予防線
「どうぞ……」
自分でも声のトーンの変わりようがわかるぐらい声が低くなった。
「お嬢様、おはようございます」
そんなにニコニコ言われても嬉しくも何ともない。私に対して気を許してくれてるって感じで嬉しいけど。
「おはよう、宇宙。あのですね」
「はい」
ううっ、笑顔が眩しい……。
「今までどこにいたの?」
「自室に居ましたよ? それで今朝起きたらお嬢様の部屋に明りがついていたので」
よかった。本当かどうかは分からないけれど信じよう。
「ところでお嬢様、今日は……どうでしたか?」
それは遠まわしに夢のことについてだよね。宇宙が何を知っているかは分からないけどすべて話そう。宇宙は私に心を開いてきている。なのに私が開かなくてどうするんだ。と自分に言い聞かせ、宇宙の向かいに立った。
「お嬢様、どうぞおかけしてください」
「宇宙も座って」
いつもなら僕はいいですよと断るのに今回は、はい。と私の前の椅子に座った。
「夢のことなのだけど、あの女の子の名前が分かったの」
宇宙は驚いた様子もなくむしろやはり……。という感じで口を開いた。
「彩女でしょう? お嬢様」
一瞬戸惑ってしまった。宇宙があの女の子の名前を知っているとは思わなかったし。
「そうなの、ねぇ、どうしてだと思う? なんで……」
「お嬢様と同じ名前なのかということでしょう?」
そう、私は白野綾芽。あの子も彩女。宇宙、あなたは何を知っているの?
「どうして、宇宙は知っているの?」
私が訪ねると、あの偽者の前までの笑顔を顔に貼り付けて
「どうしてでしょうね? お嬢様今日は一緒に寝ましょう」
え……。どういうこと? え? 異性と一緒に寝るのって……。私が一人でどきどきしてると宇宙は笑いながら言ってきた。
「変な心配はよしてください、ここに座っています」
「べ、別に何も心配してないわよ。本当にそこでいいの?」
「ええ、あと……今日は奥様と行動していただけますか?」
宇宙は若干曇り顔で言ってきた。
「お母さんと? どうして?」
「今はいえません。明日になればきっと分かりますよ」
彼はそういい笑った。なぜか私は初めてこの笑顔が嫌だと思った。宇宙はこの笑顔で他人との予防線を張っているんだと嫌でも思い知らされた。