第5話・最大の難関はチュートリアルⅡ
ログインした先はいつもの牢屋の中だった。
入り口の前には木製の器が置かれ、ご飯と思われるものが盛られていた。
俺は確認する為に近寄ってみると白飯の中に蠢く何かを発見し、口を押さえて後ずさる。
見なければ良かった…。
「ん?やっと起きたか…」
クエストを持っていた方の看守が牢屋の前に立っていた。
「ふん、じゃぁ、いつもの所へ行かせようぜ」
「まぁ、待て。昨日言い忘れていた事があってな。話してやらんと…」
「ああ、あれね。言ってもどうせどうにもならないって」
どういう事だ?
俺は首を傾げる。
「簡単な事だ。10連敗したら囚人であるお前には死が与えられる」
理解していない俺を察したのだろうか、すぐに教えてくれた。
「喜べよ。死に方は選べるからな。
すぐに死なないように少しずつ身体を切り刻まれていく死に方と…」
「痛覚を遮断された上で、生きたままベルフェゴール様のペットの餌になる死に方だ」
元々痛覚はないが…食われるのはご遠慮したな。
「ちなみに、ベルフェゴール様のペットは、ケルベロスと呼ばれている魔獣だ」
「次に勝ち上がる方法だ。自分よりもランクの高い相手なら1回勝てば1つランクが上がる。
逆に自分よりもランクが低い相手なら10回勝てば1つランクが上がる。
同ランクなら同じ相手から2回勝てば良い。
要は勝てば良いだけだ。負けてもランクが下がる事はない」
「お前の昨日の相手だが、後1つランクが上がればベルフェゴール様に会う機会が与えられる。
そして、奴はお前を後9回殺す方を選んだって事さ。
まぁ、奴より上のランクはいないからスロゥス様が相手をする事になる。
そりゃ、ランク下の方を選ぶわな」
えーと、どういう事?
いやまぁ理解出来る事は出来るのだけど…。
このゲームは、死んでも拠点登録した街にに戻されるだけで明確な死というモノはなかった筈だ。
でも、今俺がいる所には戻される場所がない…NPCに生き返らせられてまた牢屋にぶち込まれる仕組みのようだ。
いや、システム的には牢屋に戻されるという事と同じなのか…?
その上で先ほど2人が言った事だ。
切り刻まれて死亡、餌になって死亡…した場合、また牢屋に戻る事になるのか?
でも、死んだ事になってるんだよな?それともリセットされた形になって0からスタートか?
嗚呼、分らない事だらけだ。
この辺は調べた方が良いかも……いやいや、10連敗して死ぬ事が前提になっている。
勝てば良いんだ…勝てば…。
後9回しかチャンスはない…けど、一回でも攻撃を当てる事が出来れば経験値は入る。
格上が相手なら尚更多くの経験値が入るはずだ。
昨日みたいに一瞬で死なない…ダメージが入らないかも知れないけど攻撃を当てる。
これを心掛けよう…。
「よぅし、覚悟が決まったようだな。ヴェル」
「おう。ほら、行くぞ」
床に固定された鎖を取り外した後、ヴェルは鎖を引っ張り俺を立たせる。
そして、またあの長い廊下通り階段を登って行く。
「もし、ランクが上がればスキルを教えてやってもいい。
だから、勝ち抜けよ」
「お、おい。ハイア何言ってんだ?
囚人に感情を入れ込むなとスロゥス様に言われているだろ」
「入れ込んでいる訳じゃない。
ベルフェゴール様に楽しんで貰う為さ」
「ふん、モノは言い様だな。どうなっても知らねぇぞ」
ふむ、クエストのNPCはハイアという名前か…。
しかも、教官NPCだったか。
彼らと話している間に階段を登りきり闘技場に着いていた。
「行って来い」
「ま、適度に頑張れや」
◆◆◆
相変わらず目の前にいる獣人の男は無愛想でギラついた目をしている。
恐らく彼の脳裏には後9回俺をぶち殺すイメージが切り返されているのだろうな。
だが、今日は絶対瞬殺されてやらないからな。
俺はクラウチングスタートのように姿勢を低く構え、開始の鐘と共にダッシュをする準備をする。
相手の得物はハルバートだ。接近すればハルバートで攻撃される可能性は低くなる。
まぁ、ハルバート以外で攻撃されても一撃死の自信があるけどな。
そして、開始の鐘がなる。
獣人は跳躍しハルバートを大きく振りかぶる。
絶対に勝てるという余裕からくる彼のパフォーマンスなのだろう。
普通ならこんな大技が開始早々当たる訳がない。
俺は鐘と同時に前方へダッシュしていたので当然ハルバートは当たらなかった。
が、奴に接近するという俺の計画も空振りに終わった。
「ふん」
奴は俺に背中を向けた状態だったが、後ろを確認するまでもなくそのまま反転&ハルバート大きく振るう。
俺の頭上をハルバートがすごい勢いで通り過ぎ、ボサボサで逆立っていた俺の毛を数十本斬り落とす。
俺は攻撃に目も繰れず一直線にダッシュし奴の懐に入る事に成功する。
ダッシュした勢いのまま、がら空きとなった奴の鳩尾へ跳び蹴りを食らわす。
「!」
やったか?
一瞬、奴の動きが止まったように見えたが、次の瞬間ハルバートの柄の先端が俺の脳天に直撃し意識が一瞬飛ぶ。
気付いた時は、奴に片手で首を鷲掴みされ持ち上げられた状態だった。
「かはっ……」
俺の意識は朦朧とし目から涙が流れ口からは涎と血が垂れ流しになり首の骨は軋んでいた。
朦朧とする意識の中で必死にもがき、何度も何度も奴の顔に蹴りを入れていた…と思う。
そして、数秒後、首の骨が折れる音と共に俺の意識はなくなった。
気付いたら、またいつもの牢屋にいた。
痛覚がないので痛みはなかったが、苦しいという感覚はあった。
そして、あの骨が折れる感覚と音は二度と体験したくないものだ。
ちなみに、目から涙とか一連の行動は全て自動だからな。
勘違いしないように…。
そう言えば、奴に攻撃が当たったんだっけかな。
ダメージは入ってなかったようだけど…。
それに首を鷲掴みにされた時に顔へ何度か足があったようだったけど、あれも攻撃に入るのかな。
俺は、ワクワクしながらスキルを確認する。
◆種族スキル⇒『ヒューマLv4』
◆血族スキル⇒
◆才能スキル⇒
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv1』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv1』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『我流Lv3』
◆ノーマルスキル⇒『格闘Lv5』『毒耐性Lv1』『サバイバルLv1』
となっている。
種族スキルが1から4と大幅に伸びた。
この上がり方は、俺と獣人とのレベル差が大きい事を物語っているな。
流派スキルもLv3になっている。何か技を覚えたかもしれない。
ノーマルスキルの格闘もLv5になっている。
それ以外は変わっていない。
あ、でも、もしかしたら…あの蠢く白いモノが入った白飯を食えば毒とサバイバルが上がるかもしれないな。
いや、冗談だ。まず、生理的に受け付けない。
それにしても、この状態なら案外順調にレベルが上がって行きそうだ。
レベル制でなくスキル制(熟練度制)です。
敵を倒して経験値が入る訳でなく、どのような行動をしたかによって経験値が入る仕組みになっています。
無論、攻撃は相手に命中させないと経験値は入りません。