49.あの日から
その日のうちに、部隊は長城へと帰還した。
仲間たちはすぐに孫華隊長の救援を求めたが、相手が六荒王のフォルネストである以上、下手に兵を出せば被害が拡大する。
そう判断し、総司令部は動かなかった。
一時的に長城の索敵要員を増やすだけにとどまる。
仲間たちはそれでも、孫華隊長の帰りを待ち続けた。
何度日が落ちようと、雨が降ろうと、亜人が襲撃してこようと、鋸壁から荒野の向こうに孫華隊長の姿を探し続けた。
だが、孫華隊長が帰ってくることはなかった。
1ヶ月後、総司令部は孫華隊長を“行方不明者”から正式に“戦死者”として登録。
仲間たちは皆、その決定に涙を流した。
そして私も、原因であるくせに涙が溢れた。
ようやく私は、自分のしでかした愚かさを心の底から理解したが、何もかもが遅すぎた。
隊長を殺したフォルネストへの怒りは、やがてその原因を作った私へと向けられたが、孫覇が私を庇った。
こんな奴に復讐したって姉さんが悲しむだけだ......と。
孫華隊長の死をもって、第二偵察部隊は解散。
総司令部は隊員達に今後の配属希望を聞き、新たな隊長を迎えた第二偵察部隊を編成する。
私は孫華隊長を探したい気持ちもあり、新たな第二偵察部隊に残ることに決めたが、他の仲間たちは皆、長城から去っていった。
私の顔も見たくない......そう言い残して。
それから私は、何度も何度も偵察任務で荒野に入った。
腕の立つ兵士として隊長を支え続け、幾度もの仲間たちの危機を救い、亜人を倒し続けた。
その働きに、総司令部は私を評価した。
特に東部方面軍総司令部の副司令である師羽藺殿が私を気に入り、紅い刃を持つ特別製の偃月刀を送ってきた。
だが、望んでいたはずの評価も褒美も、私の心を満たすことはなかった。
孫華隊長が亡くなってより三年後。
亜人たちが異常な動きを見せ始めた。
短期間で長城襲撃の回数が激増し、亜人同士の争いが一件も確認できなくなった。
第一、第二偵察部隊はその原因の調査に動いたが不明。
総司令部は原因究明を急ぐべく新たにもう一つ、第三偵察部隊の設立を決定した。
そして、その第三偵察部隊部隊長に私が任命された。
◆
運命とはきっと、こういうものなのだ。
奇しくも私は、あの日の孫華隊長と同じようにフォルネストに殺される。
それがいい、それでいい。
それが愚かな私への罰にふさわしい。
本当はあの時こうなるべきだった。
生き残るべきは私ではなく孫華隊長だった。
私があの時死んでいれば、きっと孫華隊長は今も生きていた。
あの人なら部下たちも守り抜けたはずだ。
私は隊長の器じゃない。
念願だった隊長の座を得ても、何一つ嬉しく思えなかった。
隊長に課せられる責任の重さ、部下を守りたいと思う気持ちを知れば知るほど、あの日の自分を殺したくなる。
しかも私は..... 部下を守り切った孫華隊長とは違う。
誰1人救えなかった。
誰1人守れなかった。
戦う力を持っていながら、私が無能なあまり.....誰1人っ.......!
......死にたい。
考えれば考えるほど、生きているのが辛く苦しくなる。
早く殺してほしい、誰かの迷惑になるのはもう嫌だ。
夢なんか見ず、ゴミの上で死ぬべきだった。
私なんか......。
「もう.....殺してくれ......」
頬を流れていた涙が、温かな布にそっと押し当てられた。
思いもよらない感触に、私は反射的に目を開く。
「嫌ですよ、紅蓮隊長が死ぬのは」
滲む視界の向こう。
弓を手にした、背の小さな男の姿が映る。
「隊長まで死んだら....また俺、きっと戦えなくなっちゃいます」
顔はよく見えない。
だが、その声だけで誰なのかがわかった。
「お前....は.......」
そこに立っていたのは。
「遅れてすいません紅蓮隊長、助けに来ましたよ!」
祐基だった。




