7.龍鱗の長城・防衛戦③
「ぐっ....!!力でびくともしやがらねぇ!!だったらっ!!」
屈釖は腕に巻きつく蔓を剣で切り離し、蔓絡人に一気に接近する。
「まず1体目ェェッ!!!」
彼は喉元を狙って横一閃、蔓絡人の頭と胴を切り離した。
屈釖の顔には勝利を確信した笑みが浮かんだ。
しかし。
「うおっ!?」
首を切断したはずの蔓絡人はなおも動き、腕を伸ばし屈釖の右足に巻きつくと、勢いよく引き寄せた。
それに屈釖は体勢を崩され、転倒する。
「んだこいつ....!?まだ生きてやがんのか!!」
「アホッ!!!蔓絡人の急所、核は胸の中心だ!!そこを切らなければ何度でも再生してくるぞ!!」
引っ張られまいと踏ん張る屈釖の元に、紅蓮が怒声を上げながら飛び込み、偃月刀を振るって右足に絡んでいる蔓を断つ。
「おお!すまねぇ紅蓮!!」
「隊長だっ!!さっさと退避しろ!」
急いで足に巻きつく残りの蔓を手で取り除き、立ち上がる屈釖に怒鳴って命令する紅蓮。
だが、屈釖は紅蓮の目を見ながら叫んだ。
「断るっ!!」
「は!?」
紅蓮は思わず口を大きく開けた。
「仲間やられてんのに黙って見過ごすのは...俺の信条に反す!!奴ら倒すまで俺は退がらねぇ!!」
「屈釖.....お前.....」
紅蓮は呆れ、鋭く屈釖を睨んだ。
「それにどのみち、ここに来たからには退くわけにもいかねぇだろ?紅蓮よ!」
屈釖はニカっと笑いながら、再び視線を戦場へ戻す。
その先には、先ほどの蔓絡人に加え、いつの間にか長城をよじ登ってきていた二体の影。
合計三体の蔓絡人が、蔓をうねらせ立っていた。
紅蓮は深くため息をつく。
だが次の瞬間には偃月刀を構え、戦場の空気を一変させるような鋭い眼光を放った。
「.....後で覚悟しておけッ!!」
「そうこなくちゃな、隊長よ!!」
屈釖も剣を構え、三体の亜人を睨み据える。
すると、周囲の兵士達の士気が一気に高まった。
「『赤龍』だ!!『赤龍』が戦ってくれるぞ!!」
「勝ったぁぁぁッ!!!」
長城東部方面軍に『赤龍』の名を知らぬ者はいない。
彼女が前に出るだけで、仲間の背筋は伸び、恐怖が霧のように晴れていく。
それほどまでに紅蓮は兵士達にとって、どんな兵器よりも頼れる存在だった。
「んじゃ行くぞ隊長!!」
「ああ、死ぬことは許さんぞ屈釖!!」
屈釖は雄叫びと共に蔓絡人へと駆け出した。
その背を守るように、偃月刀を携えた紅蓮も一歩も遅れず続く。
三体の蔓絡人は屈釖を狙い、無数の指先の蔓を一斉に伸ばす。
絡め取ろうとするそれらの蔓は、紅蓮の偃月刀が風を裂く音と共に切り捨てた。
「胸の中心!!もらったァァッ!!!」
屈釖の剣が真っ直ぐに突き出され、蔓絡人の胸の中心を貫く。
剣が向こう側へ突き抜けている蔓絡人は動きを止め、そのまま歩廊に倒れ込んだ。
「本当に死んだ!!」
「いちいち気を緩めるな!!」
紅蓮の怒声が飛ぶ。
それと同時に、屈釖の横からもう1体の蔓絡人が、無音で跳躍して迫っていた。
「あっ!?」
瞬間、紅蓮の偃月刀が閃く。
紅い弧を描いた刃が、蔓絡人の身体を三等分に切り裂いた。
胸の中心ごと切断された亜人は再生することなく、バラバラのまま長城の下へと落ちていく。
「助かったぜ、紅蓮!!」
「私から離れるな!」
残る1体の蔓絡人は蔓の尾をしならせ、2人まとめて叩き飛ばそうと振るう。
それを、紅蓮は素早く偃月刀の柄で重い一撃を受け止めた。
「今だっ!!」
「おうッ!!!」
紅蓮が作った一瞬の隙を見逃さず、屈釖の剣は蔓絡人の胸を横半分に切り裂いた。
胸の中心の核も同時に切ったようで、蔓絡人は再生せずに動きを止める。
「よぉっし!!」
「おお!やるじゃねぇかあの新兵!!」
「その調子だ!!蔓絡人を倒していってくれ!!」
「任せとけ!!!」
紅蓮と屈釖の戦いを見ていた兵士達が歓声を上げ、戦意が一気に高まる。
だがその喜びも束の間、鋸壁にずるりと新たな影が姿を現す。
四体の蔓絡人が、うねる蔓を垂らしながら這い上がってきたのだ。
紅蓮が険しい表情を浮かべる中、背後から声がかかる。
「すまない『赤龍』!ここは任せる!!我らは他の箇所の防衛にまわる!」
「ああ、任せろ」
近接隊の兵士達は二人にこの場を託し、他で仲間が苦戦している箇所へ駆けていった。
残されたのは、紅蓮と屈釖、そして新たに現れた四体の蔓絡人。
二人は短く視線を交わし、無言のうちに頷き合うと、再び戦場の只中へと踏み出した。




