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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第三章『過去の罪』

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49.あの日から

 その日のうちに、部隊は長城へと帰還した。

 仲間たちはすぐに孫華隊長の救援を求めたが、相手が六荒王のフォルネストである以上、下手に兵を出せば被害が拡大する。

 そう判断し、総司令部は動かなかった。

 一時的に長城の索敵要員を増やすだけにとどまる。

 

 仲間たちはそれでも、孫華隊長の帰りを待ち続けた。

 何度日が落ちようと、雨が降ろうと、亜人が襲撃してこようと、鋸壁から荒野の向こうに孫華隊長の姿を探し続けた。


 だが、孫華隊長が帰ってくることはなかった。


 1ヶ月後、総司令部は孫華隊長を“行方不明者”から正式に“戦死者”として登録。

 仲間たちは皆、その決定に涙を流した。

 そして私も、原因であるくせに涙が溢れた。

 ようやく私は、自分のしでかした愚かさを心の底から理解したが、何もかもが遅すぎた。


 隊長を殺したフォルネストへの怒りは、やがてその原因を作った私へと向けられたが、孫覇が私を庇った。

 こんな奴に復讐したって姉さんが悲しむだけだ......と。


 孫華隊長の死をもって、第二偵察部隊は解散。

 総司令部は隊員達に今後の配属希望を聞き、新たな隊長を迎えた第二偵察部隊を編成する。

 

 私は孫華隊長を探したい気持ちもあり、新たな第二偵察部隊に残ることに決めたが、他の仲間たちは皆、長城から去っていった。

 私の顔も見たくない......そう言い残して。

 

 それから私は、何度も何度も偵察任務で荒野に入った。

 腕の立つ兵士として隊長を支え続け、幾度もの仲間たちの危機を救い、亜人を倒し続けた。


 その働きに、総司令部は私を評価した。

 特に東部方面軍総司令部の副司令である師羽藺しばい殿が私を気に入り、紅い刃を持つ特別製の偃月刀を送ってきた。


 だが、望んでいたはずの評価も褒美も、私の心を満たすことはなかった。


 孫華隊長が亡くなってより三年後。

 亜人たちが異常な動きを見せ始めた。

 短期間で長城襲撃の回数が激増し、亜人同士の争いが一件も確認できなくなった。

 第一、第二偵察部隊はその原因の調査に動いたが不明。

 

 総司令部は原因究明を急ぐべく新たにもう一つ、第三偵察部隊の設立を決定した。

 そして、その第三偵察部隊部隊長に私が任命された。



 運命とはきっと、こういうものなのだ。

 奇しくも私は、あの日の孫華隊長と同じようにフォルネストに殺される。


 それがいい、それでいい。

 それが愚かな私への罰にふさわしい。


 本当はあの時こうなるべきだった。

 生き残るべきは私ではなく孫華隊長だった。

 私があの時死んでいれば、きっと孫華隊長は今も生きていた。

 あの人なら部下たちも守り抜けたはずだ。

 

 私は隊長の器じゃない。

 念願だった隊長の座を得ても、何一つ嬉しく思えなかった。

 隊長に課せられる責任の重さ、部下を守りたいと思う気持ちを知れば知るほど、あの日の自分を殺したくなる。

 

 しかも私は..... 部下を守り切った孫華隊長とは違う。

 誰1人救えなかった。

 誰1人守れなかった。

 戦う力を持っていながら、私が無能なあまり.....誰1人っ.......!

 

 ......死にたい。


 考えれば考えるほど、生きているのが辛く苦しくなる。

 早く殺してほしい、誰かの迷惑になるのはもう嫌だ。

 夢なんか見ず、ゴミの上で死ぬべきだった。

 私なんか......。



「もう.....殺してくれ......」


 

 頬を流れていた涙が、温かな布にそっと押し当てられた。

 思いもよらない感触に、私は反射的に目を開く。

 

「嫌ですよ、紅蓮隊長が死ぬのは」


 滲む視界の向こう。

 弓を手にした、背の小さな男の姿が映る。


「隊長まで死んだら....また俺、きっと戦えなくなっちゃいます」

 

 顔はよく見えない。

 だが、その声だけで誰なのかがわかった。


「お前....は.......」


 そこに立っていたのは。


「遅れてすいません紅蓮隊長、助けに来ましたよ!」


 祐基だった。

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