第7話・勝者に与えられる物
気付くと俺はいつもの牢屋にいた。
俺の感覚だと時間的に数秒だと思うが、実際どのくらい経ったのかは分らない
ぼんやりとした意識で部屋を見渡していると牢屋の入り口には全うなご飯が置かれているのに気付いた。
しかも、サラダ付きだ。
「ぃよう。目覚めたか?」
看守のヴェルとハイアが入り口に立っていたが、まともなご飯に魅入られて声を掛けられるまで気付かなかった。
「喜べ。この飯は勝利したお前にベルフェゴール様から施しだ」
「勝利した日だけなんだが、まぁあの飯よりは良いだろ」
あの蠢く飯がまともではない事に気付いていたのか…。
毎回あの飯だからグレゴリにとっては普通なのだとばかり思っていた。
「それと、申し訳ないが破けた服の代りを気絶している間に着せておいた」
本当だ。破けて消失したボロ布から清潔な白い布に変わっていた。
が、相変わらず防具としては最低ランクでタダの布なのは変わっていない。
「あのままで良いという意見もあったんだが…。
囚人、看守含んで女の身体が露わになっているのは目に毒だからな」
「お前みたいな寸胴でも女の身体には違わないからな。
そういう目で見ている奴もいると覚えておくといい。
ちなみに俺はロリではないから安心しろよ」
「俺もだ。妻と娘もいるからそんな事は恐くて出来ない」
大きなお世話だと思いつつ、ついでに身体も綺麗にしておいて貰いたかった。
気絶している身体なんだ簡単だろう…と思ったが、俺が逆の立場でもやらないよなと思う。
というか、やっぱりそういう目で見られるんだな…。
無駄にリアルで作りやがって…というかAIが優秀なのか?
「ああ、それとそのハルバートは戦利品だ。
素手よりはマシだろうから貰っておけ」
ハイアが指差した方向には、獣人が使っていたハルバートが立て掛けられていた。
俺の身長の約2倍ほどある長さを誇り、柄の先に付いた刃の部分は間近でじっくり見ると凶悪なほどに大きかった。
俺はこんなもので身体を切り刻まれたのか…と思うと、背にゾワリと寒気が走る。
「スキルを覚えたいと言うなら、俺かこいつが初歩的な事を教えてやる」
「俺達は所詮看守だからな。教えられる事は少ないぞ」
まぁ、そうだろうな。高スキルを身に付けているなら看守なんてしていないだろう。
例え、希望しても看守にはなれなかったであろう。
「魔法は残念ながら無理だ。が、伝手がない訳でもない。
魔術なら何とかなるかもしれない」
お前が覚える気があるのならっと付け足した。
魔術か覚えておいて邪魔にはならないし、グレゴリの血も混ざっている事だから習得も難しくはないだろう。
「ハイアの交渉次第だな?」
「あの人は苦手なんだよな…」
どうも、魔術を習得しているのは女性のようだった。
「ああ、あの人ってのは、ハイアや俺の元教官にして元騎士様だ。
ベルフェゴール様に逆らってここへ投獄された」
という事は、グレゴリか…。
教官経験と騎士であった事から相当能力を持った人物であろう事が予想される。
「で、どうする?」
「では、ハルバートのスキルと各戦闘スキルを一通りを…」
「魔術はどうする?」
「取り合えず、保留で…」
「OK。では、闘技場へ行くか」
「闘技場?」
「口頭で教えるより実践で教えた方が分りやすいだろ?」
ハイアとヴァルを連れ立って…いや、違うな…連れられて闘技場へ向かう。
もう、見慣れたもので闘技場までの道のりなら2人がいなくても行ける自信がある。
俺達は闘技場へ着くと、真ん中にある舞台というかリングに立つ。
ちなみに、今日の闘技会は終了しているので誰もいない。
「今から俺がハルバートの基本技を使う。
28号…君は、俺の動きを実践してみてくれ。
正確にトレース出来たならスキルを習得する事が出来る」
「本当は、流派も同時に教えるのが筋なんだが…
残念ながら俺達2人は人様に教える程の腕は持ち合わせていない。
取り合えず、ハルバートの使い方だけでも覚えておくと良い」
俺は無言で頷き、リングの真ん中でハルバートを構えたハイアを凝視する。
「よし、始めるぞ」
ハイアはハルバートを肩に担ぎ腰を限界まで捻る。
ハルバートの刃先が正面に向くほど腰が捻られている。
良く似た技をあの獣人も使っていたな…。
「せりゃ!」
ハイアは掛け声と共にハルバートを大きく振るう。
ブォンと野太い音が鳴る。
「……俺程度じゃ見本にさえなりやしねぇな。ハハハ」
「まぁ、でも、分りやすくて良いんじゃね?クククッ」
良いコンビだな。
ホント…。
「じゃぁ、やってみてくれ」
「焦らなくても良いからな。
正確にトレース出来ているならもっとゆっくりでも構わないぜ」
確か、ハルバートを片に担いで腰を深く深く捻る。
そして、ハルバートの刃先が前に来るようにする。
というか、凄く重い。
特に刃先が重くバランスを取るのが難しい。
五感とか実装していないのに重量だけはちゃんと実装している辺り
どういった基準なのかと疑問に思う。
と言うか、小さい身体は駄目だ。
重いものが辛い上に装備による動作制限も実装されているのでサイズが合わない装備をすると動き辛い。
「ねぇ?刃先って正面じゃないとダメなの?」
「いや、正面でないとダメという事はない。
もっと捻る事が出来るならやっても構わないぜ?」
「腰を捻る具合はもっと浅くても良いし深くても良い。
これは、ハルバートの威力を上げる予備動作みたいなものだからな」
「ただ、深く捻った所為で正確に軌道をトレース出来ませんでした…では意味がないからな」
「うん、分ってる」
俺はもう少しだけ捻りを深くする。
そして、一瞬だけそれよりも深く捻った反動で薙ぎ払う。
ハルバートからブンと少し短めの太い音が鳴る。
「おお、ハイアより巧いんじゃねぇか?」
「う、うむ。で、どうだ?習得出来ているか?」
ハイアは微妙な表情で頷く。
少しプライドに傷が付いたようだ。
「えーと…」
俺はスキルの確認を行う。
◆種族スキル⇒『ヒューマLv18』
◆血族スキル⇒
◆才能スキル⇒
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv1』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv1』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『我流Lv24』
◆ノーマルスキル⇒『格闘Lv28』『矛槍修練Lv1』『毒耐性Lv5』『サバイバルLv5』
「うん、覚えてる」
そういえば、ハルバートが軽くなった様に感じる。
矛槍修練を習得したからだろう。
言うなれば、武具の装備に重要なのは修練スキルという事だな。
「よし、続けて、回避・武器防御・軽鎧装備……辺りだな」
「気配察知もあると良いかもな」
「ふむ、ならそれを加えた4つを教えてやる。
習得方法はさっきと同じで、俺の動きをトレースすれば良い」
ハイアが言った通り他のスキルも同じ方法で習得する事が出来た。
しかし、後方から投げられた小石を避けるという気配察知だけは難しく何度も後頭部に小石が直撃した。
後ろに目がある訳でもなく避けられないよと思ったが、適当なタイミングで避ける動作をすれば習得出来た。
と言ってもちゃんと小石が投げられた後でないと意味がなかった。
という事で結局こうなった。
◆種族スキル⇒『ヒューマLv18』
◆血族スキル⇒
◆才能スキル⇒
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv1』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv1』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『我流Lv24』
◆ノーマルスキル⇒『格闘Lv28』『矛槍修練Lv1』『回避Lv1』『武器防御Lv1』
『気配察知Lv1』『軽鎧修練Lv1』『毒耐性Lv5』『サバイバルLv5』
ちなみに、ノーマルスキルは、10つをアクティブ状態に出来、5つをノンアクティブ云わば予備として習得出来る。
この10個と5個は非戦闘状態ならいつでも入れ替える事が出来る。
そして、15個以上を習得しようとすれば、どれか1つを消さなくてはならない。
では、新たに習得したスキルについて少し説明をしよう。
矛槍修練は字の如く、矛と槍に分類される武器を扱う為の技能だ。
回避は説明するまでもないな。
武器防御は、主に両手で扱う武器の為のスキルで盾を扱えない代わりに武器を使って防御するスキルだ。
このレベルを高めると軽減できるダメージと耐久値の減りを軽減できる。
軽鎧修練は、革や布を素材にした防具を扱う為の技能だが、現在布を素材のまま装備している俺にとって有効なのかは不明だ。
気配察知は、自分より種族スキルのレベルが低い相手の気配を察知できる云わば奇襲を防ぐ為の技能だ。
ハイアやヴェルの話によればスキルレベルが高ければ、遠距離から銃で狙われても察知できるようになるらしい。
ただし、相手が気配遮断というスキルを持っていなかった場合に限るが…。
まぁ、察知出来ても避ける技能がなければ意味がないので、回避と気配察知は同時に上げていく必要がある。
と言っても、回避はともかく気配察知は上げようと思っても上げられるようなスキルではないのだけど…。
「…では…魔術はどうする?
まだ、保留でも一向に構わんが…」
「何かすごく嫌そうだね」
ハイアの嫌そうな表情の横でヴェルがニヤニヤしているのは見ないでおこう。
「ヴェルはそうでもないみたいだけど…」
「ん?ああ、俺も嫌と言えば嫌なんだけどね」
「あの人は、素直には教えてくれない上に無茶振りしてくるからな…」
どういった無茶振りをするのか会ってみれば分るだろう。
「じゃ、お願いします」
「そうか」
「じゃ、こっちだ」
ヴェルが指差したのは、俺が投獄されている方向ではなく逆の方向だった。
そこには同じように下へ続く階段があったが、施錠されている扉が俺のいる牢獄よりも多かった。
「気になるか?」
「…まぁ」
「ここは所謂、政治犯や反逆者…簡単に言えばグレゴリの囚人がいる区画だ」
「で、今から会う人は先ほども言った反逆者の部類に入る」
牢屋が建ち並ぶ区画に入るとどんどんと奥の方へ進んでいく。
囚人の中でも余程危険な人物として認識されているのがよく分る。
「あら、ハイアとヴェル久しぶりね」
「カリーネ様お久しぶりです」
「囚人に様は要らないでしょ?」
そこにいたのは非常に美しい女性だった。
彼ら2人の話を聞いてゴリラのような人物像を思い浮かんでいたが全くの逆だった。
肌はグレゴリ特有の彩度の低い青白い肌だが、髪は汚れ1つない程綺麗な銀髪で瞳は金色だった。
女性には理想的な身体でスレンダーだが出るところは出ている。
ゲームの王道である美形キャラである。
「で、今日はどういった用かしら?」
【入手アイテム】
《Name》牢獄のハルバート
《User》アキラ=ツキモリ
《Rank》Junk
《Level》矛槍修練Lv1
《Base》ハルバート
《Detail》
使い古されたハルバート。
ベルフェゴールが管理する牢獄闘技場の囚人用ハルバート。
刃止めがされている訳ではないが、刃毀れが酷く斬撃攻撃力は高くない。
それでも牢獄内の武器の中では攻撃力の高い部類に入る。
《Name》綺麗な布
《User》アキラ=ツキモリ
《Rank》Junk
《Level》軽鎧修練Lv1
《Base》清潔な布
《Detail》
衣服の代わりに使用している穴の空いた布。
汚れも少なく比較的清潔な布と言えるが防具としては役に立つ事はない。
これを防具と言ってしまうと防具への冒涜である。