第3話・降り立った先は牢獄でした
チュートリアル開始です
浮遊感がなくなり地に足が着いたと判断した俺は目を開けた。
「……………」
目を開けるとそこには俺1人しかいなかった。
と言うより個室の中にいる……牢屋という個室だがな。
俺は周りに人人人で埋め尽くされている街を想像していたが見事に砕いてくれた。
さすがに、これはヒドイ。
窓にも扉にも鉄格子がはめられているから、間違いなく牢屋だ。
窓から見える空は漆黒に包まれていて星どころか月さえ見えない。
いや、これが夜なのか昼なのかも判断できない。
耳を澄ますと、誰かの悲鳴と堅い物が砕ける音がする。
何が砕けたのか想像をしたくない。
それ以外にもセ○○スしていような喘ぎ声や、獣のような唸り声やらが聞こえる。
取り合えず、今の俺の状況を把握しようと思う。
自分の体を見てみると、薄汚れた体が目に映った。
装備しているのはボロ布という言葉が似合いそうなほどで服なのかも判断できない。
下着は身体と同じように黒く汚れた布が巻き付いている。
正確には、それが下着というものではないと思うが…。
無論、靴も履いておらず裸足だ。
首には、鉄の輪があり、そこから鎖が伸び床に固定されている。
俺はその鎖を引っ張ってみたが、ジャリという音がするだけで幾ら引っ張っても全く切れそうにもない。
まぁ、当たり前か切れそうな鎖なんて付ける意味ないものな。
次にボサボサの髪の毛の色を確認する為、指で摘んでみると薄赤だった。
義体のようだ。
次はスキル確認だ。
スキルには、6項目ある。
・種族スキル…これはレベルの代わりと思って良い。
ちなみに現在、『ヒューマLv1』と書かれている。ネフィリムとは別で育つのだろうか。
・血族スキル…これは種族固有スキルの事でレベルの概念はない。
ネフィリムの場合は、『義体』『覚醒』がそれになるが、表示されていないところを見ると要レベルアップだろうか。
それとも義体だからだろうか…。
どっちにしろ義体を解除出来ない事には確認は出来ない。
・才能スキル…これはプレイしている内に自動的に低確率で出現するスキルだ。
条件は多種多様らしい。これがあると成長にボーナスが付くようだ。
・流派スキル…UO2と同様と考えるなら、自分が師事している流派のレベルだろう。
現在は、『我流Lv1』ってのが表示されている。
・属性スキル…『無』『火』『水』『風』『雷』『地』『光』『闇』の8属性の事だ。
ちなみに、現在オール1だ。気になる事はあるが今はスルーする。
・ノーマルスキル…これはキャラに個性を付ける為のスキルで、一般的なスキルはこれの事を言う。
現段階でのノーマルスキルの構成はこうなっている。
『格闘Lv1』『毒耐性Lv1』『サバイバルLv1』
の3つで、この状況から見れば悪意をしか感じさせないスキル構成だ。
確か、公式通りならアクティブに出来るスキルは、全部で10つ予備が5つで計15のスキルから自由に選択したり入れ替えたり出来るらしい。
ちなみに、Lvと表記されているが要するに熟練度で、Lv100になるとスキルをマスターした事になる。スキルによってマスターする事で上位のスキルが出現する事もある。
今まで目を逸らしていたが…不自然な程、床には鼠の骨やら蛇の骨やらGの甲殻やらが散らばっている。
まぁ要するに、これを”食ってた”って事なんだろうな。
ウプッ…想像しなければ良かった。
そう言えば、金とか持ってるのかな…。
ははは、冗談だ。この状況で持ってる筈ないよな。
「囚人28号、立て」
チュートリアルクエストも無さそうだし、途方に暮れていると鉄格子の扉の方から声がした。
見下すような目でその男は俺を見る。
「お前、年齢は?」
俺はどう答えて良いのか分らなかった。
いや、まぁ年齢を言うだけで良いのだけど、何か嫌な予感のようなものがした。
「チッ」
問答無用で男は俺の髪を鷲掴みし、足が届かないほど上に持ち上げ容赦なく俺の顔面を手に持っていた鈍器で殴る。
強い衝撃と視界が赤く染まる。
ゲームという事もあって痛覚がなくて良かった。
あったらと思うと…想像したくねぇな。
視界がずっと赤く点滅している。
これって死に掛けって事か?
そんな状況にも関わらす、男は俺を殴り続ける。
中身は男でもこのキャラは女なんだぞ…。
まじで容赦ないな。
「止めておけ。死んじまうぞ」
視界の点滅速度がかなり早くなったところで別の男が殴っていた男を制止する。
「嬢ちゃん。答えたくないのも分るが、自分の立場を考えて見る事だ。
で、年齢は?」
えーと、確か…。
「ッゴホ……16…です」
喋ろうとした時、俺の口から血反吐が出る。
「16ね…」
「見た目どおりのガキか…どうする?
16じゃベルフェゴール様は満足してくれないぞ」
16以外だと何をされていたのだろうか…。
「………ふむ。なら別のやり方で満足して頂こう」
男がそう言った瞬間、男の頭の上に!マークがピョコンと出る。
この男はチュートリアルNPCだったようだ。
「…………」
「何だ?俺の顔に何か付いているか?」
男が隣の男にを見る。
「いや、何も付いていない」
「まぁ…良いか。ヴェル、鎖を外してやれ」
「ああ」
俺を散々殴った男は、ヴェルと言う名前らしい。
ヴェルが床から外した鎖を持ち、まるで犬の散歩のように引っ張って俺を歩かせる。
薄暗く狭くて長い廊下を歩かされる。
各部屋には、俺と同じような格好をした様々な種族のキャラが老若男女入っている。
どのキャラの目も虚ろで焦点が合っていない。
多分、長い間ここにいたら同じ様になるかもしれないな。
とはいえ、俺以外のプレイヤーは見当たらない。
長い廊下は終り次は同じように長い階段を今登らされている。
正直、二人の歩くスピードに着いて行けず時折引っ張られたり早足になったりしている。
漸く階段の終りが見え始め眩しい光が目に飛び込んで来た。
そして、溢れんばかりの声援と罵声が俺の耳に飛び込んできた。
種族は分らないが数百人の人が色物を見る目で俺を見下げていた。
まぁ…要するに、ここは闘技場だ。
「………」
チュートリアルが闘技場って冗談だよね?
「ベルフェゴール様が見ておられる。精々足掻いて見せろ」
俺は無理だと、首を振って抗議する。
「大丈夫だ。死んでも生き返らせてやるよ」
俺、格闘Lv1っすよ?武器も何もないっすよ?
防具がボロ布っすよ?いや、これ防具じゃないけど。
俺の相手と思われる男…どう見ても獣人族の方なんですけど?
しかも、ハルバートっぽいの持ってますけど?
体格差2倍以上ありますけど?
これ、チュートリアルなんですよね?
あ、見た目だけで実は弱かったりします?
「勝てば、武器を入手するチャンスがあるし倒した相手の武器を奪っても良い。
優勝すればベルフェゴール様は何でも願いを聞いてくださる。頑張れよ」
ヴェルではない方の男が俺の背中をパンと叩いて闘技場の中へ向かわせる。
ヴェルの方はというと顎で早く行けと促している。
出口は二人で封鎖されているから逃げる事が出来ない。
もう、やるしかないよな?
俺は、獣人の男の前に立つ。
獣人の男の目は、後がない人間が見せるギラついた目で直視しただけで負けそうになる。
改めて見るとやはり大きい体格で俺に勝てる可能性が皆無としか思えない。
「こんな所に一生居たくないんでな。嬢ちゃんには悪いが死んで貰う」
この男も俺と同じで牢獄に閉じ込められ、ベルフェゴールと呼ばれる男を楽しませ満足させる為の”物”なんだろう。
開始の鐘がなった瞬間、俺の視界は上空へ飛んでいく。
どうも、俺の頭部は体から切り離され中空へ飛んでいる最中のようだ。
首が飛んでも獣人の男の攻撃は止まらず、薄れ行く意識の中、俺の体が切り刻まれていくのを他人事のように見ていた。
切り刻まれる自キャラを見るとは思わなかったな。
痛覚がなくて本当に良かった…。
状況を把握したいし、ログアウトするかな。
「ログアウト」
◆◆◆
取り合えず休憩だ。
俺はHMGを取り外し、周りを見渡すと絢華は俺のベッドで熟睡していた。
絢華は、大分前にE/Oを終了させていたようだ。
デスクの上のデジタル時計を見るとPM23時過ぎと表示されていた。
寝るには少し早いが俺も寝るかな。
ゲームの中とはいえ色々有り過ぎて、精神的にすごく疲れた。
「おやすみ」
チュートリアルの初っ端で死亡という話でした。