53.怪物の記憶
始まりは、子供が植えた一つの豆だった。
豆の根は偶然にも、地中に埋められていた我の死体と繋がり、どういう理屈かはわからんが.....我は蔓の体を手に入れ、この世に蘇った。
最初に我を見た子供は、悲鳴を上げた。
化け物だと怯え、軍を呼ぶと言い出したため我は家を飛び出し必死に逃げた。
生き返った喜びはあるが、それよりもこの体では人の社会に入れない。
軍に見つかれば、間違いなくモンスターとして処理される。
我は隠れつつどうするべきか悩んでいると、雨が降ってきた。
我は橋の下に隠れ、蔓の体を縮こまらせるようにして座り込んだ。
これからどうすればいいのか。
何もわからず、ただ途方に暮れていた。
するとそこに....1人の女が来た。
「貴方もひとりぼっち......?」
柔らかな声だった。
「よかったら私と一緒に暮らさない?」
女の名は蘭玉。
親を病で失い、1人この街で暮らしている女だ。
顔は見えないのでわからないが、その声からかなり若い娘である事はわかる。
行く当てもない我は、迷惑を承知で蘭玉の家に身を寄せることにした。
不思議なことに、蘭玉は我をまったく怖がらなかった。
それどころか。
「貴方、結構可愛いね!」
「かっこいいじゃんその蔓!色々便利そうで羨ましいなぁ〜」
などと、屈託なく言ってくる。
自分が今どのような見た目なのか、我にはわからない。
だが、この娘は少々.....感性がズレているのかもしれない。
日中、蘭玉は機織りの仕事に出ている。
その間は我と、ペットの鶏...名をゴールドが家の留守番を任された。
蔓の化け物に家を任せる....いや、例え我が人間であったとしても、出会ってそれほど時のない存在にこれほどの信頼を寄せるのはいささか不用心すぎないか?
「決めた!貴方の名前はフォルネスト!いい名前でしょ!?」
我が生き返った元人間である事、生前の記憶が朧げで名すら思い出せないことを打ち明けると、蘭玉は我に名を与えた。
自然を感じさせる名前だと、本人は相当に気に入っているのが声音から伝わってくる。
まぁ....我も少し気に入ったが。
「ただいまー!ねぇ聞いてよフォルネストぉぉ〜!ゴールドぉ〜!!さっき街にこぉーんなデッカい荷物持ってるお年寄りがいたの!凄くない!?」
蘭玉は常に我とゴールドに話しかけ、共に遊ぼうとしてくる。
誰かと話すのが純粋に好きなのだろう。
我とゴールドに向けられるその声は、いつも楽しそうだった。
話の内容は他愛もない。
街で見た人のこと、仕事での失敗、些細な出来事。
だが、家から出ることのできない我にとっては、気づけば彼女と喋ることが、この生活における唯一の楽しみになっていた。
そんな日々が気付けば数ヶ月過ぎたある日。
事件は何の前触れもなく起きた
日中、蘭玉が家を空けている時間、3人の盗賊が家に侵入した。
奴らは家を荒らし、蘭玉の大切な家族であるゴールドを殺すとさらに、親の形見らしい宝石の埋め込まれたハープを盗もうとしていた。
我はそいつらを捕まえようと、蔓の腕を伸ばす。
人に向けて蔓を振るうのは、それが初めてだった。
我は力加減を誤り....3人のうち1人を殺してしまった。
残る二人は生きたまま拘束し、やがて帰宅した蘭玉は、震えながらも軍へ通報した。
そして....連行される際、盗賊たちは叫んだ。
「人殺しの化け物がいるぞっ!!!」
「あの家には怪物が住んでる!!」
その言葉が火種だった。
我の存在が噂として街に広がると、蘭玉に疑いの目が向けられ始めた。
危険な生物を密かに飼っているのではないか。
いや、作り出しているのではないか。
彼女は否定した。
そんな怪物はいないと、何度も声を上げた。
だが、信じる者はいなかった。
蘭玉は次第に街の中で孤立していき、「街から出てけ」と迫害が始まった。
それは次第に過激になっていき、ついには石を投げ出す者まで出始めた。
我は家を出て行こうとした。
全ては我の存在が原因だ。
そうすれば、彼女は助かると信じて。
だが、彼女がそれを止めた。
もう二度と1人にはなりたくない、と。
その言葉に、我は逆らえなかった。
我は蘭玉を連れ、街から逃げるように去った。
全ては我の責任だ。
我が蘭玉を、例え命を賭そうと守らねばならない。
この世にただ1人だけの、大切な人を。




