第54話・速攻そして奪取
大分、間が空いて申し訳ないです。
なかなかキリが良い所がなく長くなってしまいました。
「うぷッ……」
俺は胃の奥から押し戻すような感覚に囚われ思わず口を抑えた。
いや、まぁ……不味くはなかった。
情報屋の言った通り、食感はサザエとよく似ていて醤油の味が食欲をそそり美味しかった……よ?
ただし、目を瞑らない事にはグロテスク過ぎて食えたものじゃなかったけどな。
その場にいた他の出場者と妙な連帯感が生まれたのはここだけの話だ。
「大丈夫?」
エレナさんが優しく背中を摩ってくれる。
口数は少ないけどエレナさんは本当に優しい人だ。
「だ、大丈夫です。
有難うございます」
「ん」
エレナさんは、俺の頭をポンッと軽く叩きヘンリックさんの下へ向かった。
「ほんと、しっかりしてよね。
まさかとは思うけど、昨晩酒盛りでもしたの?」
「……してないし……」
お前とは違う……とは口が裂けても言えないな。
「脚力ボーナスの料理を食べた」
「ああ、なるほど。
で、何でそうなった訳?」
「聞かない方が良いよ……ウッ…」
思い出しただけでグロテスクなアレが脳裏に浮かび上がる。
その後、数分雑談していると俺達出場者とは反対の方に数名の騎士を連れた如何にもお偉いさんと思わしき人が来る。
恐らくは、サウスアルカディア王国の国王か大臣辺りの人だろう。
大臣は、開会の挨拶もそこそこにしクラン戦のルールなどの説明に入る。
以前、ヘンリックさんが話していた内容と同じだったので適当に聞き流す。
初日は全部で10試合が5つの会場で午前と午後に分かれて行われる。
俺達、『深緑の傭兵団』は、第二会場の午前となった。
また、事前に知らされていなかった事が2つあり、各役割別代表の視点が映像として映し出される様になっているらしい。
言うなれば、プレイヤー視点のLIVE映像が会場上空に出現するとの事だ。
しかも、OS社社員の実況付きらしい。
もう1つは、魔導電話の扱いだ。
戦闘エリアに限って使用出来るが、外部との通話は出来ない様だ。
恐らく、LIVE映像を元に場所を特定されない様にという配慮なのだろう。
ルール説明が終わり、会場へ転送される魔法陣に全員が入る。
魔法陣から光が溢れ全員を包み込んだ所で一気に転送された。
◆◆◆
「ここは……」
「ここは、第二会場の第二待機エリアですよ」
クロイツがボソリと呟いた直後、俺達の背後から声が聞こえた。
振り向くと女性法術師が3名おり、その内の1人が言った様だ。
ここが第二なら、相手クランは第一待機エリアか。
「ちなみに、こちらは戦闘不能になった際に転送されるエリアでもあります」
営業スマイルと言ったら良いのだろうか、にこやかな表情で3名の法術師は揃って頭を下げる。
「ささ、皆様、ご準備の方は宜しいですか?
後5分ほどでカウントが始まり、0と同時に戦闘エリアへ即時転送されます」
先ほどから同じ人しか喋っていないので、もしかしたら他の2名はNPCなのかも知れない。
全員をOS社の社員にする必要なんてないしな。
「よ~し、みんな準備は良い?
この2週間の成果を存分に発揮し頑張りましょう」
「私達なら大丈夫だろう」
「ああ」
「1回戦ぐらいは勝ちたいですね」
「俺とアキラなら勝てるに決まっている」
「はいはい」
「ま、一方的にならんように頑張るわ」
「…ん…」
俺達は各々開始までの間、準備運動やら何やらを適当にやり時間を潰した。
「開始10秒前です。皆様、頑張ってください」
法術師の言葉どおり、画面中央上部にカウントダウンの数字が現れる。
……5・4・3・2・1……心の中でカウントを数える。
そして……。
「0!!」
俺達全員は、光に包まれ戦闘フィールドへと転送された。
そして、俺は戦闘フィールドに現れた瞬間、迷うことなく前へ駆け出した。
それはもう全力で…。
秋月夢想流時の移動速度は、流派による補正と剣の才能による補正により脚力が断トツで高く移動速度もそれに比例して高くなっている。
それにプラスして『縮地法』も併用している為、アヤカ達の移動速度よりも雄に勝っており距離においては2倍~3倍の差となる。
1分足らずで俺は草原フィールドを駆け抜け森林フィールドへ入る。
「……よっと……」
2週間に及ぶ成果というべきか駆け抜ける際の障害物である木々でさえ俺にとっては障害にはならなかった。
左右そして縦横無尽に俺は木々をすり抜けて行き、時折襲ってくるMobも三角跳びや枝と枝を跳ぶなどをして避けていく。
これには流派スキルの『縮地法』と『急制動』を活用しているから出来る芸当だ。
森林フィールドの中間辺りだろうか…、いきなり視界が開けたと思ったらドラゴンが目に入る。
俺は当然『急制動』を使い停まる。
あの勢いのまま突っ込んでいたらドラゴンに気付かれたかもしれない。
「…………」
大型の翼から見てもイラストどおりの飛龍なのだろうな。
ただ、イラストには色は塗られていなかったので属性が分らなかった。
目の前にいるドラゴンは緑色だ。
恐らくは風属性かつ木や植物に関連した龍なのだろう。
緑色に煌く鱗は非常に美しいが、並大抵の攻撃では傷を付ける事が出来ない。
まぁ、戦わなければ良い事だ。
俺はドラゴンに気付かれない様にそっと後方へ飛び退き、少し遠回りになるが迂回して先へ進む。
中間地点は過ぎているのでそろそろ相手クランのアタッカーと遭遇する筈だ。
俺は地上を走るのを止め、木々の枝を跳んで移動する。
途中、アタッカーとニアミスするが何とか気付かれる事もなく通り過ぎる。
まぁ、ニアミスと言っても上と下なので余程気を配っていないと気付きはしないだろう。
さて、そろそろ森林フィールドを抜ける。
ここからは慎重かつ全力でフラッグ奪取だ。
荒野フィールドは所々に岩が点在している。
岩と岩の間を『縮地法』で駆け抜ければ、普通のプレイヤーには気付かれないだろう。
もし気付く様なプレイヤーがいればディフェンサーよりもアタッカーに抜擢されている筈だ。
◆◆◆
「さて、気付かれる事もなく……」
フラッグまで10mの所まで来たがどうしようかな。
この先には岩がないので、彼らの前に出なければならないのは避け様がない。
『縮地法』で掠め取ってそのまま陣地まで戻るのも悪くはない。
悪くはないが…、ここで戦力も削っておいても問題ないだろう。
岩の陰からフラッグ周辺を観察する。
フラッグを囲むように4人、後方に1人…これは法術師だろう。
しばらく観察していると法術師と思われるプレイヤーに魔導電話が掛かってきた。
「はい…はい…了解です。
みんな、アタッカーの方がそろそろ交戦に入るそうよ」
「うむ」
「あ~、緊張するなぁ」
「はは、今から緊張してどうするよ?
俺達の出番はもう少し後だぜ」
「……うぷっ……俺的には早く奪って早く終わらせて来て欲しいよ……」
あ、あの人は…。
確か、今朝のあの露店でアレを一緒に食った同志の1人じゃないか…。
まだ、引き摺っていたか。
「まだ、治っていないのか?
この分だとアタッカー復帰は無理そうだな」
「す、すまん」
ぶっちゃけ、別にアレを食ったからと言って吐くという事はない。
個人差はあるが、これは精神的なもので脳が拒否反応を起こしているのだろう。
だから、俺は考えない事にしているし、アレの呼称も”アレ”にしている。
そうしなければ、俺もあのままの様な気がする。
さて、そろそろ行動を起こそう。
ディフェンサーのリーダーと思しき法術師は、見た感じ副武装は持っていなさそうだ。
つまり、攻撃という意味での戦力にはならないと見て良い。
ならば、4人倒した後にフラッグを奪取し持ち帰る方向で行こう。
油断している今ならそう時間は掛からないだろう。
俺は隠れていた岩の上へ飛び乗る。
「「!!?」」
森林フィールド方面を見ていた2人が真っ先に気付く。
「なっ!?いつの間に!」
その内の1人が叫ぶと他の者もこちらへ向き直る。
「え?…さっき交戦状態に入ったって……」
流派をアルカディア皇国剣術へ切り替える。
そして、風生剣を抜き、ディフェンサー達の中心…つまり、フラッグの所へ飛び降りる。
それと同時にアルカディア皇国剣術の技である『ヴィントシュピラーレ』を放つ。
これは、剣を突き刺した場所を中心に螺旋を描きながら鎌鼬を周囲にばら撒く技だ。
スキルレベルが高い程放たれる鎌鼬の数と範囲・速度が増加する。
「ぐぁ!?」
「いっ!!」
「きゃぁ!?」
「くっ…」
「あっぶな……」
5人中3人に命中…法術師は服が掠った程度でアレの同志は避けた。
命中した3人は致命傷ではないが、怯ませるには十分だった。
スキル『構え直し』を使い武器の切り替える時間を短縮させると共に、アルカディア皇国剣術から秋月夢想流へ切り替える。
それと同時に空かさず技が命中した3人に斬り掛かる。
まずは、左にいる戦矛使い。
攻撃力と攻撃範囲が広い為、先に攻撃されると厄介な相手だ。
『壱式抜刀術・凪』
声も上げさせず一刀の下に斬り倒す。
すぐに『急制動』で勢いを殺し反転、『縮地法』で一気に間合い詰め反対にいる太刀使いを攻撃する。
こちらは少し反応したが、俺にとっては動きが遅く無防備になっていた所へ『弐式抜刀術・朧』を叩き込む。
しかし、一撃とは行かず朧の勢いを利用して真上にジャンプし『漆式抜刀術・鳴神』を繰り出す。
次は、その真後ろにいた双剣使いへ『縮地法』で接近し、勢いそのままで『伍式抜刀術・飯綱』を叩き込む。
これで倒す事は不可能だが、倒れた所へ夜空を突き刺した。
これら一連の攻撃は僅か5秒足らずで終り、攻撃を受けた3人は光の粒子と共に消えた。
恐らくは待機エリアへと転送されたのだと思う。
そして、法術師を除いた最後の1人であるアレの同志に向けて『縮地法』で接近し『壱式抜刀術・凪』を繰り出す。
「っ…あっぶね」
甲高い金属音と共に俺の攻撃は彼の剣により防がれる。
ただ、勢いは殺せなかった様で後方へ下がる。
流石、俺と同じ方向性のプレイヤーと言うべきか。
「やるね」
「まぁ…な。
ミーシャ。ローランドに早く戻れと連絡だ」
「そ、そうだったわね」
一連の攻撃を呆然と見ていた法術師は、彼の言葉で正気に戻り魔導電話を取り出すアタッカーへ連絡した。
ま、今から戻ったとしても手遅れだ。
それにアヤカ達と交戦中だからそう易々と戻れるとも思えない。
彼に気付かれない様にアルカディア皇国剣術へ切り替える。
壱式とはいえ、『縮地法』と併用して防がれたのだ。
ならば、あまり慣れていないであろう鎌鼬によるダメージに期待しよう。
何と言っても剣自体を防いでも鎌鼬は防げない。
アルカディア皇国剣術にも抜刀術の様に鞘から直接攻撃する技が存在する。
ただ、隙が大きいのが残念なところだ。
流派を切り替えたので『縮地法』は使えない。
ジリジリをにじり寄り剣先が当たるか当たらないかの微妙な間合いを計る。
最悪、剣自体の攻撃を防がれても良い。
彼に隙を作らせるのが目的だからな。
そして、剣先が少し上に上がるのが見えた。
攻撃に打って出るのだろう。
ならば、その剣と克ち合うタイミングで俺は技を繰り出そう。
『シュタルカーリヒト』
鞘から抜かれた剣は、彼の剣と克ち合い甲高い金属音を発し交差する。
しかし、鎌鼬はお構いなしにそのまま飛んでいく。
「ぐっ…ぁ……」
『シュタルカーリヒト』は、前方180度の広範囲に対して三日月状の鎌鼬を発する技で距離が伸びる程範囲も拡大していく。
地に伏せるか高く飛ばない限り防ぎきる事は不可能だ。
とはいえ、やはり剣自体は当たっていない為、致命傷にはならなかった。
アルカディア皇国剣術は基本的な使い方として、標的に対して剣と鎌鼬による二重攻撃で致命傷を与える事を重点に置いている。
勿論、鎌鼬だけでも切れ味だけなら凄まじいものがあるのだが、やはり攻撃力として見た場合物足りなさがある。
極めればその辺を克服するかも知れないが、残念な事にまだ低レベルだ。
そこで『構え直し』を使い秋月夢想流へ切り替え、鎌鼬の直撃で怯んでいる彼に対し『伍式抜刀術・飯綱』を使う。
飯綱は、予備動作が非常に分り難い為当たり易い。
しかも、相手が怯んでいるなら尚更だ。
「かはっ!?」
彼は両膝を着き前のめりに倒れる。
気絶しただけで戦闘不能にはなっていない。
しかし、これならしばらく戦闘に復帰する事はないだろう。
時間も惜しいので、彼が動かないのを横目に見ながらすぐ横に立つフラッグを奪う。
「あっ……」
法術師の女性が気付いた頃には時既に遅し、俺は全速力で自陣へ向けて駆けて行った。




