第6話・攻略は計画的に
あれから、何度も何度も攻撃をしては殺されを繰り返し順調にレベルが上がっている。
一番の収穫はと言うと様々な殺され方を体験できた事だろう。
斬首から始まり絞殺・刺殺・撲殺・轢殺・圧死や大量出血によってそのまま死んだり…
ああ、そういえば、戦闘とは関係ないが無理やり体力を回復させる為にあの蠢く飯を食って食中りになって死んだっけ。
あれは洒落にならなかった。
味覚も痛覚もないから初めは何なのか分らなかったが、凄い勢いでHPとMPが無くなって死ぬ直前に初めて気付いたんだよな。
まぁ、そのお陰で毒耐性とサバイバルの両方ともレベルが上がった訳だが…。
ちなみに、俺に残された時間が実は残り1回だったりするのだが…まぁ、何とかなるだろう。
それに、勝てる可能性は大分高まっていると思う。
何故なら前の試合では、奴を瀕死にまで追い込んでいたりするからだ。
回避や防御スキルがなくても、あれだけ同じ相手と戦っていたら案外避けれるようになるもので、
今では俺の方が奴よりも有利に戦いを進めている。
「なぁ…今日は潔く死んでくれないか?
後1回勝てば俺は自由になれる…後1回なんだよ」
「…ボクは後1回負ければ死ぬ事になるんだ。
今日は絶対に負けない…」
そう言えば、俺はこのキャラを演じるにあたり、自分の事は”ボク”という風に呼ぶ事にした。
もっとクールビューティー系のお姉さんなキャラなら”俺”や”オレ”と呼ぶ事にしたかも知れないが…
残念ながらこのキャラは、16歳という年相応な見た目をしている。
いや、実際どういう見た目なのかは分らないのだが、多分結構可愛い方だと思う。
自キャラの見た目がよく分らないというのは…初めてログインしてから一度も身体を綺麗にしていないからで
血と糞尿と泥で汚れた肌、ボサボサで手入れなんてしていない髪、ボロ布を纏って死骸だらけの牢屋の中にいる状態なのだ仕方ないだろ?
あ、後、”私”という呼び方だが、身体がむず痒いので却下した。
断じて洗っていない身体だから痒い訳ではないからな。
「!?…なんだ…。お前喋れるのか…」
ああ、そう言えば、こいつの前で一度も喋った記憶がないな。
普段から受け応えをほとんど頭を振って表現していたしな。
「まぁ、そんな事よりだ。
お前の安っぽい命よりも俺の方が優先されるのは当たり前だろ?」
「……今日は自棄に饒舌ですね……」
というより、とんでも思考だな。
「当たり前だ!!俺はな。お前の年よりもずっと下の頃から家畜以下の扱いを受けてきたんだ。
そして、それが後1回貴様に勝てば人として自由を得る事が出来る。
こんな所に一秒でも居たくない!!なぁ?死んでくれよ…俺のために…」
……正気じゃない。
奴は俺を見ているように見えるが恐らく見ていない。
見ているのはこの先にあるだろう自由だ…自由を得る為に奴は人の心を捨てている。
今の奴は獣人ではなく、そう…丸で肉食獣だ。
勝利を得る為に自ら正気を失くした。
俺も覚悟を決めなければならない。
奴に勝利をするだけでも戦意をなくすだけでも駄目だ。
完全に沈黙させ殺さなければ多分終わらない。
俺と奴の生き残りを賭けたデスゲームだ。
―――そして、運命の鐘がなる。
「ヌアアアアァァァ!!」
獣人は、今まで一度もしなかった咆哮と共にハルバートを肩に担ぎ前方へダッシュする。
俺も最初ダッシュする予定であったが、獣人の咆哮で怯んでしまい動きを止めていた。
獣人は、俺の手前3mほどの所で跳躍し腰を捻り俺に狙いを澄ませる。
そして、草木を刈り取るかのように下方斜め方向に勢い良くハルバートを振るう。
ハルバートの間合いから後ろに跳ぶ選択肢はない。
上へジャンプしたところでスキルのない状態だと避け切る事は難しい。
俺は、前方へダッシュして避ける事を選択し、出来るだけ姿勢を低くして地面を蹴る。
ハルバートの刃先が俺の髪の毛を刈り取り、ただでさえ短い髪がさらに短くなる。
まぁ、でも首を刈り取られるよりは全然マシだ。
あれだけ大きいモーションの攻撃だ。
出し終わった後の硬直時間は長い筈、俺は獣人の背後に回り俺の胴ぐらいある首に腕を巻きつけ絞める体勢に入る。
『我流Lv16』『格闘Lv21』は伊達じゃない…筈だ。
流派の我流は、云わば初心者用の流派だ。
何一つ強力な技はないが、全ての武器に対応している事と基本的な技が一通り揃っている事が特徴だ。
そして、今獣人に掛けている技『裸絞め』も含まれている。
利いているかどうかは分らないが、完全に極まっているのが自分でも分る。
このまま落とす勢いで俺の全ての力を腕に回す。
「ググググッ」
獣人は俺の腕を振りほどくように暴れるが、尚更俺の腕は首に食いついていく。
これで終われば御の字だけど、そうは行かないのだろうな。
「グアアアアアアア」
獣人は前に屈むと同時に腕を背後に回し手探りで俺の衣服(ボロ布)を鷲掴みし引き剥がしに掛かる。
上へ引っ張られた事でボロ布のネックが俺の首に食い込む事で、どちらが先に落ちるか我慢比べになる。
とは言ったものの、力では全く敵わなかったという事で簡単に引き剥がされる。
そして、衣服を掴んだまま獣人は俺を地面に叩き落とした。
「がはっ!?」
俺は全身を強打し意識が朦朧とする。
痛覚はなかったが、地面に叩き付けられる衝撃だけはあった。
そして、獣人の腕の振りに元々ボロボロだった俺の衣服は千切れてしまい衣服としての機能を失った。
と、いう事で現在俺の装備は囚人の首輪だけになってしまった。
闘技場内には、歓声と落胆が織り交ざった声が響き渡る。
歓声というのは女の半裸(このゲームには全裸はない)だろう。
そして、落胆は起伏のない身体であろう。
自分で言っていて悲しくなるのだが、本当に残念な身体だ。
簡単に言えば寸胴でまるで少年のようで、胸は普乳に設定したのでまだマシレベルだ。
いや、逆に考えれば服装によって少年キャラとしてプレイできるのでは…。
まぁ、まずはこの状況をどうにかしなければならないが…。
朦朧としている俺の脚を掴み、獣人は思いっきり外壁へ投げ飛ばす。
流石、獣人の事だけはある。
この勢いで壁に直撃すれば、確実に死ぬであろうスピードだ。
俺は獣人戦4回目壁に投げ飛ばされ死んだ事を思い出す。
高層階から飛び降りた様にベチャって感じで死んだのだ。
流石に、二度も同じ轍を踏む訳にはいかない。
俺は無理やり体制を変え、壁の方に脚が来るように身体を捻る。
そして、壁に着地するように激突する。
俺の身体の質量分、壁が大きく陥没すし、ビシッっと右足の骨が砕ける音が体中に響く。
「!?」
地面に着地する共に右足に電気が走る。
残念ながら右足は動かず、左足だけで立っている。
俺の激痛に歪んだ顔を見たのか、動かない右足を見たのかは分らないが、
獣人が勝利を確信した表情を見せる。
ちなみに、プレイヤーである俺には激痛が走っている訳ではない。
恐らく、自動的に痛みを判別しキャラの表情へ反映させていると思われる。
ハルバートを片手に獣人は土煙を上げながら突進を仕掛ける。
獣人の大きな身体で俺に畳み掛けるようにハルバートで突きをする態勢に入る。
俺がもう動けないと踏んでの攻撃だろう。
しかし、俺の左足はまだ動くという事を忘れていないだろうか…。
ハルバートの刃先が到達する直前に俺は身体を倒し紙一重で避ける。
そして、通り過ぎるハルバートを持った腕に手を添え、獣人の突進の勢いを利用して壁へ誘導する。
獣人は、そのままの勢いで顔面から壁に激突し、グシャと嫌な音と共に崩れ落ちる。
柔術か合気道か忘れたが、こういう技があったよな。
スキルとして発動した訳ではないので、攻撃になるかどうかは分らないが巧く行って良かった。
「っあ」
俺は獣人の戦闘不能を確認し安堵した瞬間、折れていた右足を地に着けてしまい勢い余って地面に倒れる。
闘技場内に響き渡る歓声を聞きながら俺は意識を手放した。
ちなみに獣人の死亡原因は、高所からの落下ダメージと良く似ていて頭部への激突ダメージです。(いわゆる自滅みたいなもの)
彼は今回の負けにより9カウントが0になった上にハルバートを失いました。とはいえ、上位ランクの囚人なので予備などは持っています。しかも、アキラが奪ったハルバートよりも強力なのが…。