51.未来を生きる
(よし....何とか紅蓮隊長を助け出せた....!突然変なこと言い出してビックリしたけど、あとはこいつを倒すだけだ....!!)
「紅蓮隊長!まずは脱出しましょう!」
「いや、その必要はない」
フォルネストの体内にいる祐基と紅蓮。
祐基がどうにかして外へ出ようと行動を始めた中、紅蓮はそれを拒否した。
「え、必要ない?」
「奴の核の場所は、少なくとも胸の中心ではなかった。過去に一度、そこを突いたがこいつは死ななかった」
「胸の中心じゃない.....じゃあ核はどこに!?」
祐基の声に焦りが滲む。
蔓絡人の心臓ともいえる核。
祐基は、フォルネストも当然胸の中心に核があるものだと、そう思っていた。
それじゃあこいつには核がないのかと言えば、恐らくそれはない。
孫覇によってフォルネストの顔は半分吹き飛んだ。
だが、フォルネストは死ななかった。
しかも苦しむ様子も、痛みを訴える声もなかった。
これは普通の蔓絡人と同じことで、核があるからこそだろう。
核があるからこそ、致命傷にならない。
フォルネストは今、外で体を再生させているはずだ。
核を潰さない限り倒せない。
だけど核が何処にあるのかわからない。
(無敵かよ......)
喉がごくりと鳴る。
だが1人頭を悩ます祐基だったが、その握られた手に力を感じた。
「けど心配するな。お前には私がいる」
そう祐基の手を握りながら、紅蓮は微笑みを見せた。
自信に満ちた声と、迷いのない一言。
その一言に祐基は、底知れない安心感を感じた。
根拠はないが、この人がいれば大丈夫な気がする。
屈釖に似た、そんな何かを。
「隊長....!」
「確証と言える程ではないが、核の場所に心当たりがある。私に任せてくれ」
「はい!」
祐基は考える間もなく答えていた。
迷いも疑いも一切ない、真っ直ぐな返事を。
「.....あの、ところでそろそろ手、離してもらっても....?」
「あ...あぁ!すまない!」
紅蓮ははっとして、力強く握っていた手を離すと、慌てて偃月刀を両手で握る。
(.....女性の手....初めて握ったけど、温かかったな.....)
祐基は初めての経験に胸の鼓動が早くなる。
「......終わったか.....別れの言葉は.....?」
その声が響いた瞬間、二人は反射的に武器を構えた。
その声、フォルネストの声に。
「.....やってくれたな.....人間.......我の体を破壊し.....我の栄養を解放するとは........」
真正面、蔓の壁より徐々にそいつは現れる。
蔓絡人...だが普通の個体とは少し違う。
図体が一回り大きく、顔は西の大陸で見られる騎士の兜を模したような形をしている。
全身が蔓、尻尾が生えているところは普通の個体と確かに同じだが、明確な“格”の違いを一目で感じさせた。
「蔓絡人.....?」
「いや、おそらくこいつが.....フォルネストの本体だ」
「本体....!?」
紅蓮の言葉に、祐基は思わず息を呑んだ。
(こいつが本体....!?じゃあ今までのあの体は.......)
到底信じがたい。
だが、祐基の脳裏にフォルネストの言葉が蘇る。
『......これらは我の子供の様なもの.......全ては我が生み出している.........どこでだろうと......何体だろうと生み出せる..........』
実際、フォルネストは蔓絡人を目の前で生み出していた。
姿形は皆同じだったが、もし仮に形を変えて出せるとすれば、あの体はフォルネストが作った鎧。
フォルネスト本体が操っていただけという考えは確かにできる。
とすれば、目の前にいる奴が本体であってもおかしくはない。
「.....ほう......何故だ.......?」
「お前を見た時....お前がフォルネストだと、あの叫び声と直感で確信した....孫覇も同じようにな。だが気になる点が一つあった。それは...昔見た時と、お前の姿が違っている点だ」
紅蓮は続ける。
「過去に軍が捕らえた蔓絡人を実験でバラバラにした事がある。何度も何度も、環境や閉じ込める場所を変えて。だが何度再生しようと蔓絡人は必ず同じ姿に戻った。恐らく...蔓を伸ばすことはできても、腕や足を増やしたり、体の形を変える事はできないんだろう」
紅蓮は偃月刀を、ゆっくりとフォルネストへ向ける。
「じゃあ.....なんでお前だけは形を変えられた?生物はどれだけ鍛えようと体の形は変えられないぞ」
フォルネストを鋭く睨みつけ、紅蓮が問いただすが、何も答えない。
ただ紅蓮を見据えるのみ。
「違う個体の可能性....と一瞬思いもしたが、お前はあの日の私を知っていた。お前は蔓で自分の体を作ったんだ。あの巨体は人間で言えば服のように着ているにすぎない。核が胸の中心にないのはそれが理由だろ。じゃあ核の場所は何処か....お前の胸だろ」
紅蓮は確信の眼を向けていた。
その考えが間違いない、正解であると確信しているように。
「.....なるほど.....面白い仮説だ.....で.....?仮にそれが正解だったとしてどうする.......その服とやらがなかろうと.....我は他の蔓絡人よりも遥かに強いぞ........」
だが、フォルネストは動じなかった。
それが正解なのか間違っているのか、顔は一切教えてくれない。
「.....どちらにせよ」
祐基はフォルネストに弓を向ける。
「この距離なら...俺の矢は絶対外れないッ!!」
そして放つ。
雷は一直線にフォルネストに命中する....が、矢は衝突と同時に弾かれ、地に落ちた。
「っ.....お前もかよ!?」
「.....当然だ.....蔓の硬度は変わらんぞ.....」
(つまり矢は効かない......状況は大して変わってないか.....!)
祐基は自身の力不足に歯を食いしばった。
(俺にこの蔓をどうにかできる力があれば....こいつも外の体も倒せたはずだ....!孫覇さんだって.....死なずに済んだ.....!俺が....もっと強ければ.....!!)
胸の奥に、どうしようもない悔しさが渦を巻く。
「祐基」
だがその肩に、優しく手が置かれた。
「大丈夫だ、私がいる」
その紅蓮の姿に、祐基は屈釖の姿を見た。
ずっと屈釖に感じていた、きっとどうにかなるという安心感。
その一言で、胸のざわめきが嘘のように消えていた。
「.....また助けられておいて.....まだ沈まないのか........あの時のように恐怖に染まれ.....人間......」
「確かに....私は助けてもらってばかりだ、私を助けたせいで死んだ人もいる。今までの私は....罪だけを背負い、死んで楽になりたいと死に場所を探し続けていた」
紅蓮は胸を張り、声を張り上げた。
「だが、私は決めた。託された想いを...罪と共に背負い生き続けるとな!」
そして、力強く叫ぶ。
「フォルネスト!お前をここで倒し、私は先に進む!祐基と共に...未来を生きる!!」
「.....何度も言わせるな......!我の名を......気安く呼ぶな......!!」
フォルネストが怒りの宿る声を上げると、腕が畝り伸び、迫る。
紅蓮と祐基はそれを躱し、祐基は即座に矢を放つが、当然弾かれた。
「くっ...紅蓮隊長.....!」
紅蓮が祐基に寄り、耳元で小さく告げる。
「祐基、10秒欲しい。それで奴を倒してみせる」




