はじめてみた夢
「お母様?」
少女は扉に向かい呟いた。言葉の意味を確かめるかのようにゆっくりと。
(誰?あの少女は……)
「……あなたは呪われし子。私は母ではないわ」
「呪われし……?」
少女は自分の胸に手を当てて繰り返した。
(呪い?)
「この部屋から出たらあなたは……私たちは……この世界は破壊される」
この部屋というのは、一面紫色で、窓も無ければ扉も一つしかない。天井には、電気が一つと、お札が張り巡らされている。
(不気味な部屋……。現代では無いわよね?)
「あなたはっ、一生ここで暮らせばいいの……そうずっと、永遠に」
扉の外の女性は少し涙ぐみながら言った。
(だめっ、だめ。あの子を助けなきゃ)
「た、助けなきゃっ……だ、誰かあの子を……」
「お嬢様……? お嬢様! 大丈夫ですか!?」
目を開けると確かにそこは私の部屋であって、ベットの横には宇宙が顔を青くして立っていた。そうあれは夢だよね、よかった……。少しリアルすぎた感じはしたけれど。
「あ……宇宙ごめんなさい。夢を見ていたみたい」
「大丈夫ですか? 凄くうなされていましたよ? 僕でよければお話しください。悪い夢は話すといいとか昔言っていたみたいですし、逆にいい夢は話さない方がいいと」
それはいつの時代の話よ。確か祖母が言っていたような……。でも宇宙なら、笑わないで聞いてくれるかな? 試しに話してみようかな。
「女の子……わたしよりもずっと小さい……学校というものにいっていれば……ええと、小さいところ」
なんと言うのだっけ?たしか六年いなければならない学校。私は宇宙に目線を送った。
「小学校でしょうか?」
「そう、そこに通っているぐらいの少女が閉じ込められていたの……」
おそらく現代ではない。私に似た少女だった。
「場所は? それは監禁という罪で訴えれば……」
「夢よ、夢。おそらくもし本当にあったとしても明治時代、電気は発展していたけれど和室だったわ」
あれ、私ったら。どうして? 宇宙には少しだけ話そうと思ったのに。
「それは……いや、お気になさらないでください。怖い思いをなさったでしょう? また怖い夢を見たらどうぞお話くださいませ」
宇宙は何か知っている? 気にしないでって言っているのに探るのも迷惑というか失礼にあたるわよね。
「わかったわ、えっと北条さんはどちらに?」
「大広間と奥様はおっしゃっておりました」
彼はチラッと時計を見て教えてくれた。
「じゃあ髪型を整えたら廊下に出るわ、申し訳ないけど、廊下で待っていてくれる?」
「はい、お嬢様が言うのでしたら。では」
彼にはどこまで話せばいいのだろう。でも彼以外に話せる人も思い浮かばなかった。気づけば私の周りには宇宙しかいなかった。