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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第三章『過去の罪』

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50.貴方が必要

「祐基.....何でここに.....!?それにその怪我......まさかお前まで食われたのか.......」


 祐基の体は、痛々しいほど傷だらけだった。

 特に足と脇腹からは夥しい血が流れ、服は赤黒く染まっている。

 立っているのがやっとにしか見えないその姿は、フォルネストと戦った結果を思わせた。


「いえ....俺は自分で入ってきたんです。紅蓮隊長を助けるために」


 祐基はそう言って笑った。

 だがその笑みは引きつっており、痛みで全身が悲鳴を上げているのを隠しきれていない。

 大したことないと言わんばかりの態度が、逆に痛々しかった。


「隊長....すぐにそこから出しますね!」


 祐基はそう言って、私の元へ歩み寄る。

 そしてまず、私の片腕と手首を壁に張り付けている蔓に手を伸ばした。


「確か長城で聞いたんです、吸収中は蔓を手で簡単に引きちぎれるって....!隊長を吸収してるなら付近の蔓も力を入れれば取れるはず.....!!」

「祐基.....」


 このまま祐基に手を自由にしてもらえれば、床に落ちている偃月刀を使って体を解放できる。

 けど.....。


「私の事はいい.....早く逃げろ!!」

「え、隊長....?」

「自ら食われただと?ふざけるなッ!!」

 

 私は叫んだ。


「お前には心底呆れたぞ....!!私が助けを求めたか!?お前にはこんな所にいるよりもやるべきことがあるだろッ!!」


 何で私のためにそんな危険なことをした。

 何でそんなボロボロになるまで戦った。

 何で逃げてくれなかった。


 .....まただ。

 また私は、誰かを巻き込んでしまっている。


「フォルネストは私の敵だ.....お前の敵は何だ....亜人王だろッ!!!何でこんなやつに命を賭けたッ!!!何で私を助けに来たッ!!何で....!!」

 

 声を張り上げるたび、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。

 お前の弓の才はいずれ『飛龍』にだって届く。

 こんなところで死んでいい人間じゃない。

 間違っても私なんかを助けるために死んでいい人間じゃない。


 早く逃げてくれ、お前まで私のせいで死なないでくれ。

 私に.....これ以上、罪を課さないでくれ......。


「隊長.....」


 祐基は、きょとんとしたように首を傾げた。


「何言ってるんですかさっきから?」

「......は?」

「部下を守るのは隊長の務め、その逆も然り。助けに来るのは当然の事じゃないですか」


 祐基は一切の迷いなく、ただ当たり前の事実を述べるように言った。

 それが当然であると、正しい事であると。


「....私はそのどちらもできなかった.....隊長を殺し....部下を誰1人守れず....お前の屈釖だって殺された......私は....お前達の隊長にはなれなかった......!!」


 脳裏に浮かぶのは孫華隊長の最期の姿。

 そして長城で倒れる部下と....屈釖。

 目を閉じれば、彼らの声が聞こえてくる。


「昨日の夜....孫覇とお前の会話が聞こえた.......」


 どうして私が死んだ。

 どうして守らなかった。

 どうしてお前は生きてる。

 どうして......お前が死ななかった。


「もう.....私は死にたい......生きていても辛いだけだ。私は幸せになれない......それどころか周りを不幸にし続けた........私は死んだ方がいい......皆んなそう言ってる......」


 声は震え、次第に掠れていった。


「もう......私のせいで死んでほしくない........お前まで....私のせいで......死なないでくれ...........」


 涙が頬を伝い、床へと落ちる。

 唯一生き残ってくれた祐基まで失いたくなかった。

 長生きしてほしい、幸せになってほしい。

 そして、できることなら私のことなんて忘れてほしかった。

 

「隊長」


 祐基が一歩、私の正面に立つ。


 森で祐基は、私が屈釖を守れなかったことに激しく怒っていた。

 きっと本心では孫覇と同じように、私を憎んでいるはずだ。


 殴られるかもしれない。

 罵られるかもしれない。

 それでも構わない、むしろそうしてほしいとさえ思った。


 (いや.....いっそのこと殺して.......)

「ありがとうございます」


 .....礼の言葉が聞こえた。

 

「......え?」


 私は思わず顔を上げた。


 祐基は拳を振り上げていない。

 逃げようともしていない。

 ただまっすぐに私を見つめ、穏やかに微笑んでいた。


「思い出したんです。よく考えたら言ってなかったなって、隊長が俺を助けてくれた事を」

「......助けた?」

「兄貴を失って何も考えられなくなって、地面に座り込んでた俺を、隊長が引っ張り上げてくれた。隊長がいなかったら、きっと俺は立ち上がれなかった。隊長がいなければ、俺はずっと座ったまま、塞ぎ込んだままきっと死んでました」


 祐基はまっすぐに私を見つめる。


「だから....ありがとうございます!」


 そこに憎しみはなかった。

 ただ真っ直ぐで、まぶしいほど澄んだ笑顔。

 

「貴方が隊長で良かった!」


 何を言ってるんだこいつは......私のせいで屈釖は死んだんだぞ....?

 私は怨まれて当然の人間だ。

 憎まれて当然の人間だ。

 罵られて当然の人間だ。

 なのに.....。

 

「私が隊長で........良かった......?」

「はい!」


 祐基は迷いなく頷いた。


「私のせいでこんな状況になってるんだぞ......?私は誰1人守ることができなかったんだぞ.....?なのに......」

「貴方だから俺はここまで来れた。貴方だから俺たちは今戦ってる。貴方だから、俺は強くなれた」


 違う.....私のせいでここまで来させた。

 私のせいで戦わせた。

 私は何もしてない、強くなれたのはお前が自分で乗り越えたからだ。

 私は何もできなかった、私は.....。


「一緒にまた戦いましょう。俺には貴方が必要です」


『本当に貴方が求めるべきなのは冷たい硬貨ではなく、貴方を必要とする人の温かい手よ』


 孫華隊長の声が聞こえた。

 あの時の声が。


「必要.......?」

「あなたがいないと、俺は臆病で戦えない。そして、フォルネストも亜人王も倒したら、副司令にお願いして、また2人で部隊を作り直しましょう!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥にくっきりと浮かび上がる文字があった。


 生きたい。


 ぞっとするほど強い感情。


 (ダメだ....この感情は......)


 受け取ってはいけない。

 望んではいけない。

 また誰かを巻き込み、傷つけ、壊してしまう。


「紅蓮隊長が困ったら俺が助けます、何が起こったって助けて、ずっと側で支え続けます」


 そんなこと許されるはずがない。


「どれだけの苦難があっても、俺には紅蓮隊長が、隊長には俺がいます」


 今、ここでそれを許したら....また私は....皆んなを不幸に......。


「紅蓮隊長、一緒に出ましょう!そして....一緒にやり直しましょう!」


 祐基は私に、手を差し出した。

 私にはその手が、暗闇を照らす灯火のように見えた。


 (何でお前は.....私にそこまで......そんな事言われたら......私は.......)


「本当に.....私が必要なのか.....?」

「....はい」

「私がいないと.....お前はダメなのか......?」

「はい!」


 許されないと思う、望んじゃいけない事だと思う。

 けど、その手を....私は。


「......祐基、手が縛られてるんだ。動けない」

「あっそうでした!すいません!」


 祐基は慌てて私の右腕を拘束する蔓に手をかけ、力任せに引き裂いた。

 蔓が千切れ、私の右腕が自由になりゆっくりと指を開閉し、肩を回した。


「それと....私の偃月刀を拾ってくれるか?」

「はい!」


 床に落ちている偃月刀を祐基が拾い、私はそれを右手に持ち。

 

 自らの脇腹に突き刺した。


「ぐっ......っ.....ふぅぅ.....!!」


 刃が肉を裂く生々しい感触。

 熱い痛みが一気に体中へ駆け巡り、鮮血が刃を伝って滴り落ちる。

 床の蔓に赤い模様が付いた。


「な、何やってるんですか隊長!!?」


 祐基は顔を真っ青にして駆け寄る。

 私は歯を食いしばりながら刃を引き抜き、血を払う。

 続けて体を縛っていた蔓を切り落とし、私は自身の体を解放した。

 耐え難い激痛に、そのまま床に崩れ落ちる。

 

「戒めだ.....大丈夫だ......もう」


 祐基がすぐに肩を貸す。

 私は痛みに顔を歪めながらも祐基の肩を借り、しっかりと立ち上がった。


 痛くて仕方ないが、あの日から味わえなかった清々しい気分を感じる。

 さっきまで死にたいと願っていた自分が、遠い過去のように感じる。


「祐基......」


 私は隣に立つ祐基を見た。

 傷だらけで、それでも自分を助けに来てくれた私の部下。


 私はどうしても、こいつの手を。


「ありがとな......お前が部下でよかった。一緒にこいつを倒してくれ」


 握りたくなった。


「....はい!任せてください、隊長!!」


 祐基の手を、私は強く握った。

 感じたことがない温もりを感じる。


 金でも力でも地位でもない、自分を必要としてくれる手。

 ずっと探し続けていた、私が本当に求めた、温もりを.....。

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