトをしています。

今日はお店の高橋さんからピザを教えてもらいました。

高橋さんは女の子にはとても優しいのに男には厳しいです。

僕は日本語もよく分からないのに、食べ物の名前は全部イタリア語です。

高橋さんはモッツァレラチーズを持って来いといいました。

でも僕は何か分かりません。分かりませんと言ったら後ろからとび蹴りされました。

泣きそうになりました。

日本人は野蛮人だと思います。

でも、高橋さんはいいところもあります。

先週彼の行きつけの、スナックに連れて行ってくれました。

高橋さんはいつもカラオケをします。

僕は日本語の歌がまだ勉強中ですので歌えません。

でも、ママさんはとても綺麗です。

台湾でもスナックの経営している人をママさんと言います。日本語と同じです。

僕はママさんと呼ぶと、ママさんは涼子って言うのよ。

と言いました。

涼子さんは僕をひでおくんと呼びます。

中国語ではインションと発音しますが日本人は上手く言えないので

日本語の読み方を習いました。

僕が日本語の勉強をしていると言うといろいろ教えてくれました。

でも涼子さんの表現は少し難しくて理解できないこともあります。

だから帰ったら辞書で調べます。

たとえば昨日こんな言葉を習いました。



  了見が狭い

りょう‐けん【料簡・了見・了簡】

[名]スル1 考え。思慮。分別。「悪い―を起こす」2 考えをめぐらすこと。3 こらえること。堪忍。 

 

  例 了見の狭い男


 涼子は大山という店ではやたら羽振りのいいIT事業をする40半ばの独身男と

初めて同伴する為に

新宿駅東口の向かいにある紀伊国屋書店の前で6時に待ち合わせていた。

30分前には着き店内を一周すると、株の本などをパラパラとめくりさっと興味のある記事に

目を通す。お客様の勧めで株を始めてから1年ほどしか経っていないが

持ち前の勝負強さと熱心に勉強したおかげか、今では月に10万ほどは稼いでいる。

けして多い金額ではないが、根は堅実な性格な上、スナック経営もまずまずの売り上げで

お遊びにしては上出来だと思っているので、これ以上額を増やすつもりは無い。

株の本を見終えるとダイエット記事の載っているファッション雑誌を手に取った。

肌は週に一度のエステで手入れをし、髪も毎日美容院で今流行の巻き髪にセットすると

長身で色白の涼子は43歳という年齢の割には若く見えるが

ホステスという仕事柄、油断するとすぐに洋服がきつくなり今では週に4日の

ジム通いが欠かせない。

ふと店内の鏡を見ると、夏向きの涼しげなベージュのノースリーブのワンピースから

覗く二の腕やふくらはぎにダイエットの効果が出てきていることに満足し

シャネルの腕時計に目をやると6時になろうとしていた。

ゆっくりとした足取りで、待ち合わせのエスカレーターの前に立ち通りに目をやると

丁度向かいの横断歩道からこちらに向かってくる大山の姿が見えた。

いつものジーンズ姿とは別人のような横山やすし風の

細いストライプの入った濃紺のスーツに、白の開襟シャツ姿で

「ごめんね涼子ちゃん。まさか先に着いてるとは思わんかったよ。」

と、がに股の足をやや小走りにしながら涼子の前までやってくると、アイロンの利いたハンカチを取り出しせわしなく額の汗をぬぐっている。


「いいえ、私もついさっき着いたところなのよ。さあ、今日はどちらに案内していただけるの

 かしら?楽しみだわ」

「新宿なんて久しぶりで実はようわからんのです。涼子ちゃんどっか好きな店ある?」

と、関西弁の混ざる口調で尋ねる。

 自分で誘っておいて決めてねえのかよ!

心で舌打ちするが

「そうねー。お鮨屋さんなんかどうかしら?今日みたいな暑い日はさっぱりしたものが

 いいじゃない?丁度近くに最近評判になっているお店があるのよ。」

「寿司かー、良いですね。それじゃそこ行きましょ」

と立ち話もそこそこに歩き出す。


 連れ立って入った店は歩いて5分ほどの距離にあった。

カウンターが8席とテーブル席が3つほどのこじんまりとした店内は

隅々まで磨き上げられ、仕事を施された魚達はきらきらと涼しげな様子で

ガラスケースの中で整然と並んでいる。

まだ新しい為か微かに木の香りが残る清潔な佇まいで

板前さんも一見客にも愛想よく話しかけてくれる感じのいい店だった。

カウンターに座るなり二人分のビールと刺身を注文した男は

上着を脱いで自分で用意してきたウエットティッシュで顔を拭いている。

見てみぬ振りをして涼子は話しかける。

「大山さんとお会いするの1ヶ月ぶりかしら。神戸から出張で東京に来るたびに

 思い出していただけて嬉しいわ。」

「いやー、涼子ちゃんの顔見たさに主張してるんよ」

そう言って生ビールで乾杯すると天然わさびを自らすりおろし

鯛の刺身の上に少しだけ乗せて口に入れると、こりこりと歯ごたえのいい

食感が鮮度のよさを思わせる。

 良かった。この店安心だわ。

初めての店で少し緊張していた涼子だったが評判通りの旨さにほっとする。

お互いの近況を話しながら

次は何を食べようかと思案していると、大山は何を思ったか

茶碗蒸しを二つ注文した。

 このタイミングで茶碗蒸し?

そして続いて今日のおススメの焼き物は?と訪ねると

きんきの塩焼きと車えびの塩焼きを二つ注文している。

 え〜そんなに食べたらおすしが入らないじゃないの!

心で叫んでもニッコリと営業スマイルを忘れない。


 先ほどから大山は一人で話続けている。泊まっているホテルが一泊いくらだとか、

飛行機のチケットがいくらだとかいつもの大盤振る舞いな姿からは想像できない

細かさで熱弁をふるう男を涼子は空になったビールグラスを前に

へー とか そうですか。

などと間の抜けた相槌でごまかす。

「大山さんっていろいろ詳しいのね。来年タイに行くんだけどチケットどこで買えば

 安く買えるかしら」

どうでもいいことなのだが話をあわせて尋ねると

「へー旅行いくの?誰と?」

「いえ、兄がタイの女性と結婚することになってね。家族でタイに行く予定なの」

そういうと大山は急に顔を曇らせた。

「大丈夫なんかな?」

「何が」

「そのタイ人の女」

失礼な物言いに少しムッとするも何が言いたいのか分からずに

「どうしてですか」

と穏やかに首をかしげる。

「俺もタイはよく知ってるけどさー。あそこは貧しい国よ。お兄さん良く調べたんかな?

 騙されてるんちゃう。実は風俗の女でさ、結婚したとたん財産奪われること

 もあるっていうよ。」

「そんな、考えすぎですよ」

「貧しいっていうのはな、何でもありなんよ。親父さんやおふくろさんが

 心配する前に涼子ちゃんが調べておいたほうがいいんじゃないの?

 まあ、本人は頭に血が上っていると思うから何言うても聞かんだろうしなあ。

 あの国の女性はこう言ったら失礼かもしれんけど、ほとんど風俗に関係してるよ

 うん。間違いないな。」


「はあ・・・」

あまりの言いように怒りで手が震え、下を向き思わず深呼吸する。

兄と彼女は同じ系列のホテルに勤めている関係で兄がバンコック勤務の際知り合い

日本に戻ってから3年の遠距離恋愛を経てやっと結婚が決まったと聞いている。

 どんだけ了見の狭い男なの!

憤る涼子の横で大山は構わず興奮気味に話し続けていた。


最後に期待していた握りも、大山は全くこちらの好みを聞こうともせず

頼んだイカと海老を食べ終えると、涼子はお腹がいっぱいになり

静かにお茶をすすって考えをめぐらす。

そして決意したように顔を上げると

 この後店では新しいボトルを入れてもらうわ!そうだ、シャンパンで乾杯しよう。

 このままじゃすまないわよ!


「それじゃあ大山さんそろそろ出ましょうか。今日は本当にご馳走様でした。

 楽しかったわー。」


と大山の腕に手を回すと怒りが闘志に代わっていった。




 劉英雄は最近の出来事を日本語で作文にする。という宿題に追われていた。

先生はこれから毎日提出しろと厳しいことを言う。

今日の分をやっとの思いで書き上げると、最後にこう締めくくった。


 了見が狭いというのは考えがせまい。思慮(注意深く心を働かせて考えること)が足りないということだそうです。

けれども、僕は涼子さんはどうして怒ったのか良く分かりませんでした。

お兄さんの奥さんを悪く言われたからなのか、相手の人がケチだったからなのか。

聞こうとしましたがお酒をいっぱい飲んでいる涼子さんは高橋さんといつまでも

カラオケをしていて聞けませんでした。

また今度聞いてみたいと思います。













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